手放した本に自分の字で紙を挟んだ僕が、120ページから先を読めずにいた理由
「読んだら感想を聞かせて」の本
本は6年前、付き合っていた人からもらったものでした。渡されたときの言葉は「読んだら感想を聞かせて」。僕は読むのが遅く、120ページまで来たところで、その人とは別れました。そこから先は、開いても同じページで本を閉じてしまいます。読み進めれば感想ができて、言う相手はもういない。それが分かっていて、先へ行けませんでした。本は3年、120ページで開かれては閉じられました。
自分の字で書いた1行
引っ越しの荷物を減らす日に、その1冊だけ、買い取りの箱に入れる前に開きました。連絡先はもう分かりません。感想を言う約束だけが、渡されたときのまま残っています。僕は白い紙に、あの人の言葉を鉛筆で書き写しました。「感想を聞かせてください」。下にメールアドレスを添え、一度消して書き直してから、120ページの間に挟みました。誰かが最後まで読んで、その先を教えてくれたら、約束は僕の手を離れて果たされる。そう思って、駅前の古本屋の台に置きました。
3年目に届いた、3つの画面
文の書き出しは「3年前に古本で買った本に挟まっていた紙を見て、連絡しています」でした。3度読んだこと、読むたびに感想が変わったこと、最後の章のこと。何度スクロールしても下までたどり着けない長さで、僕は最後の章の段落の手前で読むのをやめ、その先を見ないまま返事を打ちました。「読んでくださって、ありがとうございます。1つ聞かせてください。最後まで読まれましたか」。「3度読みました」と返ってきます。僕は本の事情を、渡された言葉のことから順に書いて送りました。「僕は120ページで止まったままです。この本は、付き合っていた人から、読んだら感想を聞かせてと渡されたものでした。別れてから先を読めなくなって、手放すときに、その言葉を自分の字で挟みました」。
そして...
「最後の章のことを、お話ししましょうか」と届きました。僕は「いえ。あなたの文を読み終えてから、続きを読みます」と返し、本棚の空いたところを見ました。同じ本を、これから買いに行きます。3年前に手放したときは、誰かに読んでもらうことしか考えていませんでした。約束は僕の手を離れて果たされるはずが、届いた文のほうが、僕に続きを読ませることになったのです。
(30代男性・印刷会社勤務)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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