車内で日焼け止めを塗った私。降車後に待った一言
隣の肘から擦れてついた白い跡
通勤電車のドア付近に立つことが多い、三十代の会社員です。その日も会社へ向かう途中、隣に立っていた高校生らしき女の子が、バッグから日焼け止めのチューブを取り出すのが目に入りました。
手のひらに白いクリームを出して、もう一方の腕に伸ばし始めます。電車が大きく揺れたとき、高校生の女の子の肘が、私のブラウスの袖口に当たりました。日焼け止め特有の甘い匂いが、その場で広がります。
ようやく口にしたひと言
周りは私も含め、肩が触れるほどの距離です。注意した方がいいのか、見て見ぬふりをするべきか、私はバッグの持ち手を握り直しました。彼女の手にはまだ白いクリームが残っていて、そのままにしておけばまた次の人にも触れてしまう。私は声の大きさに気をつけて口を開きました。
「すみません、ここで日焼け止めはちょっと…」
彼女は顔をこちらに向けると、聞こえるか聞こえないかの音量で「は?」と返してきました。視線が私のブラウスを通り過ぎ、また自分のスマホに戻っていきます。次の駅でドアが開くと、彼女は私の横を抜ける際に「うざ」と言葉を落としていきました。
降りていった電車のなかで
ドアが閉まり、車両がふたたび動き出します。私は袖口の白い跡を、ハンカチでなぞるようにして拭き取りました。一駅ぶんの間のあと、間を開けて奥に立っていた女性と目が合いました。
「ありがとうございました」
小さな声でしたが、はっきりと届きました。私は会釈を返したつもりでしたが、声を出すのは諦めました。注意したのは周りの人のためではなく、ただ自分が困っていただけだったんです。そんな思いが、同時に私の中に残りました。
そして...
数日後、新人の後輩が会議室で香水を強く纏ってきた場面に出くわしました。鼻がむずむずして、ひと声かけようかと思ったとき、あの女の子の顔が浮かびます。
私は咳ばらいだけして、自分の席に戻りました。注意することと、自分の不快を相手にぶつけることが、別ものに見える瞬間でした。あの一言の「ありがとうございました」が、私の通勤電車を少しだけ違う場所にしてくれています。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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