「最近、返事短くてごめんね」電波の届かないキャンプ場で、母に宛てて打ち続けた60件のメッセージ
「うん」しか返さなくなった理由
春から1人暮らしを始めて、母とのやりとりはどんどん短くなっていきました。「ちゃんと食べてる?」には「うん」。ほかのメッセージにも「了解」「大丈夫」。
友達が親からの連絡を軽く受け流すのを見て、いちいち報告するのは子どもっぽい気がしていたのです。
出発前には、母に予定を知らせるメッセージを打ちました。
「明日から2日間、ゼミのフィールドワークで山奥のキャンプ場に行ってくるね。電波が入らないかもしれないから、返信遅れると思う」
送信したつもりで、届いたかどうかは確かめませんでした。
届かない画面に、打ち続けたメッセージ
キャンプ場では、スマホの電波が入りませんでした。昼間はゼミの仲間と植物を調べ、日が暮れるとみんなでカレーを作ります。
誰かの提案で隠し味にチョコレートを入れると、実家で母が作ってくれる味によく似ていました。写真を撮り、母にメッセージを打ちます。
「隠し味にチョコ入れたら、お母さんが作るカレーの味になった!」
画面には送信待ちの表示。それでも、忘れないうちに伝えたかったのです。
星空の写真。調査中に見つけた植物。先輩に教えてもらったこと。普段なら送るほどでもない出来事を、次々にメッセージにしました。
その中には、照れくさくて送れずにいた言葉もありました。
「最近、返事短くてごめんね」
2日間で、送信待ちのメッセージは60件になっていました。
山を下りて鳴りやまなかった通知
山道を下る途中で電波表示が戻ると、送信待ちだった60件が次々に送られていきました。入れ違いに、スマホが何度も振動します。
母からでした。
「ちゃんと食べてる?」から始まり、「お願い、一言だけ返して」。そして、「これ以上連絡がつかなかったら、大学に連絡するね」。
送った60件をさかのぼると、最初にあったのは出発前の予定のメッセージでした。あの連絡は、届いていなかったのです。母は、私がキャンプに行ったことも知らないまま、2日間待っていたのでした。
そして...
慌てて「ごめん、今山を下りて電波戻った。行く前のメッセージ、送れてなかったみたい」と送りました。
すぐに既読がつき、母から返事が届きました。
「よかった。全部ゆっくり読むね」
その言葉で、あの60件をこれから母が読むのだと気づきました。カレーのことも、星空の写真も、「最近、返事短くてごめんね」と書いたことも。母がどんな顔で読むのか想像すると、少し恥ずかしくなりました。
今でも母から「ちゃんと食べてる?」と届けば、「うん」と返すことがほとんどです。でも、たまに写真を添えて、その日の出来事を送るようになりました。
あの60件に何が書いてあったか、母から改めて聞かれたことはありません。それでも、次に実家へ帰ったら、キャンプで食べたカレーの話をしようと思っています。
(20代女性・大学生)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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