予防接種後は「7時間以上の睡眠」が重要! ワクチン効果を最大化するコツ【プライマリーケア医が解説】
【医師が解説】ワクチン接種の効果を最大限に引き出すために、「7時間以上の睡眠」が重要なことが明らかになりました。接種当日だけでなく、接種後2~3日の良質な睡眠も重要です。免疫を強めるための具体的なポイントを、分かりやすく解説します。(※画像:アマナイメージズ)
インフルエンザワクチンやCOVID-19(新型コロナウイルス)ワクチンなどの予防接種を受けるとき、「ワクチンを打った日はよく眠ったほうがいい」と言われた経験はありませんか?
実はこの説には、しっかりとした科学的根拠があります。最新の研究によって、睡眠とワクチン効果の関係がより明確になってきました。睡眠とワクチン効果の関係について、分かりやすくお伝えできればと思います。
睡眠不足はワクチン効果を下げる? 最新研究が示す「睡眠と免疫」の確かな関係
まずは、睡眠がなぜワクチンの働きに影響するのかを押さえておきましょう。
私たちの体には「免疫システム」という仕組みが備わっています。ワクチンを接種するとこのシステムが働いて、病原体に対抗する「抗体」を作り出します。そしてこの抗体を作る過程において、睡眠が非常に大きな役割を果たしているのです。
睡眠中は免疫細胞がより活発に働き、抗体を作る準備や記憶細胞の形成が進みます。つまり、十分な睡眠を取ることで、ワクチンが本来持つ効果を最大限に引き出せるのです。
東京都医学総合研究所が発表した研究結果をご紹介します。この研究は「メタアナリシス」という手法を用いて行われました。メタアナリシスとは、複数の研究結果を統合して分析する、科学的に非常に信頼性の高い研究方法です。
この研究で明らかになったのは、客観的に測定した「6時間未満」の短い睡眠は、インフルエンザワクチンやB型肝炎ワクチンなどにおける抗体応答を有意に低下させるという事実でした。
つまり、睡眠時間が6時間を下回ると、せっかくワクチンを接種しても期待される免疫効果が十分に得られない可能性が高くなるということです。これは、忙しい現代社会を生きる私たちにとって、重要な発見と言えるでしょう。
さらに興味深いことに、COVID-19のmRNAワクチン(いわゆるファイザーやモデルナのワクチン)においても、同様の現象が確認されています。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の研究では、mRNAワクチンのブースター接種後、睡眠時間が長い人ほど3日目・7日目の抗体価が高いことが示されました。
この研究が特に注目すべき点は、ワクチン接種後「数日間」にわたって睡眠の質が抗体産生に影響を与え続けるということです。つまり、接種当日だけでなく、その後数日間の睡眠も免疫効果には重要であることが科学的に証明されたのです。
なぜ睡眠で免疫が強くなるのか? T細胞・抗体産生・炎症調整のメカニズム
それでは、なぜ睡眠がこれほどまでにワクチン効果に影響するのでしょうか。
実は、私たちの免疫システムには「体内時計」があります。夜間、特に深い眠りについている間に、以下のような重要な免疫活動が活発化します。
・T細胞の活性化:将来の感染に備えるための記憶づくりを進める
・抗体産生の促進:B細胞という免疫細胞が抗体を作る働きを高める
・炎症反応の調整:必要な免疫反応を維持するために、炎症のコントロールを整える
・メモリーT細胞の形成:長期間続く免疫の基盤づくりを進める
さらに、睡眠中には成長ホルモンやメラトニンなどのホルモンが分泌されます。これらは直接的に免疫機能を促進し、ワクチンに対する体の反応を最適化する役割を果たしています。
反対に、睡眠不足の状態が続くとストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌され、免疫機能を抑制してしまうことが知られているため、注意が必要です。
ワクチン効果を最大化する具体的な対策法……接種前後の過ごし方と実践ポイント
エビデンスを踏まえて、ワクチンの効果を最大限に引き出すための、実践的なアドバイスをお伝えします。
・接種前日:7~8時間の十分な睡眠を確保しましょう。体調を整えることで、ワクチンに対する体の反応を最適化できます
・接種当日:できるだけ早めに就寝し、8時間以上の睡眠を目指しましょう
・接種後2~3日:研究結果を踏まえ、この期間も7時間以上の睡眠を心掛けましょう
・規則的な睡眠リズム:毎日同じ時間に就寝・起床することで、体内時計を整えます
・睡眠環境の整備:静かで暗く、適温(16~19度程度)の環境をつくりましょう
・就寝前の過ごし方:スマートフォンやパソコンの画面を見るのは就寝1時間前まで。読書や軽いストレッチがおすすめです
・カフェインの摂取時間:午後2時以降のカフェイン摂取は控えめにしましょう
・適度な運動:日中の軽い運動は夜の睡眠の質を向上させます
仕事や家事、育児などで忙しく、「7時間以上の睡眠なんて無理……」という方もいると思います。でも大丈夫です。短期間の睡眠調整でも、ワクチン効果に大きく影響することが研究で示されています。完璧を目指さず、「できる範囲で」取り組んでいただければ十分です。
特別な配慮が必要な場合の工夫のコツ……高齢者・育児中・シフト勤務の場合は?
睡眠に関して特別な配慮が必要な方々についても。
<高齢者の方>
加齢とともに睡眠の質が変化することは自然なことです。夜間に何度か目覚めてしまっても、トータルで7時間程度の睡眠時間を確保できれば問題ありません。昼寝をうまく活用して、1日の総睡眠時間を調整していただくのも1つの方法です。
<小さなお子さまがいるご家庭>
育児中は睡眠が細切れになりがちです。接種前後だけでもパートナーや家族と交代して、ワクチン接種前後だけでも少し長く眠れる時間を確保できると安心です。
<シフト勤務の方>
不規則勤務の方は、接種のタイミングを連休前にするなど、連続して休める日の前に設定することをおすすめします。無理なく体を整えられるよう、勤務先と相談するのもよい方法です。
誰でもすぐ始められる点も魅力! しっかり眠って効果的な免疫維持を
今回ご紹介した研究は、私たちにとって実用的な発見だと思います。なぜなら、「よく眠る」だけの、誰でも手軽にできる行動で、ワクチンの効果が高められるからです。特別な薬や高価なサプリメントは必要ありません。質のよい睡眠を心掛けるだけで、ワクチンが本来持つ力を最大限に引き出せるのです。これは、現代医学が私たちに贈ってくれた素晴らしい知見だと感じています。
もちろん、完璧を求める必要はなく、生活スタイルや体質、環境は人それぞれです。「睡眠も健康づくりの重要な要素である」と意識していただくことが重要です。
■参考
・東京都医学総合研究所 - 睡眠不足によるワクチン接種後の抗体反応低下
https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info163.html
・国立精神・神経医療研究センター - ワクチン接種後の睡眠時間と獲得抗体価が相関
https://www.ncnp.go.jp/topics/2023/20231214p.html
0歳から100歳まで1世紀を診るプライマリケア医。小児科・内科の2つの専門医として、感染症、アレルギー、生活習慣病まで、幅広い診療と執筆活動を行っている。
執筆者:武井 智昭(医師)
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