10年前「あんたの成績じゃ推薦は出せない」と告げてしまった教え子→同窓会で渡された名刺を見た私
あの冬の進路指導室
10年前の冬、私は進路指導室で、ある女子生徒の指定校推薦の相談を受けていました。中堅私大の英文科を希望していましたが、彼女の成績では推薦枠に入る可能性はほとんどありませんでした。
「あんたの成績じゃ推薦は出せない」
私は事実をそのまま伝えました。続けて「英文科なんて、もっと真面目に勉強してきた子たちが行くところ」と口にしてしまったことは、今もはっきり覚えています。
彼女は何も言わず、進路指導室を出ていきました。後ろ姿だけがやけに小さく見えたのを、覚えています。
忘れたつもりだったひとこと
彼女は結局、一般入試でその志望校に合格しました。卒業式のあと、彼女と話す機会はないまま、私の手を離れていきました。
長く教師をしていると、自分の言葉に救われたという生徒もいれば、傷ついたという生徒もいます。あの日の私の言葉は、後者だったかもしれない。そう思いながらも、日々の仕事に追われて、彼女のことは記憶の奥にしまい込んでいました。
それでもふとした夜に、あの後ろ姿が浮かぶことが、年に一度はありました。
同窓会で差し出された名刺
先月、市内のホテルで開かれた同窓会に、卒業生のひとりとして招かれて出席しました。私は会場の隅のテーブルでお茶を飲んでいました。
「先生、お久しぶりです」
声をかけられて顔を上げると、見覚えのある顔がそこにありました。10年前の進路指導室で、私がひとことで突き放した、あの生徒でした。私は彼女を見上げ、しばらく目を細めてから「ああ、あなた」とつぶやきました。
「先生のおかげです」
彼女はそう言って、名刺を差し出しました。受け取った名刺には、通訳会社の代表という肩書きが書かれていました。何度か裏返して確認しました。同姓同名の他人かもしれないと思いたくなるほど、私の記憶の中の彼女とは別人のような名刺でした。
そして...
「あの一言がなかったら、今の私はいません」彼女は穏やかな表情で、そう続けました。私はうつむき、小さく頭を下げることしかできませんでした。怒りも当てつけも、彼女の声には混ざっていませんでした。
ホテルを出ると、外は雪が降り始めていました。私の言葉は、彼女にとって呪いだったかもしれない。それでも彼女は、その呪いを自分の力で踏み台に変えていました。教師という仕事の重さと、自分の浅さを、25年目にして教えてもらった夜でした。
(60代女性・高校教師)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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