フレッシュなメンバー集った映画「水深ゼロメートルから」 奇跡的なエピソード続出の「第29回 釜山国際映画祭」レポート
10月23日にBlu-rayが発売された映画「水深ゼロメートルから」。10月9日には「第29回 釜山国際映画祭」にて韓国プレミアをおこなっており、拍手喝采を浴びていた。満席の劇場で語った舞台裏レポートをお届け。
韓国プレミアでも大反響を獲得した「水深ゼロメートルから」
韓国で開催された「第29回釜山国際映画祭」にて、山下敦弘監督による映画「水深ゼロメートルから」の韓国プレミア上映がおこなわれた。10月9日(水)の上映後Q&Aセッションには、メインキャストの濵尾咲綺と清田みくり、プロデューサーの久保和明の3名が登壇した。
釜山国際映画祭はアジアを代表する映画祭であり、1996年に創設された国際映画製作者連盟(FIAPF)公認の長編映画の祭典。山下監督作品は「ばかのハコ船」(02)で初めて同映画祭に選出されて以来、「もらとりあむタマ子」(13)、「オーバー・フェンス」(16)など、何度も招待されている縁の深い映画祭でもある。本作は“アジアの若者”をテーマにした「特集上映部門」にて選出。こちらは才能あふれる監督の待望のプレミア作品などが紹介される部門となっている。
本編の上映が終わると、会場には大きな拍手が沸き起こった。熱気冷めやらぬなか、メインキャストの濵尾と清田、久保プロデューサーが映画祭の醍醐味でもあるQ&Aの舞台に登壇。登壇直後の挨拶では、久保プロデューサーが「山下監督も釜山に行きたがっていましたが、今日は、私たちで楽しい時間に出来たらと思います」と挨拶。
残念ながら会場に来られなかった山下監督にも言及した久保プロデューサーに続き、濵尾は「アンニョンハセヨ。濵尾咲綺イムニダ。チャル プタットゥリムニダ(よろしくお願いします)」と元気よく韓国語の挨拶を披露する。同じく清田も「アンニョンハセヨ。清田みくりイムニダ。チャル プタットゥリムニダ(よろしくお願いします)」と続き、明るい笑い声と拍手が会場に広がった。
挨拶後、早々にチケットが完売した満席の劇場で鑑賞した熱量の高い観客からの質問タイムがスタート。最初の質問として「どうやってこの演劇が映画化されたのですか?」と聞かれると、久保プロデューサーは「実は、私たちが高校演劇を映画化するのは2回目。1回目の時に、この取り組みが高校演劇や映画業界にとって有益だと感じることができた経験があり、若い世代の方々の今後のステップアップにつながるいい映画が制作できたのが大きいですね。それが『アルプススタンドのはしの方』という映画。この成功体験を踏まえて次作を作りたいと思い、他のプロデューサー陣と1~2年かけて考えたのが「水深ゼロメートルから」。そこから映画化に至りました」と裏話を披露した。
続いてキャスト陣が「この映画に参加することになったきっかけや、ご自身が演じたキャラクターについて」を投げかけられると、濵尾は「私は、2年前の舞台のオーディションをきっかけにココロ役として参加させていただきました。ココロを演じる際は、私自身も中学生のころ、モデルの仕事をしていた関係で『かわいくいなきゃ』というプレッシャーを感じる場面も多く、その点をすごく共感しながら演じました」と自身の過去の経験が活きたことを語る。
清田は「私がこの映画に参加したきっかけは、映画化に伴うオーディションに応募したことです。演じたチヅルに関しては、自分の性格とは対照的で明るく元気なキャラクターなので自分自身が役から元気をもらいながら演じていました」と役に入り込んでいた様子を語った。
また、演劇を映画化する際の演出面について話が及ぶと、久保プロデューサーは「まず、この原作は当時高校生だった女性が手掛けたものということを考えていただきたい。その上で、演劇を映画化する際に山下監督が悩んだ点としては“柱の数”。演劇の場合は柱が少なく、ずっとプールの底で物語が展開されていく。映画の場合だと、いつどのタイミングで柱を作ってシーンを切り替えるか、視点を移すかなどのバランスを考えるのが山下監督の最初の作業でした。あとは、撮影時の最大の敵は“天候”。雨が一日でも降ると、撮影を何日も延期せざるを得ない状況でした。幸運にも撮影期間中の10日間は全く雨に降られず晴天が続きました」と奇跡的なエピソード披露すると、会場の観客から驚きの声が上がった。
山下監督の挑戦と、観客への信頼
さらに多数の手があがり、熱心な質問が続く。「この映画は、集中させられる魅力を持っている作品だと思いました。カットの数が少ないことは理解しているのですがサウンド、カラー、演技など全ての要素が人を引き付ける魅力があると思ったのですが、それについてどうお考えですか?」という質問に対し、久保プロデューサーは少し考え込んだあと「山下監督の演出プランの一つとして、今作ではカットをたくさん割ることや、ズームなどを極力減らしていく方針があったのだと思います。カットを割る必要がなければ割らない。寄る必要がなければズームはしない表現を探っていたように感じます。そうすることで、観客が集中してそれぞれ見た人の心の中で物語がもう一つ完成していくような演出に、この映画の客観性のプランを感じました。とてもストイックに映画らしく作った作品だからだと思います 」と監督の演出にかける想いやこだわりが垣間見れるコメントをこぼす。
続けて「実は、チヅルの砂をグラウンドに返しに行く最後のシーンについて、山下監督はクローズアップにすべきか引きの画にすべきかを一日迷った結果、引き画を選び、映画の中の大切なワンカットとして観客に委ねることを選択したのかもしれません」という貴重なエピソードも披露した。
また「おふたりの演技がとても素晴らしかったです!特に、清田さんは自分の性格とは正反対のキャラクターを演じたとおっしゃっていましたが、山下監督からの印象的な演出はありましたか?」という問いに対して、清田は「監督と話し合ったことは、“チヅルはとても幼い”ということでした。また、私の演技に対して監督が否定する感じでなく、むしろ乗っかってくれたことで、自信をもって演じることができました」と撮影を振り返る。
観客からの質問は続く。「先生についてのお話も聞かせてください」と聞かれると、濵尾は「ココロは山本先生と対峙するシーンがあるのですが、高校時代の一番怖い生徒指導の先生に山本先生が似ていて本当に怖かったです。実際に、セリフでも強い言葉をかけるのですがそのシーンはココロとして“言うぞ!”と覚悟を決めて臨んだシーンでした」と回答。また、「舞台の時は山本先生も方言を話していたのですが、映画版は標準語だったのでその違いが先生の冷たさに繋がっているのかなと思います」と”山本先生”に関して言及した。
「海外の方にどのように作品を受け取ってもらえるか」と緊張をしていた濵尾、清田、久保プロデューサーだったが、その後も時間内に全て答えきることができないほどに質問がつづき、会場を出てからもサインや写真を求める大勢のファンに囲まれ、大充実の韓国プレミア上映となった。
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