娘のために選んだピアノ教室を断られ、私は自分の勘違いに気づいた
かなえられなかった夢の続き
子どもの頃、近所の家から聞こえるピアノの音に憧れていました。家の事情で習えず、その気持ちを、いつからか娘に重ねるようになりました。
娘は昔から、私の勧めに嫌な顔をしない子でした。1人暮らしを始めて5年が過ぎても、私の中では、送り迎えをしていた頃の娘のままです。
そのため、仕事の予定を聞かずに体験日を決め、先生へ楽譜まで預けました。
娘から電話があり、繁忙期で休みを取りにくいと言われても、私は発表会の話を続けました。はっきり断られなかったため、喜んでくれているのだと都合よく受け取っていました。
居間で聞いた娘の本音
娘が実家へ来た日、私は同じパンフレットをもう1部用意して待っていました。
娘はパンフレットを開かず、私に言いました。
「お母さんの夢は、私の夢じゃないよ」
「あなたのためだと思ってた」
そう返すと、娘はパン作りが楽しいと話しました。次に私の口から出たのは、「せっかくここまでしてあげたのに」という言葉です。
言った直後、自分が娘の意思より、これまで自分がしてきたことを優先していると分かりました。それでも謝れませんでした。間違いを認めれば、子育てそのものを否定されたように思えたからです。
「自分のことは、自分で決めたい」
娘が帰るとき、私はいつもの「気をつけてね」を言えませんでした。
自分の名前で選んだ教室
娘から連絡がない間も、居間のテーブルにはパンフレットが残っていました。片づけようとするたび、「自分で決めたい」という娘の言葉を思い出しました。
私も子どもの頃、自分では決められないままピアノをあきらめています。それなら、今から自分で選べばよいのだと考えました。
私は大人向けの教室を探し、自分の名前で申し込みました。初めてのレッスンで弾けたのは、片手で追う短い童謡だけです。
入会証の写真を娘へ送ると、焼き上がったパンの写真が返ってきました。あきらめた夢は娘に任せるものではなく、自分で始めるものだったのだと分かりました。
そして...
次に娘が実家へ来た日、台所に焼きたてのパンの香りが広がりました。膨らんでいく生地をのぞき込み、私は娘に聞きました。
「今度、教えてくれる?」
娘は粉のついた手を洗ってから、「いいよ」と答えました。以前のように何でも話せる関係へ戻ったわけではありません。それでも私は、娘の予定や希望を聞いてから提案するようになりました。
手帳には、次のピアノレッスンの日と、娘からパン作りを教わる日を別々に書いています。どちらも、今度は自分だけで決めた予定ではありません。
(50代女性・主婦)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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