制作陣が語る、NHK『ひらやすみ』が15分枠で成立した理由「長尺だったら“事件を起こさなきゃ”になっていた」
真造圭伍が手がけた同名漫画が原作のNHKの夜ドラ『ひらやすみ』(月~木、22時45分~※NHK ONEで同時・見逃し配信中)。親交のあった高齢女性・和田はなえ(根岸季衣)から一戸建ての平屋を譲り受けた29歳のフリーター・生田ヒロト(岡山天音)が、美大に進学するために山形から上京してきた18歳のいとこ・小林なつみ(森七菜)と一緒に暮らす様子を描いたヒューマンドラマだ。ありふれた日常が淡々と映し出される内容に癒される視聴者は多い。(前後編の前編)
考察したくなるサスペンス要素もない。キュンキュンする恋愛要素もない。それでも視聴者の心を惹きつける本作がどのように制作されているのか、制作統括を務める坂部康二氏と、監督を務める松本佳奈氏に話を聞いた。
◆15分だからこそのメリット
――まず今回、漫画『ひらやすみ』をドラマ化した経緯を教えてください。
坂部康二氏(以下、坂部) 去年1月ごろに本作を知ったのですが、まず単純に漫画自体が面白いなと。また、「起伏があるわけではないストーリーを今の日本で、夜の時間帯にドラマとして描くことは挑戦的で面白そうだな」と感じました。
――月曜から木曜の15分で放送される“夜ドラ”枠にした背景は?
坂部 当初は45分や1時間の枠で考えていたのですが、編成から「夜ドラのほうが良いのでは?」と言われて方向転換しました。原作の1話がだいたいドラマの15分に相当するので、この枠での放送で良かったですね。むしろ長い枠だったら、空気感や時間の流れよりも「何か事件を起こさなきゃ」ということに意識が持っていかれていそうだったので。
――15分だからこその見やすさがありますよね。
坂部 そうですね。SNSでも「Vlogを見ているみたい」という感想があり、「なるほど」と感じました。「好きな人の日常を定点観測のように見ていたい」と考える人も思いの外いたため、結果的に15分でちょうど良かったですね。
松本佳奈氏(以下、松本) また、「15分という長さに見慣れている」というのも大きいのではないでしょうか。なつみと、なつみの友達・横山あかり(光嶌なづな)のやり取りに対して、SNSには「『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)みたい」という意見も多かったのですが、『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』(同)といった長寿アニメは1話が10~15分ですよね。無意識に見慣れている長さだったことも、受け入れられている要因なのかもしれません。
――『ドラえもん』(テレビ朝日系)も1話15分ほどなので、親しみ深い長さと言えそうですね。
坂部 あとは必ずしも夜に見る人ばかりではありませんが、1日の終わりにほっと一息つくタイミングで放送していて、それでいて緊張感をほぐすような内容になっていることも、楽しんでもらえている要因の1つなのかなと思っています。
◆作中の雰囲気の作り方
――松本さんが監督を務めた『団地のふたり』(NHK BSプレミアム)や『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系)同様、本作からものんびりとした空気感が醸し出されていますが、作中の空気感はどのように作られていますか?
松本 この2作品と本作に共通しているのが、“決め台詞がない”というところです。良いことを言おうとせず、私たちが日常的に使っている言葉を喋ってもらうようにしているので、そのことがのんびりとした空気感を作り出せているのかもしれません。
――また、別作品であれば29歳・フリーターが主人公であれば、どんよりとした雰囲気になりかねません。しかし、ヒロトにも、そして作中にも悲壮感はなかったですね。
松本 特に悲壮感を出さないように注意したことはありません。原作自体が、世の中の価値観とは違うところで生きている人たちの物語で、また「身の回りの小さなことを大切にしながら生きていく」ということを示している内容に感じたので、そこは大事に描きたいなと。
――特にヒロトは自分の視点を大切に生活していますよね。
松本 はい。“社会から見られる自分を大切にする”というよりは、“自分が見ている世界を大切にする”ということは意識して、ドラマを制作していますね。
――ヒロトというキャラを作り上げるため、岡山さんと重点的に話し合ったこともあるのでは?
松本 会話の“間”ですかね。岡山さんとは事前に「ヒロトって間が独特な人ですよね」「間が長くなってもヒロト自身は全然気にしないし、周囲もそれを気にしなそう」といったことを細かく話して撮影に臨みました。
――たしかに間が絶妙に「ヒロトだな」と感じました。また、普段はのほほんとしていますが、俳優の時はキリっとしていて、2つのヒロトの顔を演じ分ける岡山さんの演技力に驚かされました。
松本 ちょっとした表情の違いで、全然異なる印象を与えられるのは本当にすごいですよね。普段はふにゃふにゃしていて笑っている表情が多いですが、俳優の時は目に力が宿っているように感じます。目の表現力が豊かな役者さんですよね。
◆歩くシーンが多かった理由
――ナレーションの小林聡美さんも、作品の空気を温めている重要なピースです。ナレーションは登場人物が担うケースが多いですが、なぜ小林さんを起用したのですか?
松本 原作にもナレーションは描かれています。「このナレーションはどこからこの物語を見ているのかな?」と考えた時、阿佐ヶ谷の空の上から2人が暮らす平屋を眺めながら、時にツッコんだり、時に「頑張れよ」と応援したりして喋っているイメージが浮かんだんです。
――“見守ってくれる存在”としてナレーションを考えていたと。
松本 そうですね。フラットに物事を見ているけど優しい。一見ドライだけどヒロトたちのことを「可愛い」と思っている。イメージを鮮明にしていくと、「小林さんしかいないな」となりました。やはり言葉をニュアンスひとつで笑わせてくれたり、ジーンとさせてくれたり、小林さんがナレーションをしてくれることで、物語がより彩られると思いました。
――小林さんのナレーションもそうですが、本作は歩くシーンが多いことも印象的です。なぜ歩くシーンが多いのですか?
松本 その人が家からどこかに向かって歩く時に、その街並みと一緒に歩くという雰囲気が好きなんですよね。あと、ただ歩いているだけでも「どういう気持ちで歩いているのか」ということを感じさせる描写も好きで、カットはせずにちゃんと撮りたいと思いました。
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