映画『TOKYOタクシー』木村拓哉×倍賞千恵子が描く「寄り道に満ちた一日」と『パリタクシー』からの深化
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、『TOKYOタクシー』。気になった方はぜひ劇場へ。
○ストーリータクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、ある日85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京・柴又から、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれは浩二に、「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」と寄り道を依頼する。タクシーで旅を共にするうち次第に心を許したすみれは、自らの壮絶な過去を語り始める。偶然出会った二人の心が、そして人生が大きく動いていくことになる――。
○おすすめポイント『武士の一分』(2006)以来19年ぶりとなる、山田洋次監督と木村拓哉のタッグ。かつて山田監督は、“時代劇だからと構えず、木村拓哉のままでいてほしい”と望んだというが、今回もその姿勢は変わらない。タクシー運転手・宇佐美を演じる木村は、良い意味で “飾らない木村拓哉”のまま。役づくりというより、人物に自然に流れ込んでいくタイプの演技だ。このスタイルには賛否はあるが、今作では見事にハマっている。
対する倍賞千恵子は、『男はつらいよ』シリーズの“さくら”で国民的存在となった名女優。今作の85歳の高野すみれ役では、84歳の現在でもなお“山田作品のヒロイン”であり続けることを証明した。二人は『ハウルの動く城』以来の共演だが、実写映画で相まみえるのは初めてというのも興味深い。
さらに本作はフランス映画『パリタクシー』(2022)のリメイクであり、山田洋次にとって海外作品のリメイクは初挑戦だ。94歳でなお新たな表現に踏み出す意欲には驚かされる。元作の設定は国を問わず成立する普遍性があり、日本版でも大きな違和感はない。戦争の記憶はナチスから東京大空襲に置き換えられ、DV夫への復讐や裁判の描写など、流れはほぼ踏襲されている。
しかし日本版は、キャラクターの厚みが格段に増している。人物数も増えた分、物語は複層的だが、無理なく構成され、自然にエピソードが積み上がっていく。宇佐美とすみれが“寄り道”の中で互いの内面に触れていくストーリーが、より丁寧に描かれている点が特徴だ。
『パリタクシー』の運転手シャルルは、欧州の厳しい労働事情を象徴する存在だった。しかし日本版の宇佐美は、より生活レベルに寄り添った“庶民的な苦しさ”を抱えている。どれだけの金額がいつ必要なのかが、明確に描かれるあたりに山田作品らしいリアリズムがある。だからこそ、単なる「客」だったはずのすみれが、寄り道の中で対話の相手となり、宇佐美が彼女と向き合う姿が深く響く。
料金を請求するべきか迷う宇佐美の葛藤は、短時間で築かれた絆をどう扱うかというテーマにつながる。元作にも同じ悩みはあるが、日本版はより“身内ごと”として胸に刺さる。それは、今の日本において“お金より大切なもの”を考えさせる稀有な瞬間だ。
また、本作には観光映画としての魅力もある。パリの街並みに代わり、東京の下町や思い出の地を巡る“寄り道”は、過去と現在を対比させる舞台装置として機能する。懐かしさと新鮮さを併せ持つこの旅は、物語の情緒をさらに引き立てている。
そして意外な点として、優香の約6年ぶりの映画出演がある。昭和の女優を彷彿とさせる仕草やリアクションは、志村けんとのコントの名残のようにも見え、独特の味わいを生んでいた。
木村と倍賞が寄り道の中で心を開いていく物語と同じように、日本版『パリタクシー』もまたリメイクでありながら、丁寧に積み重ねられた“日本の温度”を感じさせる一本に仕上がっている。
▽作品情報監督:山田洋次脚本:山田洋次、朝原雄三出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、優香、イ・ジュニョン、中島瑠菜ほか原作:映画「パリタクシー」(監督 クリスチャン・カリオン)配給:松竹11月21日(金)より全国公開中
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