『Tokyo middle 30』で注目、「35歳女性」が人生の分岐点になったワケ
2026年夏ドラマで“女性・35歳”のキーワードを頻繁に見かける。まずは35歳、女性それぞれの生き方を描いた仲里依紗・主演『Tokyo middle 30』(フジテレビ系)。7月にスタートとして放送は終了しているが、松本まりか、高橋メアリージュンW主演『エミリとマリア』(MBS毎日放送)では、35歳が幸せを求めてモヤモヤしていた。その他『35歳、今さら恋とかありえない』(TOKYO MX)など、35歳の女性たちが連ドラ界隈をうごめいている。どうやら昨今の日本では35歳が、女性のひとつの分岐点として認識されているらしい。
◆35歳が女性の分岐点になったのは……?
ひと昔前の日本を振り返ってみよう。1980年代ごろまでの高度経済成長期からバブル経済期以前までは、女性のすべては「結婚、出産」に集約されていて、分岐点は24歳。25歳になると「12月25日に売れ残ったクリスマスケーキ」と鼻で笑われていた。決して嘘ではない。もっとも、終身雇用とお見合い結婚が全盛だった当時なので、就職、結婚、出産、育児の人生レールに乗っかるのは、義務教育と同じことだったらしい。女性は皆、サザエさんのように専業主婦になっていたわけだ。
バブル崩壊後の1994年ごろの女性の分岐点は、三十路に突入する前の29歳。もちろん仕事は寿退社をして、結婚と出産をするのが前提。1985年に発令された男女雇用機会均等法の影響もあって、女性の雇用環境もほんの少しずつ改良されつつあるものの、30歳以上の女性社員を揶揄する「お局様」の言葉もあったので、やはり女性の生き方は「高身長、高収入、高学歴」の旦那を捕獲することに帰結していた。
この当時、放送された山口智子主演のドラマ『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)は、女性層を中心に大ヒット。私もリアタイしながら「29歳になったらこういうことで悩むのか」と考え、いつしか自分の生き方のロールモデルになっていた。今から約30年前のことだ。
◆SNS、東日本大震災、卵子凍結がキーワードに
そして冒頭通り女性の分岐点が1991年生まれの35歳となり、多くの作品が制作されている。ではなぜ、30年間の時間経過で5年間も伸びたのか? これは私の推論ではあるが、「SNS、東日本大震災、卵子凍結」の3つが関わっているのではないかと感じる。
ちょうどガラケーからスマホへの転換期があって、SNSがインフラになった年代だ。他人の虚像された生活を垣間見ることで疲れ、愚痴を読んで「育児とはこんなに大変なのか」と現実を知る。それなら自分は結婚も出産も不要だと、老後に向けた投資を始める女性も増えたはず。加えて20歳前後に有事(東日本大震災)を経験して、目の前の現実が消えた瞬間の絶望を知り、自分に何ができるのか、何をしたいのかを問いただろう。誰かと共生する選択肢を捨て、居心地のいいコミュニティーを求めた人もいたと聞く。ジェンダー・アイデンティティがバラエティー番組のワンコーナーではなく、通常として認知されはじめたのもこの世代は目の当たりにしている。
そして出産リミットの年齢が上がったのは大きい理由だ。1991年に日本産科婦人科学会が、高齢出産を「30歳以上」から35歳に引き上げたことで、女性の心理状態もやわらいだはず。卵子凍結も徐々に浸透して、最近では自治体から補助金も出るようになった。前述の『29歳のクリスマス』の最終回では、彩(松下由樹)が予期せぬ妊娠をして独身で産むと決めたときに、典子(山口)が「父親がいない(非嫡出子)と戸籍に“男”“女”と書かれるだけ」と泣きながら怒っていたが、2004年の法改正によって“長男”“長女”など、嫡出子と同じ表記をされるようにもなった。つまり、意にそぐわない結婚をしなくても、子どもを女性が単身で産める手段が日本にもできた。結果、35歳は女性の分岐点につながったのではないだろうか。
さて、冒頭で注目した“女性・35歳”のドラマたち。その中でも『Tokyo middle 30』が面白い。美容外科医の夫と5歳の息子と暮らす専業主婦の佐倉麻紀(仲)、恋人と同棲中で妊娠が発覚した教師の永野薫子(深川麻衣)、仕事はできても恋人と貯金のないアパレル店員の山地遥(のん)。高校の同級生だった3人は偶然再会して、再び会うようになる。
が、高校時代のように3人とも同じ生活環境ではなく、悩みも三者三様。分岐点の年齢が変遷したものの、仕事、恋愛、結婚、出産、育児と私がドラマで知っている30年前から悩む内容は大きくは変わらない。そんな様子を「女3人は揉めるぞ〜」と、とうの昔に過ぎてしまった35歳をなつかしく思いながら見ている。特にいちばん幸せそうにうらやまれる立場の麻紀がブチ切れるシーンは爽快だ。
薫子:(恋人が)結婚の話なると不機嫌になる麻紀:はあああああああ!? やることやっといて?
セリフはニュアンスだけど、第2話のこんな掛け合いに笑った。現役でも、これからでも、過ぎ去った時間でも“35歳”を見直すきっかけにぜひ。
(文/コラムニスト・小林久乃)
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