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『silent』脚本家が一変…蒼井優『Tシャツが乾くまで』が初回から突きつけた“好きな人フィルター”の恐怖

2026.07.17 20:03
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主演の蒼井優と松山ケンイチ、夏帆と中島歩の2組の夫婦を描く夏ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)。脚本は社会現象を巻き起こし、目黒蓮が大ブレイクした『silent』(フジテレビ系)の生方美久氏が担当しており、心地よい会話劇が繰り広げられるものだと期待していた視聴者も多かった。ただ、蓋を開けてみると、生活が一変する残酷さや家族の脆さが描かれ、第1話から衝撃展開を見せた。

雑誌編集者の瀬尾咲子(蒼井)は、仕事は出来るが家ではずぼらなところがある。喫茶店を営む夫・瀬尾充(松山)は、そんな彼女を家事面で補完し、愛情も十分注いでくれる。咲子は夫に「好きな人フィルター」をかけたまま、幸せに暮らしていた。

ひょんなことから咲子と出会った園田樹生(中島)は、妻・園田あずさ(夏帆)と充の関係を疑っていた。この夫婦には幼い子どもがいるものの、樹生の不器用さにあずさが不満を募らせている様子があった。彼女はパート先の古書店で三島由紀夫の「愛の渇き」を立ち読みしていた。

ある第3金曜日、橋から高速バスが転落し、12名が亡くなる事故が起きた。乗客だったあずさは亡くなり、充は行方不明になった。自身もあずさを失い喪失の最中にある樹生だが、夫の安否が分からない咲子に協力を申し出る。ただ、初回終盤で、樹生は咲子に、充とあずさは不倫関係にあったと告げ、夫を信じ切っていた咲子に「好きな人フィルター」を掃除した方がいいと言い放つ。

脚本・生方氏の出世作『silent』は川口春奈と目黒蓮の純愛もの、その次の『いちばんすきな花』(フジ系)は多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠のクアトロ主演で男女の友情がテーマ。それぞれ、TVerお気に入り登録数歴代1位と6位に入るヒット作だ。この2作のように情感たっぷりに言葉が行き交う美しい物語を期待していた視聴者には、今作の衝撃展開は驚きに映っただろう。ドラマとしては、初回から松山、夏帆というビッグネームが回想を除き一旦退場となった。

ただ、生方氏の直近2作を振り返ると『海のはじまり』(フジ系)では元恋人が亡くなり、彼女が遺した少女を突如託されるシングルファザーの葛藤が描かれ、『嘘が嘘で嘘は嘘だ』(フジ系)では、元夫婦が離婚の原因となった元夫の不倫相手の殺人事件に絡むなど、挑戦的なストーリーとなっていた。後者では元夫婦が、居合わせた刑事、結婚詐欺師と4人で和やかに、テンポ良い密室の会話劇を繰り広げていただけに、終わり方にゾッとさせられた。

特に、『silent』と『いちばんすきな花』と同じ脚本家だという「フィルター」があるほど、このサイコホラーはパンチが効いてくる。生方氏の連ドラは今作が5作目になるが、良い意味で初めの2作のイメージを裏切り、紡ぐ物語は幅の広さを増している。

そんな生方氏は今作の公式サイトで、人間関係のフィルターは便利で手間がかかるとコメントしている。咲子は「好きな人フィルター」で夫を完璧だと思い込んでいた。一方、樹生はあずさに疑いのフィルターをかけている。一度かけると、関係のないことも全て自分が思い込んでいる方向に考えが帰結する恐ろしいフィルターだ。

さらに、樹生はそのせいで、夫として足りない点があることに気づいていなかった。自分に対しては甘々なフィルターがかかっていたのだ。咲子も同じかもしれない。確かに便利で手間がかかるフィルターだ。生方氏は、自分が見たいようにしか世界を見ない人間の業を、ミステリー的な手法を用いて炙り出している。

生方氏の連ドラ5作は、徐々に人の残酷さや冷徹さ、綺麗ごとでは片づけられない生々しい感情が交錯するようになった。それでも根底にあるのは、登場人物が人との繋がりを求めていること、そして再生しようとしていることだ。

第2話では咲子が自分と夫にかけていたフィルターに気づき、それを洗い出す作業が始まる。店長である充について何かを知っていそうなカフェ店員・矢野直人(高橋文哉)が、樹生に咲子との関係を問いただすシーンがある。それにも直人の疑惑のフィルターがかかっていそうで、物語をかき回していく存在になるだろう。

共に配偶者を喪失した状態で、実際に樹生と咲子が急接近するのかは分からないが、視聴者にはそう見えるようにフィルターがかけられる。このドラマのフィルターは、思ったよりドロドロとして、手間がかかりそうだ。それでも、咲子と樹生にどんな再生が待っているのか、そのフィルターの先を見てみたいと思わせてくれる。

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