キービジュアルからも禍々しさを感じてしまう、台湾ホラー映画「呪詛」。

台湾最恐ホラーと評された「呪詛」がもたらした“恐怖”とは

2023.10.12 08:00
キービジュアルからも禍々しさを感じてしまう、台湾ホラー映画「呪詛」。

10月13日(金)からリアル×オンライン一体型台湾映像フェス「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」が開催されるなど、近年注目を集めている台湾映画・台湾ドラマにWEBザテレビジョンも注目。今回取り上げるのは、2022年に台湾で公開されて大ヒットし、同年7月にNetflixで配信されるや日本でも「今日の映画TOP10」でランキング1位を獲得し、非英語映画世界ランキングでもTOP10入りを果たしたホラー映画「呪詛」。「台湾の映画史上でもっとも怖い!」「見終わったのに、まだ怖い。むしろ見終えたあとの方が怖い!」と世界中を震え上がらせた。もともと続編の制作やゲーム化が取りざたされていた本作だが、8月22日に監督であるケヴィン・コーが「PCゲーム制作中」として開発段階の映像をポストしたことで、再び注目を集めた。怖いのに目が離せない、「呪詛」のストーリーと見どころの紹介、そして、本作がもたらした“恐怖”について考察する。

視聴者に感染する、"禁忌に触れてしまった恐怖"

「呪詛」は、台湾のアカデミー賞とも称される金馬奨で劇映画作品賞など13部門にノミネートされた。まさにその年の台湾映画を代表する大ヒット作なわけだが、気軽に誰にでも視聴をおすすめできる作品ではない。

主人公のルオナン(ツァイ・ガンユエン)は、かつて恋人たちと一緒に「超常現象調査隊」を名乗って動画配信チャンネルを運営していた。そして、怪奇スポットを撮影しようと踏み入れた山奥のいわくありげな村で、禁忌を犯して呪われてしまう。

もうこれだけでめちゃくちゃ怖いのだが、さらに6年後、当時お腹にいた娘のドゥオドゥオ(ホアン・シンティン)にまで呪いが降りかかったと知ったルオナンは、娘を助けようと必死で助けを求める―、というのが物語のあらすじだ。

過去と現在で時系列が行き来しながら話が進んで行くなか、ルオナンはドゥオドゥオの呪いを解くため協力をしてほしいとカメラを通じて観客にしきりに呼びかけてくる。この映画は、フィクションの物語をあたかもドキュメント映像のようなタッチで見せるモキュメンタリーというスタイルをとっていて、この映画全体を通して登場人物が撮った映像という体裁になっているのだ。

ルオナンが何度もこちらに語りかけてくる仕掛けは、本物のYouTuberの配信映像を見ているかのような錯覚と没入感を生み出す。フィクションと現実の境目があいまいに感じられていくという意味では、劇場で見るよりも自宅で1人でNetflixの配信を見るほうが、より背筋がヒヤリとするはずだ。彼女の感じる恐れや切迫感がダイレクトに伝わってきて、まるで一緒に禁足地に足を踏み入れ、禁忌に触れてしまったかのような没入感と恐怖を与えてくるのである。

ケヴィン・コー監督が「呪詛」の着想を得た“おぞましい事件”とは

「呪詛」監督のケヴィン・コー氏は、台湾の高雄市で実際に起きた怪奇事件から本作の着想を得たと明かしている。

あまりにおぞましく、いまだ謎が残る事件のため、あらましだけを説明するが、家族6人全員が神がかりを自称し、自傷をしたり、互いに暴力をふるいあった挙句、長女がろくに食事をとらなかったことを要因とする多臓器不全で死亡したという事件だ。

事件発覚当初、家族は「長女は邪霊に取りつかれて死んだ」と主張し、家のなかは赤い線香が吊るされていたり、符咒(魔除けの札のようなもの)が貼られていたりと、異様な様相だったという。くだんの家族が事件前まではごく普通の家族だったという点に、何ともいえない恐ろしさを感じる。

宗教が絡んでいるなどいくつかの共通点はあるが、「呪詛」にこの実話をもとにしたという印象はまったく感じない。あくまでも、この事件にインスパイアされただけのようだ。ただ、「下手に踏み込んで知りすぎてしまうと、恐ろしいことが起きるのでは…」と“本能が警鐘を鳴らしてくる感覚”を、「呪詛」からも高雄市の事件からも強く感じる。禁忌や怪奇には近づかず、禁忌のままにしておくべきなのだろう。

「呪詛」はなぜ観賞後も恐怖が増幅して続くのか

「呪詛」のクチコミで多いのが「見終わったのに、ずっと怖い」「自分まで呪われたような気がする」というものだ。そして、その”台湾最恐"といわれる恐ろしさが、この映画の見どころともなっている。

日本のホラー映画の名作「リング」の貞子や、「呪怨」の伽椰子のように、恐怖を象徴する怪異、幽霊、キャラクターは一切出てこない。終始、実態を伴わなず得体のしれない「呪い」だけがあり、目を覆いたくなるような犠牲者が続出する。恐怖はすべて「人」から伝播する。ではなぜ、「呪詛」の恐怖はそんなにも後に引きずるのだろうか。

ルオナンの身に起きた災厄は、突然の天変地異やゾンビの襲来のような「自分は何も悪くないのに、恐ろしい事態に見舞われた」という巻き込まれ型の被害ではない。超常現象や怪奇と謳える映像を撮りに、入ることが禁じられた宗教施設に”わざわざ”侵入して呪われたのであるから、自業自得の部分が少なからずあるだろう。

あんなところに行かなければよかったという後悔に折り重なるようにルオナンにのしかかるのは、「自分のせいで、何も悪くない娘が呪われてしまった」という罪悪感だ。ネタバレになってしまうのでくわしくは本作を実際に視聴してほしいのだが、彼女は「娘にまで呪いが降りかからないようにする」あるいは「娘の呪いを解く」ルートがあったにもかかわらず、ことごとく悪手を打ってしまうのである。

深い後悔、罪悪感、絶望におそわれながらも、ルオナンが何とか娘を救おうとする姿には母としての強い愛情がにじむ。だからこそ、見ているこちら側も彼女を応援しながら見ていくことになるのだ。だが、彼女を応援して、没入して見ていくほどに、この「呪詛」という作品の恐怖は増す。

そして、作品を見終わってなお終わらない恐怖のなかで、ふと、ルオナンと同じく私たち自身も「ただ巻き込まれてしまった」のではなく、好奇心や怖いもの見たさで「この映画という恐怖に自分から飛び込んだ」のだと気付く。禁忌に自分から近づいてしまったという後悔が、観賞後の恐怖をよりいっそう長引かせるのかもしれない。

<ザテレビジョン 映画部>

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