「もう少しだけ、誰にも言わないで」と頼んだ彼→友人の前で、私を「ただの知り合い」と否定した
紙皿にのった、ふたりだけの気遣い
料理が回ってくると、彼は私の紙皿にいちばん大きい唐揚げをのせてくれました。周りに気づかれない手つきでした。付き合いはじめたころ、彼には「もう少しだけ、誰にも言わないでほしい」と頼まれていました。
理由は聞かないままでしたが、急かすことでもないと感じていました。その小さな気遣いだけで、隠していることのさみしさは、ほとんど気にならなくなっていました。
「もしかして、ふたり付き合ってる?」
取り皿を交換していたとき、向かいの友人がふと顔を上げました。
「もしかして、ふたり付き合ってる?」
明るい声でした。場の全員がこちらを見た気がしました。彼は短く笑って、「いや、ただの知り合いだよ」と答えました。話はすぐ別の方へ流れていきました。
私は取り皿を持ったまま、飲み物を取ってくると言って席を立ちました。台所の蛇口の水音だけが、やけにはっきり聞こえました。
「知り合い」のひとことが置いていったもの
コップに水を注ぎながら、頭の中では同じ場面が何度も巻き戻っていました。隠したい彼の気持ちは尊重してきたつもりです。それでも、ただの知り合いだと言われた瞬間に残ったのは、自分がこの関係の中で軽い存在なのかもしれない、という心細さでした。
集まりが続く部屋に戻る気になれず、私は先に帰ると彼に短く伝えました。すると彼は、廊下まで追ってきて、スマホの画面をこちらに向けました。
そして...
画面に表示されていたのは、数日後の店の予約でした。仲のいい友人たちに、私のことをきちんと紹介するために取った席だと、彼は言いました。
「本当は、ちゃんと紹介するつもりだった」と続けたのです。
噂みたいに広まるのが嫌で、とっさにごまかしてしまったのだと。彼の段取りは、わからなくはありません。それでも、あの場で否定された事実は消えないままです。今度はふたりで、あの席に座り直したいと思っています。
(20代女性・事務職)
本人記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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