天海祐希にナレーションを務めた映画「私は白鳥」についてインタビュー 

天海祐希の仕事論「他の方が演じて『悔しい』と思える仕事は自分がやる」心に“すき間”のない充実の日々

2021.11.20 08:30
天海祐希にナレーションを務めた映画「私は白鳥」についてインタビュー 

「アメリカ国際フィルム・ビデオ祭」ゴールドカメラ賞、「ニューヨークフェスティバル」ファイナリストに輝くなど、反響を集めたドキュメンタリー番組「私は白鳥」(2019年、チューリップテレビ)に、2年以上の追加取材を加えた映画「私は白鳥」が、11月20日(土)に富山・ほとり座にて先行公開、11月27日(土)には東京・ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開される。

ナレーションを務めるのは女優・天海祐希。自身を「白鳥」と自称するほど白鳥に見せられ、傷ついた一羽の白鳥を見守り続ける澤江弘一さんの物語に、近づきすぎず離れすぎない見事な距離感で寄り添う。人は自然にどこまで介入するべきなのか。葛藤しながらも白鳥に全てを捧げる澤江さんと白鳥たちの心温まる本作の魅力を、天海と槇谷茂博監督に聞いた。

最初は「周りにはあまりいないタイプの方」だと思った。でも…

――今回、なぜ天海さんをナレーションに起用したのでしょうか。

槇谷茂博監督:白鳥の美しさ、傷ついた白鳥のたくましく生きる強さを表現できる方、澤江さんの生き方に共感していただける方なのではないかなと思ったからです。富山にゆかりがあるということも聞いていました。

――天海さんはオファーを受けた時、どう感じましたか?

天海祐希:「ちょっと変わったおじさんなんですけれど、とにかく見てください」と言われたんです。「変わっている人」という言い方は、個人的にすごく嫌なんです。だけど、確かに最初は「周りにはあまりいないタイプの方」だと思いました。

でも見ているうちに、澤江さんの純粋さや白鳥に対する思いは、人間誰しもが心の中心にあるものなんではないかと思うようになりました。澤江さんにとってはその対象が白鳥だっただけ。それでだんだんと「変わっている人」には見えなくなっていきました。「なんて純粋に白鳥と向き合っているんだろう」って。

澤江さんの笑顔であるとか、行動・言動がキラキラと美しいものに感じられました。自分が理解しにくい人のことを「変わっている」と捉えてしまうことは誰にでもあるけれど、そうとは絶対に言えないなと思って、澤江さんを応援したくなりました。

――それで、オファーを受けることにしたんですね。

天海:「私に何ができるだろうか」と思いました。他の方がこの作品のナレーションをしたものを映画館で見たら、私はどう思うだろうか、と思ったんです。きっと悔しいだろうなと思って、「ぜひ、やらせてください」と言いました。

それが私の大きな基準なんです。お仕事をいただいた時、それを違う女優さんがやっているのを見て「悔しい」と思わないだろうか、と自問自答するんです。ちょっとでもそう思ったら、やる。「私は白鳥」は、違う人の声では見たくなかったんです。

もちろん、やらなかったお仕事の全部が悔しくなかったわけじゃないんですよ。スケジュールが合わなかったり、いろいろな条件でできなかったこともあるけど。

耳に集中しなくても自然に言葉が入ってくるようにできたら

――役者として出演する場合と、ナレーションを担当する場合ではアプローチも違いますよね。

天海:全然違いますよ。この作品に関して言えば、映像がものすごく力強いんです。もしかしたらナレーションなんかいらないかもしれないくらい説得力があって、没頭できる映像です。見ている方を邪魔しないように、耳に集中しなくても自然に言葉が入ってくるようにできたらな、と心掛けました。言葉が聞き取れないようなことがあったら、耳に意識が集中してしまうじゃないですか。今回は映像に集中してほしいので、さまざまな音色、声の高さ、強さの中から、監督にジャッジしていただきました。

――いくつかのパターンから監督が選んだんですね?

