『もうパパ!』脚本家が語る“毒親”のその先「親がおかしいと思ったら逃げてもいい」
NHK朝ドラ『虎に翼』やアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』など、人気作をいくつも手がけてきた吉田恵里香氏が脚本を務めるドラマ『もうパパ!』が放送中(テレビ朝日系、毎週日曜夜10時15分)。家族の幸せな日常を動画で発信する父親・良詫(堤真一)と、その期待に応え続けることに違和感を抱き始めた娘・紀子(原菜乃華)の関係を描く、新感覚のホームドラマだ。ほっこりできる展開がありつつも、親子の在り方を考えたくなる本作について、制作の裏側、さらには近年定着した「毒親」という言葉をめぐり、吉田氏と監督の池田克彦氏に話を聞いた。
◆愛情ゆえに子供の選択肢を奪う
――良詫が紀子の気持ちを無視して突っ走ってしまうシーンが多いです。現実世界でも珍しくありませんが、「親だから」「家族だから」という理由で、子供の意思や権利が軽視される様子を丁寧に描けていると思いました。
吉田 赤ちゃんの時は気を抜いたら死んでしまうので、ずっと見ていなければいけません。そうしていると、どこか子供が自分の一部であるかのような感覚が芽生えてくるんです。ただ、子供は自分とは違う他人です。その自覚を持たないと、親がすべて選択してしまったり、都合のいい価値観を押し付けてしまったりします。
――大切に思っているがゆえの感覚であると。
吉田 そうですね。「選択肢を奪う」の大半は愛情ありきなんです。「その子のためになれば」「愛しているから」という気持ちから、そうなってしまう。ただ、子供もそのことがわかっているから、なかなか反発できません。それでも、「愛情があっても越えてはいけない一線がある」「親と子であっても、人と人として向き合わなければいけない」ということを描きたいと思っています。
――視聴者が自分の子供との関わり方を見直す機会になりそうですね。
吉田 良詫ほどの過剰さはなくても、多くの親御さんが無意識のうちに、愛情ゆえに子供の選択や権利を奪っているかもしれません。紀子と良詫のやり取りや関係を通して、親子で話し合うきっかけになればと思っています。また、子供が親へのモヤモヤ感をうまく言葉にできない時に、「『もうパパ!』みたいになってるよ」「良詫になっているよ」と言ってもらえたらいいな、という思いもあります。
――子供を「自分の一部」と感じてしまう感覚は、池田さんにも覚えがありますか?
池田 僕には子供がいるのですが、まさにそうした考え方に陥りやすい時期でもあります。子供に依存したり、子供を通じて自己肯定感を満たそうとしたりしないよう、常に意識していないと、親の側が甘えて、自分の主体性を押し付けてしまうだからこそ、生々しく痛みを感じる部分が本作にはあると思っています。
――たしかに、良詫は単なる「悪い親」とはせず、どこか人間らしさを感じました。
池田 そこは意識しました。5話では良詫の過去を描いていますが、彼には努力して動画クリエイターとして成功し、紀子たちに不自由のない生活を送らせてきた実績があります。そのため、「このやり方で家族を守るんだ」と思い込んでしまう。完全な悪と割り切れないからこそ痛々しく、そんな良詫を介して自分自身を振り返るきっかけにもなってほしいですね。
◆「毒親」のその先を考える
――SNSでは良詫を「毒親」と指摘する声も少なくありません。気軽に他人の親を「毒親」と断罪できてしまう昨今、この言葉が広まったことをどう感じていますか?
吉田 私は良い傾向だと思います。親自身の権利や人生も勿論大切にされるべきですが、大人には子供を健やかに育てる義務は絶対にあります。「周囲からジャッジされる言葉」「子供に言われたくない言葉」ができたことは良いことです。
――そうですね。この言葉が広まったことで、可視化された問題も多いと思います。
吉田 ただ、今はそこで議論が止まっていて、「自分の親が毒親だったらどうすればいいのか?」という議論ができていないことが、現状の一番の問題だと思っています。もちろん、明確な答えがあるわけではありません。ただ、本作では最初の一歩として「周りに助けを求めよう」というメッセージを込めました。「つらい」と言えば、大人や友達が助けてくれるかもしれないし、家族以外の居場所ができるかもしれない。「自分だけで解決できないこともある」と示したうえで、次にどのような選択肢があるかが伝われば、と思います。
――虐待に対する批判の目が厳しくなる一方で、虐待を受けた子供の保護やケアについては、まだ十分に議論が進んでいないように感じます。
吉田 そうした点も含め、議論が広がれば嬉しいです。行政で行える窓口が存在すること、だけど残念ながら不充分であること、もっと世の中の構造から考えなければならないことなどです。子供は「親がおかしい」と思ったら逃げてもいいし、大人は逃げ場所にならなければいけません。子供が子供らしく生きるには、家族以外の居場所が必要です。家族だけですべてをカバーすることはできませんし、それでもカバーしきれないことがあるなら、それは社会全体の問題になります。「毒親」という言葉の先にある「どう対策するのか」についても、議論がさらに深まればいいですね。
――また、池田さんは「毒親」を題材にするにあたって、意識したことはありますか?
池田 描きたかったのは、毒親と呼ばれる人にも親がいて、その子供もまた親になるかもしれない、という立体的なつながりです。ただ、「自分の親が毒親だから自分も毒親になる」とは絶対に描いてはいけないと思っていました。点や記号で終わらせず、その言葉が持つ立体性を示したい。
――家族の在り方について考えたくなる内容ですが、本作を通じて、視聴者に家族像をどう考えてほしいですか?
吉田 当たり前ですが、親子であっても個々の人間で、ある意味他人です。人間関係は、一人ひとりが相手との関係を紡ぐことで築かれるものであって、親子だから自然に生まれるものではありません。「家族」というカテゴリーに甘んじていると歪みが生まれると思うので、一人ひとりを人間として扱うことが、結果として家族の絆や愛情を深めていく。本作を通じて、そう描いているつもりです。
池田 吉田さんがこの上なく素敵なことをおっしゃってくださったので、僕も同じです(笑)。人と人との関係の中でしか何も生まれず、コアな単位が家族だと思っています。だからこそ、お互いをリスペクトしないと壊れて取り返しがつかなくなるし、リスペクトできれば、この上なく温かいものにもなるはずです。
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