35年前のレトロゲーム、とんでもない壊れ方に「初めて見た…」と驚きの声 CDのプロは「経年劣化ではない」と分析
35年前のゲームソフトを優しく磨いていたところ、割れてしまったハプニングが話題に。専門家は「保管環境の悪さ」を推測している。
一言に「レトロ」と言っても、その言葉の対象は時代の流れと共に変化するもの。
以前X上では、レトロゲームに起こった予想外の悲劇に対し、「そんなことある...?」と、悲鳴が続出していたのだ。
「レトロゲーム」はどんなゲーム?
さて突然だが、読者諸君は「レトロゲーム」と聞くと、どんなゲームを思い浮かべるだろう。
決して少なくない読者が、ファミコン(ファミリーコンピュータ)や、スーパーファミコンといったカセット式のゲームを連想したのではないか。
しかし悲しいことに、令和も8年を迎える現在では、初代プレイステーションのソフトも立派なレトロゲーム。それどころか、リリースから20年以上が経過したプレイステーション2のソフトも、この枠組みに入るケースが多い。
このように、かつては「次世代ゲーム」の象徴であったCD-ROMのソフトも、もはやレトロな存在となってしまったのだ。
CDソフトが予想していなかった状態に...
こうした前提のもとで注目したいのが、今年8月に「日本レトロゲーム協会」Xアカウントが投稿したポスト。
「CDの劣化問題」という書き出しから始まる投稿には、綺麗に「真っ二つ」に割れてしまったFM TOWNS専用ゲームソフト『ランペルール』の写真が添えられている。

その経緯について、ポスト本文では「通常通り優しく磨いていたのですが、薄い氷のようにバリッと割れてしまいました...」と、説明。
投稿者は続けて、「中々高価なソフトなので辛いです。数十年後にはCDゲームソフト、みなこうなってしまうのでしょうか」と、心境を綴っている。
「CDの保管方法」めぐり炎上する事態に
こちらのポストは投稿されるや否や、瞬く間に話題となり、Xユーザーからは「CDって、こんなに割れやすいものだったんだ」「レトロゲームって、こういうリスクもあるんだな」「CDは安心かと思ってたら、普通に割れるのかよ」「永遠にデータ保存できる方法は無いのだろうか」など、驚きの声が続出している。
https://twitter.com/japanretrogame/status/2085271304622809440
しかし、寄せられた質問に対して投稿者が「普通の一軒家での直射日光も当たらない1F室内保管でした。頂いた際に手垢が凄かったので希釈洗剤で拭いていたら割れてしまいました」と回答したことから、状況が一変。
「経年劣化ではなく、希釈洗剤が原因ではないか」という意見が多く寄せられ、当該のポストに「割れは経年劣化ではなく、希釈洗剤で拭いたことによるポリカーボネートのケミカルクラックが原因です」と断定するノートが付けられる事態に発展。
かくして「ポスト投稿主が悪い」とし、心無い声が多数寄せられる「炎上」のような状態となってしまったのだ。
「炎上に隠れた真実」聞いた
ソースおよび前提が正しいものであれば、件のノートは非常に便利な機能である。しかし、時には不正確・不十分なノートの情報が誤解を招き、あらぬ炎上を招いてしまうケースも珍しくない。
そこで今回は、ことの詳細な経緯をめぐり、日本レトロゲーム協会の理事長・石井豊さんに話を聞いてみることに。
当該のゲームソフト『ランペルール』を発見した経緯について、石井さんは「(今回の出来事の)ひと月前、不動産屋を営む友人から『一軒家の残置物にパソコンがあるので引き取ってほしい』と相談を受けて向かったところ、1階の薄暗い部屋にFM TOWNS本体が床に放置され、今回のソフトが中に入ったままの状態で見つかりました」と、振り返る。

どういった経緯で放置されていたかは友人にも知る術がなく、「物件を取得した1年以上前からこのままでの状態だった」とのことで、コレクターが大切に暗室保管していたワケでないのは確かである。
なお、こうした情報も不動産物件の機密に関わってくるため、石井さんは寄せられた質問に対して詳細な出所は回答せず、「一軒家の1階の薄暗い部屋」とのみ返信。
すると、「希釈洗剤で拭いていたら〜」という下りのみが注目を集め、「希釈洗剤で磨いたのが悪い」と断定される事態に繋がってしまったのだ。
状況を考えると同ソフトは数年間、ひょっとしたら数十年間放置され続けていたかもしれない。。発見時の様子からも、適切な環境で保管されていたワケではなく、経年劣化とは異なるダメージが蓄積していたものと思われる。
しかし、石井さんは「安易に返信したこちらにも責任はある」と判断。心無いリプライに対し、それ以上の返信は行わないようにしたのだった。
続いては、今回物議を醸した「希釈洗剤によるメンテナンス」についても話を聞いてみる。
教会での活動の他、約30年に渡る事業活動の中で、廃棄されたゲームのリサイクル業を営んでいるという石井は、相当な数の汚れたゲームハードやソフトを目にしてきたという。
そうした経験を踏まえ、石井さんは「CDは大事に扱われている物は綺麗ですので、クリーニングする必要のない物も多いのですが、今回の品は相当汚れていたため、クリーニングすることとなりました。もちろん今までも洗剤には気を遣い、『プラスチック製品や浴槽を傷めないと』書かれている大手国内製のお風呂用の中性洗剤をかなり薄め、ゲーム機のクリーニングに使っています。今まで変色も発生せず、その後も安定していたので使用してきました」と、説明する。
今回の一件については、「いずれにせよCDは薄く、劣化の進行が早いと思われますので、取扱い方法など対策を考えていかなければなりません」と、振り返っていた。