槇谷監督:どう読んでいただけるのか、ものすごく楽しみだったんです。そうしたら、自分が前に出るわけでもなく、物語に対してちょうどいいテンションですーっと入ってくるので「さすがだな」と思いました。録っていて本当に気持ちよかったです。

富山の風景を頭に描ける方に読んでいただけたことで、より説得力が増すと思いましたね。

――天海さんは、富山は「祖父母のルーツ」とおっしゃっていました。白鳥が越冬のためにシベリアから富山へ来るということはご存知でしたか?

天海:父親が富山愛溢れる人だったので、いろいろな話をしてくれていたんです。だから白鳥が来るというのは聞いていました。どこに来るとまでは聞いていませんでしたが、今回の作品を通して改めて知ることができました。

――今作はどんな方に見てもらいたいと思いますか?

天海:どの世代の方にも必ず、心にドンと重い何かが残る作品だと思います。澤江さんご本人は意識されていないと思いますが、それくらい私たちに届くメッセージは強い。あの方は、自分の生活を切り詰めながらやっていらっしゃるんですよ。白鳥の方が良いお米を食べているくらい(笑)。

――澤江さん自身も映像の中でおっしゃっていましたが、“人が自然に介入する”ことは線引きの難しい問題でもありますよね。

槇谷監督:見た人がどう感じるかが大切だと思っています。この映像を撮るにあたって、もちろん否定的な意見もゼロだとは思わなかったんです。テレビ放送した際にも、いくつかそういった声も聞こえました。ただ、それよりも心が洗われて、澤江さんの生き様を優しく見守っていただける方のほうが圧倒的に多いと信じています。

詳しい方に聞いたところでは、人間が何も考えないことが一番問題なんだそうです。この映画をきっかけに、自然に対してどう向き合うかを考えていただくことも、鳥獣保護につながればいいなと思っています。良くも悪くもどちらにしても、何かしらを感じてもらうことがこの映画を作る意味になるんじゃないかなと思っています。

天海:この映画は、最後まで「この方が正しい」という言い方はしていないんです。毎年、白鳥が来ることを待ち望んでいるこういう人がいますよ、という事実を映しているだけ。それが正しいとか、それが美しい姿だ、というふうには終わらせてはいないんですよね。皆さんに考える余地を残しているので、否定も肯定もあっていいと思うんです。

私の心にはすき間はない。とても充実して、ぴったり埋まっています

――ところで、天海さんご自身は動物に関する思い出は何かありますか?

天海:動物は飼ったことがないんです。なので、一対一になった時はどう接したらいいのかが分からない。だから、人の家の子をなでまくるくらいでやめています(笑)。好きですけどね。

――澤江さんは心のすき間が白鳥の形をしていたとおっしゃっていました。天海さんの心にもすき間があるとしたら、どんな形をしているでしょう?

天海:うまいこと言いますよね。でも、私の心にはすき間はない。とても充実して、ぴったり埋まっています。しかも血流がいい(笑)。

――澤江さんにとっての白鳥のように、天海さんが特別情熱を注いでいるものは何かありますか?

天海:仕事しかないですね。“趣味が仕事”なんです。

――映画のナレーションは今回が初めてということですが、普段からお仕事は常に新しいものに挑戦していこうと意識されているのでしょうか?

天海:新しいことという意識はなかったですね。でも、今回収穫だったと思うのは、自分を出しすぎずどうやって映像に寄り添えるだろうか、ということ。そういう自分自身にも興味もあったし、それを経験させていただけたのはすごくありがたかったです。胸を張って「ぜひ見てください」と紹介できるような作品に携わることができて、本当にうれしいですね。

――最後に改めてメッセージをお願いします。

槇谷監督:コロナ禍で生きづらい世の中になっていると思うんです。生きづらくしている方たちにとって、優しい癒やしとなる作品になったと思います。一日一日を生きていく喜び、幸せをぜひ感じてください。

天海:白鳥のまっすぐな眼差しと、富山の四季、澤江さんの思いで、自分の中の何かが浄化されるんです。純粋なお子さまたちにも楽しんでもらいたいですね。ぜひ、親御さんと見に行ってもらいたいと思います。

◆取材・文=山田健史

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