「料理できるって、嘘だった」ボヤ騒ぎまで隠した俺が合鍵を返すまで
3日間だけの計画
彼女が出張に出ている3日間で、料理を覚えるつもりでした。付き合う前、話の流れで得意だと言ってしまい、2年間ずっと訂正できずにいたからです。俺の部屋にコンロはなく、彼女の部屋なら道具も揃っています。預かっていた合鍵は、彼女の残業が続く時期に宅配や郵便物を受け取るためのものでした。別の目的で使うことへのためらいは、あのときの俺には薄かったと思います。そろそろやってくる彼女の誕生日に手料理を出せば、貫き続けた嘘も本当にできる気がしていました。
報知器が鳴った
油から火が上がったのは、動画の手順を2つ飛ばしたせいでした。コンロの火を止め、鍋にふたをかぶせて火を消し、窓を全部開けたところで、天井の報知器が鳴り出しました。廊下に出てきた住人に頭を下げ、駆けつけた管理会社の人には、コンロの消し忘れだと説明しました。嘘の上に嘘を重ねた瞬間でした。焦げた鍋は袋に入れて持ち帰り、同じメーカーの同じ色の鍋を買って、コンロの上に置き直しました。壁の煤は、何度拭いても薄く残りました。換気扇を止め忘れたことには、部屋を出るまで気づきませんでした。
先回りした謝罪
出張から帰った彼女のメッセージには、「掃除しといたよ」とだけ返しました。鍋のことを聞かれるのが怖くて、それ以上打てなかったからです。翌日、彼女から着信がありました。管理会社から連絡がいったのだと、画面を見た瞬間に分かりました。どう聞かれても答えられるように説明を並べていたはずなのに、通話がつながった途端、先に口から出たのは謝罪でした。
「ごめん。言おうと思ってたんだ」
「何を?私まだ何も言ってないよ」
その返事のあと、俺は電話では謝ることしかできず、直接会って話したいと伝えました。
そして...
数日後、彼女の部屋で、練習のことも、報知器のことも、鍋を買い替えたことも、管理会社についた嘘のことも話しました。彼女が怖かったのは、騒ぎそのものより、俺が伝えずに片づけたことだと言われました。そのとおりだと思います。最後に、一番古い嘘を口にしました。
「料理できるって、嘘だった」
「合鍵、返すよ」と差し出した鍵を、彼女は受け取りました。翌週、管理会社へ原因を説明し直し、壁の補修費用を負担することになりました。もう一度鍵を預けてもらえるかは、彼女が決めることです。今も料理は下手なままです。ただ、都合の悪いことを隠すのだけは、もうやめました。
(20代男性・販売職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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