続いては、石井さんのメンテナンス方法をめぐり、1979(昭和54)年の創業以来、一貫してユーザーの「データを記録し、残したい」という需要に応える製品を展開してきたCDのプロ「株式会社磁気研究所」に話を聞いてみることに。
そもそも「CD」ってどんなメディア?
まず、前提として「CD」とはどのような記録媒体なのだろうか。
こちらについて、磁気研究所の担当者は「CDは直径12cm、厚さ約1.2mmのポリカーボネート樹脂を主体とした光ディスクです。音楽やデータを『0と1』のデジタル情報として記録し、レーザー光を当てたときの反射の違いを読み取って再生します」と、説明する。

一般に「CD」と呼ばれるものには大きく分けて、工場で情報をあらかじめ記録して製造するCD-ROMや音楽CDと、利用者が後から書き込むCD-Rの2種類が存在するという。
それぞれの違いについては、「CD-ROMや市販の音楽CDでは、製造時に非常に細かな凹凸(ピット)を樹脂面に形成し、その上にアルミニウムなどの反射膜を設けており、プレーヤーはレーザー光の反射状態の変化からデジタル信号を読み取ります」「一方でCD-Rは少し異なって、樹脂基板の上に有機色素の記録層があり、書き込み時にレーザーを照射して色素の性質を局所的に変化させます。その変化によって反射率に差を作り、市販CDの凹凸と同じようにデジタル情報として読み取れるようにしています」と、説明してくれた。
ちなみにCD-Rの有機色素による記録技術は、日本の企業・太陽誘電で浜田恵美子氏らによって実用化された、当時としては非常に斬新な技術。

磁気研究所の担当者は「記録層に有機色素を用い、レーザー光によってその状態を変化させ、反射の違いとして情報を読み取るという発想です。この『有機材料を使う』というのは、当時の研究者から見れば、コロンブスの卵的な発想です。有機材料は無機材料に比べて変化しやすい材料で、誰も『これを記録材料に使う』という発想は持たなかったと言います。しかし塗布装置は大型設備が不要で、安価にCD-Rを作ることができたため、浜田さんの開発チームはCD-ROMとの完全互換を実現し、一時は年間100億枚のマーケットを生み出したのは大功績でした」と、その革新性を指摘している。
なお、担当者は浜田氏と面識があり、酒の場で「この技術によって、世界中の貧しい国の子どもたちにも音楽や映画を見たり聴いたりする機会が広がるのであれば嬉しい」という話題が上がったことが、記憶に残っているという。
そんなCD-Rの開発が発表されたのは、今から40年近く前の1988(昭和63)年のこと。
磁気研究所の担当者は「当時はまだ、デジタルコンテンツをインターネットで簡単に配信できる時代ではありませんでした。大量に複製でき、比較的安価で、しかも長時間の音楽や映像、データを運べる光ディスクは、情報や文化を広く届ける媒体として大きな可能性を持っていました。今振り返ると、CD-Rという技術は単に『データを書き込める便利なディスク』を作っただけではなく、情報や文化をより多くの人に届ける手段を低コストで実現した技術でもあったのだと思います」と、振り返っていた。
現代の我々がインターネットを利用する上で「当たり前」として享受しているサービスの礎が、この時誕生したと言えるだろう。
プロに「CDの保管方法」聞いた
さて、話を本題に戻したい。一概に「経年劣化」と言っても、そもそもCDに明確な「寿命」や「使用期限」は存在するのだろうか。
こちらの疑問に対し、磁気研究所の担当者は「CDに『何年経ったら必ず読み込めなくなる』という明確な使用期限があるわけではありません。CDの寿命は製造品質、材料、保管温度・湿度、光、汚れ、傷、取り扱い方などによって大きく変わります」と、回答する。
続けて「一般的に、CD-ROMや音楽用CDは良好に製造されて標準的な環境で保管された場合、おおむね50~100年程度という目安かと思います。一方、CD-Rは使用される色素や反射膜による差が大きく、数年から100年以上まで非常に幅があります。したがって『CDの寿命は何年』と一律に断定するのは適切ではありません」と、補足していた。
続いては、CDの寿命を長くするために必須となる「適切な保管環境」について尋ねてみる。
こちらについて、担当者は「基本的にCDは高温、多湿、直射日光、急激な温度変化を避け、ケースに入れて保管することをお勧めします」と回答。
また、汚れてしまったディスクのケアについては「まず柔らかい布などで無理にこすらず、埃であればエアダスターなどで除去する方法が安全です。拭く必要がある場合には、一般的には柔らかく清潔な布を使用し、円周方向にぐるぐる拭くのではなく、中心から外側へ放射状に拭く方が望ましいと考えられています」との回答が得られた。

