『アメトーーク!』でハマりプロレスラーに 神嵜志音「今度は私が誰かの背中を押したい」
一時期はリングに立ちたい、という存在が激減し、なかなか若手が育たない状況が続いていた女子プロレスの世界。だが、ここ数年、その状況が大きく変わってきている。急速に若手戦線が充実してきた東京女子プロレスでは、2023年以降にデビューした選手のみによる興行まで実現。そして2026年は新たに3人の有望株がデビューを果たす。その中でも最初にリングへと降臨した神嵜志音(かんざき・しおん)は、その意外な前歴やルックスから、すでに人気選手のひとりとして大きな声援を集めている。前歴からさらに「ルーツ」を探ってくると、もっと意外なプロレスとの接点が見えてきた。
近年、女子プロレス人気が急上昇してきたことに伴って、各団体で期待のルーキーが続々とデビューしている。人気がなければ、女子プロレスラーという職業は魅力的に映らないし、必然的に志す人も激減する。事実、その悪循環で業界全体が停滞していた時期もあった。それを考えると、次世代のスター候補生がたくさん出てきている今は、数年先の新たなる黄金時代に期待できる夢いっぱいな状況なのだ。
東京女子プロレスでは今年の1月4日にデビューした神嵜志音が早くも人気を集めている。整った顔立ちに、もともとバントでボーカルを務めていたというスター性。もちろんルーキーだから、まだまだ試合には課題点がたくさんあるが、とにかく期待を寄せたくなってしまう存在なのである。
彼女も昨今の女子プロレスブームに乗って……と思ったら、さにあらず。小学3年生のときからプロレスを見てきたのだという。まったくプロレスを知らないで入門してくるレスラー候補生が非常に多い中で、ここまでプロレスファンのキャリアが長いというのはなかなか珍しい。しかも、プロレスにハマったきっかけはプロレス中継ではなかった、という。
「そうなんですよ。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のプロレス大好き芸人の回を見て、はじめてプロレスを知って、興味を持ちました。実家は自営業をやっているので、翌日、事務所にあるパソコンでプロレスについて知らべていたら、たまたま事務所に顔を出した知り合いのおじさんが『えっ、プロレスが好きなの? だったら、今度、連れて行ってあげるよ」って。興味があっても小学生だけではなかなかプロレス会場には行けないので、これはラッキーでしたね』
新たなファン層を拡大してきた『アメトーーク!』のプロレス関連回だが、ついに番組がきっかけでデビューしてしまったプロレスラーが誕生! ぜひとも番組でピックアップしてほしいところだが、とにもかくにも初観戦で神嵜志音はプロレスの沼にハマった。中邑真輔やオカダカズチカを擁し、新日本プロレスを席巻していたCAOHSのカッコよさに痺れつつ、いつしかDDTの会場にも足を運ぶ熱心なファンになっていた。
だが、高校受験のタイミングで会場に行かなくなり、バンド活動をはじめると、そちらにどっぷりハマって、プロレスから離れる時期が続いた。メジャーデビューこそしていないものの、彼女がギターとボーカルを務めたバンドは業界では注目を集める存在となり、巨大フェスでオープニングアクトを任されるまでになった。
しかし、いろいろあってバンドは解散。夢を断たれて傷心の神嵜志音を見かねた母親が「あなたが見ていたDDTを感じることができる女子プロレス団体があるよ」とマニアックすぎる理由で観戦に誘ってくれたのが東京女子プロレス。ここで彼女は「これだ!」と女子プロレスラーへの道を志すことになる。
「バンドを解散したあとも、人前に立ってなにかをやりたい、という気持ちはずっとあったんですよ。小学生のときから、ずっと大好きだったプロレスでそれを実現させられたらって」
観戦に誘った母親は、まさかプロレスをやりたいと言い出すとは思わず、心配して泣いた。プロレスが好きなだけに痛さや怖さも知っているから、心配するのは当たり前だ。逆にプロレスに興味がない父親は、バンドを辞めて夢を見失っている娘の寂しそうな姿を見てきたので「やりたいことをやりなさい」と背中を押してくれた。
「でも、本当にプロレスって難しいです。長く見てきたので、頭の中ではいろんな技や試合の流れがわかってはいるんですけど、じゃあ、それをリングで実際にやってみようと思うと、全然、できなくて……東京女子に入ってから辞めたいと思ったことは一度もないんですけど、練習でも試合でも圧倒的に『悔しいこと』が多いです。中学まで剣道をやってはいましたけど、それからはバンドに熱中していて、運動はしてこなかったので……」
人気が高まる中で焦りは増える。7月には小学生のころにプロレス教室に通っていたという現役アイドルのさとうももがデビュー。そして10・3大田区では新人の咲森チエリのデビューも決定。ちょっとずつ時間差はあるものの『26年組』としての同期が増えた。咲森チエリのデビュー戦では、その同期3人がトリオを組んでの6人タッグマッチが決定。キャリア的には神嵜志音が同期トリオを率いる格好になるのだが……神嵜は複雑な表情を浮かべる。
「ちょっと焦っています。ももちゃんとはデビュー戦で闘いましたけど、やっぱり強いじゃないですか? チエリちゃんも新体操をやっていたから、道場での練習を見ていても、やっぱり動きがいいんですよ。もう劣等感ばかりです(苦笑)。たしかにデビューは私が早いんですけど、考えたくないことをどうしても考えてしまって……」
考えたくないこと、とは同期だけれど、デビューがあとになった2人に負けてしまうこと。事実、さとうもものデビュー戦ではいままでに見たことがない怖い部分が試合から垣間見えた。追い抜かれたくない、という思いが、自分でもわかっていないプロレスラーとしての才覚が開花するきっかけになるかもしれない。これこそ同期がいることの良さであり、この先、何年も続いていくライバルストーリーのスタート地点。そういう意味でも10・3大田区での6人タッグは要注目。これから勝ったり負けたりを繰り返しながらストーリーを編んでいくことになるのだが、たしかに今は絶対に負けたくないだろう。
自作のテーマ曲(ボーカルも本人が担当)での入場シーンや、黒いコスチュームも相まって、カッコいいイメージがある神嵜志音だが、その裏ではまだまだもがき、あがいている。
「ファンの方や周りの方から試合を褒めていただけることがあっても、自分に自信がないので、正直な話、自分がデビュー戦から、どれだけ成長しているのかもわからない。意外と私、泥臭い試合をするほうが向いているのかな、と思ったりもします」
10月12日には地元・銚子ではじめての凱旋興行も決定。なんとメインイベントで闘うこととなった。プロレスラーとしての試練とチャンスが次から次へ押し寄せてくる。
「地元の人たちは私がプロレスラーになったことを知らない方も多いんですよ。今回の凱旋興行で知っていただきたいですし、やっぱり地元の知り合いにカッコいいところをお見せしたいですよね。私はいままでの人生で『ここでがんばりたい!』という局面で、いつもプロレスを見て、支えられてきたんですよ。だから、今度は見てくださった方が『明日からがんばろう!』と思ってもらえるようなプロレスラーになりたいです!」
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