親友に「失ってから気づいても遅い」と言われた俺が、変わったことを彼女に頑なに認めない理由
「失ってから気づいても遅い」
3カ月前、親友が長年付き合った彼女に振られました。彼女の方から「あなたは私を大切にしてくれなかった」と言われたそうです。普段はおどけてばかりの親友が、その夜の飲み屋では別人のように沈んでいました。
何杯目かのビールが空になった頃、親友が言いました。「お前は今のうちに伝えとけ。失ってから気づいても遅い」本気でした。うまく返せないまま、グラスを傾けるだけでした。
帰り道、その言葉が頭の中で何度も繰り返されました。俺は彼女に、ちゃんと感謝を伝えてきただろうか。多分、伝えていない。終電の窓に映る自分の顔が、いつもより冴えなく見えました。
ひそかに変えていったもの
翌朝から、俺は少しずつ態度を変えてみることにしました。彼女からの「おはよう」にはすぐ返す。送ってくれた料理の写真には「うまそう」と一言添える。デートの帰り際には「今日ありがとう」と送る。
大げさなことはしません。気づかれないくらいの小さな変化を、こっそり積み重ねていきました。「変わったね」と言われたくなかったわけではない。むしろ言われたかったのかもしれません。ただ、認めるのは別の話でした。
何より、自分の中でしっくりこないのです。「変わった」と認めることは、それまでの自分が「冷たかった」と認めることになる。そう思うと、素直にうなずけませんでした。
「気のせいだろ」と返した夜
ある日曜の夜、彼女からメッセージが届きました。
「最近、優しくなったよね」
すぐに「別に変わってない」と返しました。続けて「変わったよ。前は『ありがとう』も言わなかったし」と届きました。
画面を見つめながら、少し迷いました。認めてしまえばいいのに。けれど指は勝手に「気のせいだろ」と打ち込んでいました。送ったあと、明日の予定の話題に切り替えました。
その週末、家で映画を観たあとも、彼女はもう一度聞いてきました。
「やっぱり変わったよね?」俺は缶を手に取って頬を掻き、「だから別に変わってないって」と返しました。打ち明ければ納得してもらえる気はします。でも理由が自分の意思ではなく親友の失恋からだと言えば、彼女に対する誠意が薄っぺらくなってしまう気がしたのです。
そして...
帰り道、駅まで彼女を送って、改札の前で「今日もありがとう」と口にしました。彼女は少し驚いた顔をしてから、「こちらこそ」と小さく笑い返してきました。その表情を見て、認めなくても伝わっているのだと思いました。
親友の失恋がなければ、俺は彼女の優しさに気づかないままだったかもしれません。情けない話だと思います。けれど、変わるきっかけが何であれ、変わり続けることはきっと俺自身の意思でできるはずです。
だから、これからも認めるつもりはありません。「気のせい」と言いながら、ひっそり優しさを積み重ねていく。それが俺なりの、不器用な誠意のつもりです。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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