今回物議を醸した「浴室用の中性洗剤をかなり薄めて使用する」という方法については、「必ずしも『直ちにCDを破損させる方法』とは言えませんが、積極的には推奨できません」と、複雑な表情を見せる。
その理由については「『中性である』ことだけでは、CDへの安全性を判断できないからです。浴室用洗剤には界面活性剤のほか、商品によって様々な添加成分が含まれています。CD用として材料適合性が保証されているわけではありません。また、CDの材料であるポリカーボネート樹脂は比較的吸湿性が低いほうですが、水分が残ると反りの原因にもなります」と、説明。
そうした実情を踏まえ、CDが「真っ二つに割れてしまった」ケースについて、「ポリカーボネート樹脂は、通常の使用条件では比較的丈夫な材料です。そのため、何も力を加えていないCDが、単純な経年劣化だけで突然真っ二つに割れるという現象は、一般的・典型的なCDの寿命現象ではまずないと思います。ただし保管環境が悪い場合、あるいは過去に落下や無理な力がかかってセンター穴にクラックが入っていたりすると、このような現象が現れるのではないかと思います」と、分析していた。
CDの作られた時期で「寿命の違い」はある?
このように、CDの寿命を左右するのは「適切な使用」と「適切な保管環境」、そして「適切なケア」と判明。
しかしCDの誕生から40年、CD-Rの誕生からは30年以上の月日が流れている。その間、改良によって製造されるCDの寿命に変化は生じていないのだろうか。
こちらの疑問に対し、磁気研究所の担当者は「難しいご質問です」と、困った表情を浮かべる。
この数十年で、CDの基本構造そのものが劇的に変わったわけではない。しかし一方で、材料選定や製造技術、品質管理についてはこの期間に改良が積み重ねられてきたという。
そうした背景を踏まえ、担当者は「CD-ROMや音楽CDは規格によって寸法や光学特性が決められているため、30年前のCDも現在のCDも、基本的には『ポリカーボネート基板+情報層+金属反射膜+保護層』という構造です。CD-Rについても、『ポリカーボネート基板+有機色素記録層+金属反射膜+保護層』という基本構造は変わっていません。一方で、良質な材料と製造品質が寿命に大きく関係します。そのため『新しいCDだから必ず30年前のCDより長持ちする』とは断言できません」と、コメントしていた。
記録媒体の変化は、そのまま科学技術の進歩の道筋である。
今回の取材に協力してくれた磁気研究所では、フロッピーディスク、MO、CD、DVD、メモリーカード、USBメモリー、SSDという媒体の大きな変化を見守り続けてきた。

そうした立場から、担当者は「当社もその変化に合わせ、その時代に必要とされる記録製品を提供してきました。現在では、USBメモリー、SDカード、microSDカード、SSDなどのメモリー製品が記録メディア事業の中心となっており、今後も需要の拡大が続く分野だと考えています」と、コメントする。
一方で「フロッピーディスク、カセットテープ、MO、MD、光ディスクといった、いわゆるレガシーメディアについても、需要が完全に無くなったワケではありません。古い設備や機器を使い続けている企業、学校、官公庁、医療機関、放送・音響関係、個人のお客様など、今でも必要としている方がいらっしゃいます。当社では、こうした需要期を過ぎた製品についても、可能な限り調達・在庫を継続し、『必要とするお客様がいる限り応えていく』という考え方を大切にしています」と、過去に主流であった記録メディアにも寄り添う姿勢も示している。
情報化社会には「記録」が必要不可欠。そして言うまでもなく「記録」というのは過去のデータであり、現代に生きる我々にとって「過去=記録」とは、現在や未来と同じくらい重要な存在なのだ。
そうした事実を誰よりも実感しているであろう磁気研究所の担当者は、「新しい記録メディアだけではなく、古い記録メディアまで幅広く扱っていることは、40年以上に渡ってこの分野に携わってきた当社ならではの特徴だと考えています」と、自社の強みを語ってくれた。

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執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。道路・鉄道ネタに関する取材で、国土交通省や都道府県警、全国の道路事務所、鉄道会社に太いパイプを持つ。
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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)
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