キルケゴール「心理学」に見る男性が浮気をするとき【ひとみしょうの男ってじつは】
心理学の大家(たいか)であるフロイトやユングがこの世に生まれる前に「心理学」した人はキルケゴールです。心理学をかぎかっこでくくったのは、それが科学ではなく「深い人間洞察」だからです。
つまり、今の心理学(つまり科学)が人間心理について言及するよりも前に、キルケゴールは「心理学」していたのでした。
さて、今回はそのキルケゴール「心理学」に、男が浮気するときについて見てみたいと思います。
3種類の人がいる
キルケゴール「心理学」によると、人間は3つに分類されます。
1.「寂しいからセックスしたい」と思い、実際にそうする人
2.善く生きるべきだと思い、実際に自己反省的に生きるものの、時に寂しくてつい、セックスしてしまう人
3.自分の中の「永遠」に気づいて、それに生きている人
そのうちの1と2の人が浮気します。これは男女問わず言えることです。
以下に具体的に見ていきましょう。
寂しいからセックスする
まず1の人について。
この人はようするに快不快を基準に生きています。お金があればハッピー!なければアンハッピー。セックスできる相手がいればハッピー!いなければアンハッピー。お酒を飲んでエロい気分になればさあセックス!という人です。
浮気で言えば、本命の彼女が忙しくてデートできない、でも俺はセックスしたい、だからマッチングアプリでセックスの相手を探して、というケース。あるいは、本命の彼女の友だちを気に入ってしまって、向こうも彼のことを気に入ってしまってセックス、というケース。ようするに「お前サルか」というのが、寂しいからセックスする人。まあ、浮気常習犯でしょう。
ちなみに、男でモテる人は特定の彼女をつくることなくこのパターン1に生きています。あるいは、女子で「わたし3年彼氏いないんですぅ」と言いつつ、不特定多数の男子とセックスしている人も、このパターン1の人です。
「べき論」に生きる善良な市民
次に2について。これは「べき論」に生きる善良な市民、つまりあなたのことです。
つねに精一杯生きており、「これはこうすべき」「あれはああすべき」などと意思を強く持ち、うまくいかないと自己反省し、つねに理性的に、倫理観を強く持って暮らしているあなたのことです。そのあなたがなぜ浮気するのか?
なにか強いきっかけがあれば、つい、いけないと思っても浮気してしまうのです。
たとえば、仕事にきわめて真面目な課長(男)が、新入社員でおじさん好きの女子にメールやLINEでそれとなく好きと言われ続け、あげく、ふたりで仕事の打ち合わせと称して飲みに行くことになり、そのままラブホテルに、みたいなケース。
課長は倫理観が強いので、浮気した自分を責めます。いや、浮気する前から自責の念でいっぱいです。でも、自分の中の「永遠」に気づいていないから浮気するのです。
言葉で言い表せないなにか崇高なもの
自分の中の永遠とは、言葉で言い表せないなにか崇高なもののことです。たとえば、素晴らしい映画や音楽会のあと、誰とも口をききたくないと思ったことのある人は、そのとき心を支配しているなにかがそれです。
誰に教わったわけでもないのに、「もっと神がかった善い作品を作りたい」と願うアーティストや、「もっと神がかったプレーをしたい」と切望するアスリート、と言えば、なんとなくイメージが湧くでしょうか。
アーティストやアスリートではない私たち一般人の心の中にも「永遠」は住んでいます。それはたとえば「より善く生きたい」と願う「もうひとりの自分」とでも言いましょうか。
「永遠」の存在を知り、それに向かって生きている限り、私たちは浮気したいとは思いません。そう思う心の暇がないからです。
男性限定の「浮気するとき」?
というわけで、上の1と2の人は浮気します。これは先に書いた通り男女に共通する話です。
では、男性限定で言える「浮気するとき」とは?
う~ん……じつはそういうのはないのでしょうね。たとえば、男女で性欲が湧いてくる仕組みが違うとされているようですが(たとえば女子は生理前にセックスしたくなるなどとネットに書かれてある)、そういうのはじつは些末なことであり、大局的に見ると男女とも、上の1と2のタイプの人が浮気するのではないでしょうか。
少なくともキルケゴール「心理学」は私たちにそう言います。それはきっと、浮気というのは単なる性欲がもとなのではなく、なんらか人間に共通する心の働きがもとになっているからではないでしょうか。
唯寂論(ゆいじゃくろん)
キルケゴールは浮気について具体的に言及していませんが、彼の「心理学」からわかることは、「なんか寂しい」という自分の気持ちと対話しない人が浮気するということです。(じつは)生まれてから死ぬまで「なんか寂しい」という気持ちに支配されている私たちは、だから浮気する可能性を秘めているのです。その可能性を潰したいのであれば、自分の中の「永遠」に向かって生きる生き様に変更することだとキルケゴールは言います(これはそう明確に書いてあります)。
自分の中の永遠、つまり「より善く生きたい、より善いものを生み出したい」となぜか願う自分と絶えず対話することで、浮気しない人になれます。
が、それでも、キルケゴールに言わせると、厳密には人は死ぬまで「なんか寂しい」と思い続ける生き物なので、100%浮気の芽を摘むことはむずかしい。でも「ほぼほぼ」可能です。
※参考 ひとみしょう『希望を生みだす方法』玄文社(2021.11)
(ひとみしょう/作家・キルケゴール協会会員)
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