「冒険者たち」

フォークデュオ“あのねのね”出演の幻の映画作品「冒険者たち」は令和の世にこそ必要な“苦い薬”

2025.04.03 18:00
「冒険者たち」

日本では毎年1,000本以上の映画作品が公開されるが、のちにDVD化や映像配信、テレビで放送されるのが当たり前に感じている人も多いはず。しかし中には配信もパッケージ化もされず、“幻の映画”となった作品も存在する。さまざまな事情が絡んでいるため一概に「幻の映画」が生まれた理由を語ることはできないものの、当然映画好きや出演キャストのファンにとっては垂涎の作品ばかり。たとえば清水国明と原田伸郎によるフォークデュオ・あのねのねが出演した映画「冒険者たち」は、同グループ初の主演となった伝説のタイトルだ。映画の衝撃的な内容もあってかあまり語られることのない同作を、令和のいま改めてひも解いていく。

半世紀の昔に生まれた幻の映画作品「冒険者たち」

1975年4月に限定公開された日本映画「冒険者たち」。同作品は当時人気絶頂だったフォークデュオ・あのねのねが主演を務めた唯一の映画作品でもある。

タイトルだけを聞くと1967年に公開されたフランス映画「冒険者たち」を連想する方もいるかもしれないが、本作品は1970年に広島で発生した旅客船乗っ取り事件…いわゆる“瀬戸内シージャック事件”をモチーフにした作品だ。

主演のあのねのねは、70年代に「赤とんぼの唄」をはじめとした名曲で一世を風靡したフォークデュオ。初期メンバーとして笑福亭鶴瓶も名を連ねていたことで知られているが、「赤とんぼの唄」でデビューするころには脱退していたという。

1973年度日本有線大賞大衆賞を受賞すると、かわいらしいコミックソングで人気を確固たるものにしたあのねのね。1979年にはそれぞれタレントとしてソロ活動を始めるのだが、2019年のライブ開催や2023年の「デビュー50周年コンサート」など折に触れて活動を続けてきた。

清水は「噂の!東京マガジン」(TBS系)でも知られる昼の顔だったが、その明るく朗らかな印象はそのまま作詞を担当していた楽曲にも表れている。だが特に面白い巡り合わせがあったのは、2022年の「ネコ、ニャンニャンニャン」ブーム。1979年にリリースされた同楽曲が、若者の間で動画サイト「TikTok」に投稿するダンス動画の音源として話題になったのだ。

年月を経てもなお愛される清水と原田の楽曲。そんな彼らによる初主演映画が「青春の苦さ、閉塞感」を描いたタイトルだったというのは、かなり意外なチョイスだったといえるだろう。

鬱屈した若者たちの変節…観る者に問いを投げかける深みのあるストーリー

本作品のタイトルにある「冒険」というワードからは、高揚感やワクワク感、希望といった前向きなイメージを持つ人が多いはず。物語の前半まで、その感覚は正しい。

幕末の志士が隠した財宝を探すため、瀬戸内海の無人島に訪れた4人の青年たち。かつてよく遊んだ幼馴染のケン(清水)とヒデ(原田)の2人は、<もぐり>という名の高校生(小見山靖弘)が海底の宝探しをしているところに出くわす。もぐりは立石孫一郎という幕末の長州奇兵隊出身者が隠したとされる財宝を探していた。そこに孫一郎のことを調べていた東京の女子学生ユミ(黒沢のり子)も仲間に加わり、4人は奇妙な連帯感で結ばれていく。

ボーイミーツガールの王道的導入だが、本作品が扱うのは単なる青春の輝きではなく鬱屈した若者たちの変節。実際に起きたシージャック事件はあくまでモチーフで、同作は社会の閉塞感にあえぐ若者たちが少しずつ少しずつズレていく歯車をどうにもできないという悲惨さを描いている。

夢を追い求めたはずの主人公たちは、次第に理想と現実の狭間でもがき、かつての純粋さを失い変わり果ててしまう。環境による挫折と“一時の過ち”が、どれほどの早さ・大きさで壁となって人生に立ちはだかるのか…それらを鋭く描き出した。

“苦味”こそが本作の魅力であり、物語に深みを与えているといっても過言ではない。1975年といえば第一次オイルショックの発生から間もない時期であり、物価の高騰によって日本経済が大混乱に陥っていた時代。若者はもちろん、社会全体に生活不安が広がり始めていたときでもある。

昨今の「若者の貧困」「闇バイト」などといった問題にも通ずる、令和のいまこそ見返したい“苦い薬”である「冒険者たち」。しかしデジタル化ブーム以前の作品でもあり、かつパッケージ化もされなかったため同作を視聴する機会は少ない。

そんななか、CS放送「衛星劇場」が「令和によみがえる。懐かしのちょいレア劇場」特集で4月4日(金)朝8時30分、4月9日(水)午後6時45分より同作を放送する。“ちょいレア”というにはなかなか貴重な視聴機会だ。

ちなみに衛星劇場の同特集では、併せて1998年に公開された老人ホームで巻き起こる人間模様を描いた感動作「一本の手」も放送予定。

デジタル化が浸透して、いつでも好きな時に好きな作品を見られる令和の世。ただそうしたサブスクのラインナップに加えられていないタイトルにも、見ておくべき名作は多い。令和の世にこそ見て学ぶべき、振り返るべき価値観や人間観が詰まったレトロなレア映画を、ぜひ探してみて欲しい。

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