撮影/西邑泰和

奈緒「正解が分からないから、お芝居に惹かれた」俳優人生を変えた“偶然の選択”

2026.07.10 08:03
提供:ENTAME next

京極夏彦による異色のミステリー小説が原作の主演映画『死ねばいいのに』で、何者かに殺害された女性の知人を訪ね歩く謎めいた女性・渡来映子を力強く演じる奈緒。地元・福岡でスカウトされて、モデルとしてキャリアをスタートしたが、ひょんな選択から芝居と出会い、俳優への道を歩み始めた。二十歳での上京、朝ドラ出演で一変した環境など、俳優としての出発点を語る。(前後編の後編)

――芸能活動の始まりは地元・福岡だったそうですね。

奈緒 高校1年生のときに地元のモデル事務所にスカウトしていただいたのですが、もともと早く働きたいと思っていたのでうれしかったです。その頃は主にモデルのお仕事をさせていただいていました。高校卒業後の進路を考える時期になったとき、大学進学も考えたのですが、お芝居と出会って、演じることが好きになったので、これを職業にできて、ご飯を食べられるようになったら幸せだなと思って、俳優を志すことになりました。

――お芝居に出会ったのはどういう経緯だったのですか。

奈緒 たまたまモデルとお芝居のワークショップがそれぞれあって、同じ日に同じ先生が教えてくれるから好きな方を選んでいいよという授業だったんです。だったら、やったことのない方をやってみようと思って、お芝居を選択したのが初めての出会いでした。それからお芝居を重ねていく中で、友達が部活に一生懸命打ち込んでいるように、熱量を持ってできるお仕事だと感じたんですよね。

――なぜ、お芝居に惹かれたのでしょうか。

奈緒 モデルのお仕事をやらせていただきつつも、ずっと自分がこの仕事を続けていけるという自信が全くなかったんです。それにモデルは写真という形に残るので、すぐに確認できるんですが、お芝居で「これが正解かどうか分からない」という体験をして、その「分からないところ」に惹かれましたし、分かろうとするからこそ続けられるんじゃないかという確信もありました。それで親と、当時の事務所の方に相談したら、その道をみんなが応援してくれて、思いきって飛び込みました。

――当時から映画はお好きだったんですか。

奈緒 人並みには観ていたんですが、たくさん映画を観るようになったのは、お芝居が楽しくなってからで、まずは100本観ようというノルマを自分に課したんです。集中的に映画を観続ける日々を過ごしたときに、「私はこういう作品が好きなんだ」という発見や衝撃的な出会いがたくさんあって。最初に観た1本が自分の人生を変えるような、劇的な出会いが映画とできていれば、それも幸せなことですが、私の場合は100本観ていく過程で自分自身を知ることができて、気づいたら邦画ファンになっていました。

――映画館に足を運んでいたんですか?

奈緒 DVDで観ることもありましたが、できる限りは映画館に行っていました。当時は東京と福岡を行き来していて、福岡だと劇場公開される映画も限りがあるんですが、東京に行くと名画座もあるので、昔の作品も映画館で観ることができる。東京に来たときは映画館に行くのが一番の楽しみで、目黒シネマや、今はなき飯田橋ギンレイホールに通っていました。特にギンレイホールは年間パスポートを買って、全上映作品を制覇するという目標を立てて通っていました(笑)。その時点で「映画があったら人生が楽しい」という気持ちになっていましたね。

――特に好きな監督は?

奈緒 岩井俊二監督が大好きで、もちろん岩井作品は観ていましたが、「岩井監督の現場スタッフさんはどんな人なんだろう」と調べて、同じカメラマンさんが撮っている作品や、助監督として付いていた方が撮った作品など、そこから派生して、いろんな映画を観るようになりました。俳優として現場に行ったときに、私が好きな映画のカメラマンさんのTシャツを着ているスタッフさんがいて、「一緒に仕事をしたことがあるよ」と、そのときのエピソードをお聞きできるのが幸せで、夢のような時間でした。照明部さんや撮影部さんをはじめ、様々な部署の方たちがたくさんのことを教えてくださって、現場で育てていただいたなと思います。

――二十歳で単身上京しますが迷いはなかったのでしょうか。

奈緒 すぐに決心できました。というのも福岡は博多駅から空港が近いので、上京するのも遠いところに行くという感覚は想像していたよりなかったんです。これが東京のように、空港に行くまで時間がかかる地域だったら違っていたかもしれません。それに、福岡で一緒にお仕事していたスタッフさんや所属事務所のみなさんが「いつでも東京に行っていいんだよ。何かあったら戻ってくればいいんだから」と背中を押してくださって。だからこそ、「一つでもみんなに見せられるものを持ち帰らないと福岡に帰れないぞ!」という気持ちはありました。だからホームシックにもならず、何かあったら福岡のみんながいるというのが心の支えでした。

――後にお母様も上京されるんですよね。

奈緒 2017年にNHK連続テレビ小説『半分、青い。』の出演が決まったタイミングで私からお願いしたんです。東京と福岡で離れて暮らしていたときに、「あと何回、母と会えるのかな」と数えてしまうことがあったんですよね。「数え切れないくらい会いたい」という気持ちがあって、母に「東京に来ない?」と相談をしたのがきっかけでした。ありがたいことに朝ドラが決まってからは忙しい日々で、母が来てくれたことで安心感がありました。

――娘に上京してほしいと言われて、お母様も喜んだでしょうね。

奈緒 うれしそうでした(笑)。ただ母自身もそうですが、私の環境もどんどん変わっていって、そばにいればいるほど忙しさも分かるので、すごく心配をかけたと思います。

――奈緒さん自身は急激な環境の変化を、どのように乗り越えたのでしょうか。

奈緒 最初は遅れてついていく感覚でしたが、ある時期から波のようなものと置き換えて、「乗れるときは波に抗わず乗っかろう」という気持ちで、あまり深く考えずに、とにかく毎日自分のベストを尽くせるかどうかというところで、20代前半は走っていたように思います。

――ターニングポイントとなる作品は何でしょうか。

奈緒 幾つかあるんですが、やはり朝ドラは大きかったです。たくさんの関係者の方に名前を知っていただいて、お仕事のお声がけをいただく機会が増えました。その後、2019年のドラマ『あなたの番です』(日本テレビ)に出演させていただいたときに、役名の尾野幹葉で呼んでいただくことが多くて。今まで挑戦したことのなかった役柄というのもあってか、みなさんに覚えていただいて。その経験が自分にとっては大きかったですし、「撮影が終わったら自分の中で真っ白に戻して、1から組み立てて次の現場に行く」というやり方で間違わずにやっていけそうだと思えた作品でした。

ヘアメイク/竹下あゆみスタイリスト/岡本純子

映画『死ねばいいのに』テアトル新宿ほか全国公開中!

出演:奈緒 伊東 蒼 前原 滉 髙橋ひかる 草川拓弥 田畑智子 平原テツ原作:京極夏彦 「死ねばいいのに」(講談社文庫)監督・編集:金井純一脚本:喜安浩平音楽:D flat主題歌:This is LAST「アイリス」(SDR)

©京極夏彦/2026映画「死ねばいいのに」製作委員会配給:S・D・P

公式サイト:https://shinebaiinoni-movie.com/

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