「専業主婦になれ」と送ってきた婚約者に、私が返した1文
届いたのは、短い命令形でした
「専業主婦になれ」。
電車の到着を告げる音の中で、その短い命令形を読みました。「は?」と打って、送る前に消します。乗り込んでも、画面から目を離せません。ねぎらいでも、体を気遣う言葉でもない。「おつかれ」の一言があれば、それで足りたのに。仕事の内容を彼に話した記憶が、思い返してもほとんどありませんでした。それなのに、辞める辞めないを決める側に、いつの間にか彼が立っている。既読だけを残して、そのまま家まで帰りました。
私が返したのは、質問でした
玄関の鍵をテーブルに置いて、靴も脱がないまま打ちました。
「それは、私のため?それとも、あなたのため?」
送ってから、化粧を落とし、部屋着に着替えます。通知は鳴りません。どちらの答えが来ても嫌だと思っていたはずなのに、間が空くほど、答えを聞きたくなっていきました。冷蔵庫を開けて、何も取らずに閉めます。
「俺のため」
「倒れるまで働くのを、隣で見てられない」
隣。この1ヶ月、彼と会っていません。私が疲れていることを、画面の中でしか知らないはずの人が、そう書いてきました。だから、そのまま返しました。
「なれ、って命令されると、心配してるんじゃなくて、私の仕事を軽く見てるように聞こえた」
消していた言葉のほうが長かった
「ごめん。本当は、俺の給料だけで生活できるようにしてあるから、無理して働かなくていい、って打ってた。消して、あれを送った」
消した言葉のほうが、届いた言葉より長かったのだと知りました。命令だと思っていたものは、言いたいことを削って削って、最後に残った芯だけだったのです。私の知らないところで、彼は式のあとの暮らしを計算していました。
「そうだったの?」
「そんなの、全然分からなかった」
「言葉が足りなかった。今度会って、ちゃんと話す」
そのやりとりを最後に、私は充電器にスマホを挿しました。
そして...
翌週の休み、彼は会いに来て、消したはずの言葉を今度は削らずに口で言いました。会社は辞めていません。残業も減っていません。ただ、あの画面の「専業主婦になれ」は、消さずに残してあります。その下に並んだ言葉ごと、まとめて消したくないからです。
(20代女性・営業事務)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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