菅田将暉、今やネットは「一大メディアとなってから、ユーモアが少なくなってしまった」映画<Cloud クラウド>
菅田将暉が黒沢清監督と初タッグを組んだ映画「Cloud クラウド」が9月27日(金)に公開される。同作は、映画「スパイの妻」(2020年)で「第77回ベネチア国際映画祭」銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した黒沢監督の最新作で、憎悪の連鎖から生まれる“集団狂気”をあぶり出すサスペンス・スリラー。菅田将暉演じる、転売で稼ぐ吉井の仕事が軌道に乗り出した矢先、周囲で不審な出来事が重なり、これまでの「日常」が壊されていくようすを描く。主人公の吉井を演じた菅田に本作への思いや見どころ、またネット犯罪についての見解も語ってもらった。
「30歳になり、ステップアップしたいと思っていた」
――本作に出演する話を聞いた感想から教えてください。
まず、黒沢さんからオファーをいただけたという事が嬉しかったです。いつかはいつかはと思っていて、個人的にベストのタイミングで呼んでもらえました。30歳になり、ステップアップしたいと思っていた時期だったんです。ジャンル的にもあまりやってこなかったので挑戦したいというのもあって。スリラー作品は自分が見る娯楽としてはとても好きなジャンルです。
――台本を読まれた感想はいかがでしたか?
面白かったです。一気に読める台本で、黒沢さんらしい、無駄がなくてスマートで、でも怖さがあって、刺激的な台本でした。
――黒沢監督から本作に関してどんなお話がありましたか?
この映画で、いわゆる警察やヤクザなどでない人たちが銃撃戦になっていくという、日本ではあんまり見たことがないガンアクションの映画をやりたいという話はありました。その中で真面目に悪事を働く男を演じてほしい、と。僕としては吉井をわかりやすいキャッチーなキャラクターにしないことを心がけました。そうすると一気にコントになってしまうので。
――吉井が不動産業者に仕事を聞かれて、転売屋だと悪びれずに答えるところも印象的でした。
転売屋とひと言で言ってもいろいろありますよね。必ずしも全部が犯罪というわけでもないようです。転売というとイメージが良くないですけど、リサイクルだったり、 ともすればSDGsと呼ばれることもあったり。だから吉井としてはあのシーンではリサイクルショップです、ぐらいのノリで言ってると思います。
「ネットはツールであって、結局は使い方なんだと思います」
――本作では転売屋やネットでつながる犯罪集団が登場し、実際にもニュースで目にすることもありますが、いわゆるネット社会の闇をどう見られていますか?
良くも悪くも知らない人と出会える世の中になりましたよね。でも、ネットが悪いわけじゃなく、ネットはツールであって、結局は使い方なんだと思います。だからこそ怖さもありますよね。あまりのめり込むと、目の前の人が大事にできなくなってくることもあると思います。
――確かに子どもといるのにずっとスマホを見ている母親が非難されたりしていますよね。
子育ては大変なものなので、それに関してはいろんな気持ちがありますけど、スマホがなければもっと他のことをやってるはずですよね。とりあえずスマホを見る、という時間はもったいないと思います。僕は面白いものは知るようにしてますし、スマホが普及する前のパソコン時代のネットミームとかは好きでした。こそこそと片隅で知る人ぞ知る感じが楽しかったですけど、今はもう一大メディアとなってしまっていて、ユーモアが少なくなってしまったように感じてしまいます。
芝居に入る“前”の時間を大切にしている
――黒沢組を経験された感想を教えてください。
とにかく楽しい現場でした。スタッフの方もいきいきしているし、みんな楽しそうで。僕も一緒に作品作りをしていて、とにかくテンポが気持ち良かったです。例えばこの映画の中で、1シーン大雪が降ってるんです。クライマックスの直前で、お芝居していて視界が見えなくなるくらいの大雪でした。通常だとシーンが繋がらなくなるって大騒ぎになるところですけど、黒沢さんは慌てず騒がず、じゃあ撮りましょうって続けられて。でも、天気ってそういうものじゃないですか、こちらの意図と関係なく急に降ったり止んだりするもので、それが自然ですよね。完成した映画を見ても違和感はないですし。黒沢さんは現場で起こったことに対する反応のスピードが速くて、自由で楽しかったです。
――菅田さんが普段お芝居をしている上で心がけていることはありますか?
芝居に入る前段階の仕込みとして集中する時間は大切にしてます。用意スタートの瞬間に、急にピストルで人を殺すぞ、みたいにはなれなくて、人によってはパッと切り替えられる人もいるでしょうけど、僕はできない。じーっと無言で待っている時間は意外と大切です。
――では、この作品をご覧になった感想を教えてください。
めちゃくちゃ面白かったです。自分が出ている作品をそういう風に言ったことはあまり無かったですけど、めちゃくちゃ面白かったです。
ネット社会の闇がテーマだが…「追求したのは娯楽としての映画」
――本作はネット社会の闇という要素がありますし、孤独な主人公の不条理劇でもあり、娯楽としてのスリラー作品、アクション作品でもありますが、一番の主軸はどちらだと感じられましたか?
娯楽じゃないでしょうか。監督はネット社会の闇をテーマにしようとしてませんし、僕もそんな風には思ってませんでした。やっぱり黒沢さんならではのエッジは効いているし、刺激的な思想も感じるけれど、追求したのは娯楽としての映画だと思います。
――娯楽としての作品を作るうえで意識されていたことはありますか?
余計なことはしない、ということですね。いわゆるアドリブなどせず、監督の指示通り動いていただけです。台本が面白いので、他に余計なことをする必要がないというか。作品を見ていても思いますけど、黒沢さんの頭の中が一番面白いので、もうそこにお任せして僕はそれを体現するだけでした。
――最後にこの作品のどんなところをどんな方に見てほしいか教えてください。
この作品は決して怖さだけじゃない面白さがあるし、ユーモアもあるし、しっかりとエンターテイメントしてると思います。僕はクライマックスで爆笑しちゃいました。あとキャラクターが良くて、吉井を襲ってくる人たちが最高に面白いです。刺激的な映画体験をしたい方に見てもらえると嬉しいです。
◆取材・文=入江奈々
撮影=小川拓洋
ヘアメイク=AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
スタイリスト=KEITA IZUKA
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