薬師丸ひろ子と相米慎二の信頼関係が結実した『セーラー服と機関銃』の裏側を助監督が証言
今年50周年を迎えた角川映画を代表する大ヒット作『セーラー服と機関銃』。赤川次郎の同名小説を相米慎二監督が映画化。角川映画が「アイドル映画」戦略を本格化させた時代の代表作であり、薬師丸ひろ子の初主演作としても知られる。今も語り継がれる名作の4K Ultra HD Blu-rayが10月30日に発売。それを記念して、同作の助監督を務める榎戸耕史氏をインタビュー。『セーラー服と機関銃』をはじめ、沢田研二主演の伝説的人気作『太陽を盗んだ男』の撮影秘話を聞いた。
――榎戸さんは、長谷川和彦監督のデビュー作『青春の殺人者』(76)の現場スタッフとして相米慎二監督と出会い、続く『太陽を盗んだ男』(79)にも続投されています。
榎戸 『太陽~』ではダブルチーフ体制を組んでいて、スケジュール担当の高橋芳朗さんと、ずっとゴジ(長谷川監督)さんのそばにいた相米さん。この2人がチーフ助監督として現場を牽引し、僕はその下に参加しました。
――今では絶対に無理であろう強引なロケハンだったとお聞きしました。
榎戸 準備中、相米さんは全国の火力発電所などに、経済産業省の役人だと偽ってロケハンに行くんです。視察に来た政府の役人だとかなんとか、デタラメを言ってね。当時はどこが役人なんだと思うようなモジャモジャ頭の格好なんだけど、それでも堂々と潜り込んじゃう。それで同行のカメラマンに取材写真をバシャバシャ撮らせて、自分は弁当を食べて帰ってくる(笑)。その素材をもとに、美術の横尾(嘉良)さんがセットを組んだんです。
――後半のカーチェイスもゲリラ撮影ですか?
榎戸 はい。高速道路のカーブになっている箇所に、ちょうどカメラに映らないようにトラックを停めてね。2カ所にトラックを3台ぐらい置くと、流れはピタリと止まりますから。もちろん、渋滞の先頭にいる人には決死の説明が必要なんだけど、後ろのほうは何か事故があったのかな? と、心配しながらも、わりと素直に停まってくれる。
――すごく大胆な犯行ですね(笑)。
榎戸 一事が万事、そんな感じでした。結局『太陽~』の製作は、予定より3カ月ぐらい延びたのかな。最後に残ったスタッフは、相米さんと僕、キティ・フィルムの伊地智(啓)プロデューサーだけ。予算節約のため、人を減らさざるを得なくてね。製作終盤になっても、ゴジさんとマタさん(山本又一郎プロデューサー)は編集をめぐって火花を散らしている。徹夜明けで編集スタジオから出てきた僕、伊地智さん、相米さんの3人で、夜明け間近の焼鳥屋で痛飲した記憶があります。
――それは戦友になりますね。
榎戸 その後、相米さんのデビュー作『翔んだカップル』(80)にも助監督として誘われたけど、さすがにもうキティの仕事はやりたくないな……と断ったんです。相米さんとの縁もこれっきりかな、と思いながら。そしたら次の『セーラー服と機関銃』(81)でも、しっかりお呼びがかかってしまった。それから相米さんにとって最後の映画監督作となる『風花』(01)まで付き合うことになりました。
――『セーラー服と機関銃』が初主演映画となった薬師丸ひろ子さんと相米監督は『翔んだカップル』に続くコンビです。
榎戸 ひろ子ちゃんと相米さんには、前作で培った関係性や相互理解がそれなりにあったと思います。でも、相米さんがきちんと「薬師丸さん」と呼んだのは映画の完成後。撮影中は「カメ」とかしか呼ばない。お前はノロノロしているからカメだ、スタートが遅いんだよな、とか言って。
――いまならありえない追い込み方ですね……。
榎戸 相米さんはずっとそんなやり方でした。でも、なんだかんだ言って『セーラー服~』は、相米映画のスタイルが出来上がった記念碑的作品だと僕は思います。
――前作でも話題を呼んだ長回し演出は、より顕著なトレードマークとして有名になりました。
榎戸 実は、細かくカット割りするタイプの監督よりも、スケジュール消化の効率はいいんです。1シーン1カットで撮ると、一度に台本の3~4ページ、1日合計10ページぐらいは撮り進められますから。ただ言うまでもなく、ものすごく大変。ひろ子ちゃんと(林家)しん平さんが夜の新宿通りをバイクで疾走するシーンは、リハーサルを開始したのが午後2時くらい。本番を撮り終えたのが深夜2時でした。ほかにも、日中から夜中までリハーサルが続き、日付をまたぐどころか朝になってしまうことも日常茶飯事でした。
――そんな相米演出から学んだことは?
榎戸 何もない(笑)。でも「役者の生理」みたいなものは現場でよく観察できました。だって1日60回とか70回ぐらい、同じ芝居を俳優さんにやらせるんですから。
――それはすごい……。
榎戸 相米さんは、現場でとにかく役者の芝居を集中して見たい。だから「よーい、スタート」の声すら自分ではかけないんです。仕方ないので、相米組では「よーい、スタート」の声を出すのは僕の担当でした。
――そうだったんですか!
榎戸 今思えば、相米作品のなかで『セーラー服~』はだいぶ分かりやすい映画ですよ。もちろん、ちょっと不思議な味わいもあるんですけどね。たとえば終盤、柄本明さんが演じた黒木刑事が死んでから数カ月後、ひろ子ちゃんの前に斎藤洋介くん演じる別の刑事が現れる場面。同じように「星泉さんですか?」と訊く。まるで同じことが繰り返される不条理劇のように……。やっぱり、どこか変な魅力があるんです。
【インフォメーション】『セーラー服と機関銃』4K Ultra HD Blu-ray発売日:10月30日(金)価格:22,000円(税込)発売・販売:KADOKAWA
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