©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会

映画『TOKYOタクシー』木村拓哉×倍賞千恵子が描く「寄り道に満ちた一日」と『パリタクシー』からの深化

2025.11.29 06:03
提供:ENTAME next

この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、『TOKYOタクシー』。気になった方はぜひ劇場へ。

○ストーリータクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、ある日85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京・柴又から、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれは浩二に、「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」と寄り道を依頼する。タクシーで旅を共にするうち次第に心を許したすみれは、自らの壮絶な過去を語り始める。偶然出会った二人の心が、そして人生が大きく動いていくことになる――。

○おすすめポイント『武士の一分』(2006)以来19年ぶりとなる、山田洋次監督と木村拓哉のタッグ。かつて山田監督は、“時代劇だからと構えず、木村拓哉のままでいてほしい”と望んだというが、今回もその姿勢は変わらない。タクシー運転手・宇佐美を演じる木村は、良い意味で “飾らない木村拓哉”のまま。役づくりというより、人物に自然に流れ込んでいくタイプの演技だ。このスタイルには賛否はあるが、今作では見事にハマっている。

対する倍賞千恵子は、『男はつらいよ』シリーズの“さくら”で国民的存在となった名女優。今作の85歳の高野すみれ役では、84歳の現在でもなお“山田作品のヒロイン”であり続けることを証明した。二人は『ハウルの動く城』以来の共演だが、実写映画で相まみえるのは初めてというのも興味深い。

さらに本作はフランス映画『パリタクシー』(2022)のリメイクであり、山田洋次にとって海外作品のリメイクは初挑戦だ。94歳でなお新たな表現に踏み出す意欲には驚かされる。元作の設定は国を問わず成立する普遍性があり、日本版でも大きな違和感はない。戦争の記憶はナチスから東京大空襲に置き換えられ、DV夫への復讐や裁判の描写など、流れはほぼ踏襲されている。

しかし日本版は、キャラクターの厚みが格段に増している。人物数も増えた分、物語は複層的だが、無理なく構成され、自然にエピソードが積み上がっていく。宇佐美とすみれが“寄り道”の中で互いの内面に触れていくストーリーが、より丁寧に描かれている点が特徴だ。

『パリタクシー』の運転手シャルルは、欧州の厳しい労働事情を象徴する存在だった。しかし日本版の宇佐美は、より生活レベルに寄り添った“庶民的な苦しさ”を抱えている。どれだけの金額がいつ必要なのかが、明確に描かれるあたりに山田作品らしいリアリズムがある。だからこそ、単なる「客」だったはずのすみれが、寄り道の中で対話の相手となり、宇佐美が彼女と向き合う姿が深く響く。

料金を請求するべきか迷う宇佐美の葛藤は、短時間で築かれた絆をどう扱うかというテーマにつながる。元作にも同じ悩みはあるが、日本版はより“身内ごと”として胸に刺さる。それは、今の日本において“お金より大切なもの”を考えさせる稀有な瞬間だ。

また、本作には観光映画としての魅力もある。パリの街並みに代わり、東京の下町や思い出の地を巡る“寄り道”は、過去と現在を対比させる舞台装置として機能する。懐かしさと新鮮さを併せ持つこの旅は、物語の情緒をさらに引き立てている。

そして意外な点として、優香の約6年ぶりの映画出演がある。昭和の女優を彷彿とさせる仕草やリアクションは、志村けんとのコントの名残のようにも見え、独特の味わいを生んでいた。

木村と倍賞が寄り道の中で心を開いていく物語と同じように、日本版『パリタクシー』もまたリメイクでありながら、丁寧に積み重ねられた“日本の温度”を感じさせる一本に仕上がっている。

▽作品情報監督:山田洋次脚本:山田洋次、朝原雄三出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、優香、イ・ジュニョン、中島瑠菜ほか原作:映画「パリタクシー」(監督 クリスチャン・カリオン)配給:松竹11月21日(金)より全国公開中

関連リンク

関連記事

  1. 周囲への“ビジュ批判”が日課な義母!?「悪気はない」と反省ゼロだが…⇒孫からの“正論パンチ”に「うっ…!!」
    周囲への“ビジュ批判”が日課な義母!?「悪気はない」と反省ゼロだが…⇒孫からの“正論パンチ”に「うっ…!!」
    Grapps
  2. 妻が熱で寝込むと…夫「家事も育児も任せて!」しかし⇒完全復活した妻がリビングの扉を開けると…「泥棒?」
    妻が熱で寝込むと…夫「家事も育児も任せて!」しかし⇒完全復活した妻がリビングの扉を開けると…「泥棒?」
    愛カツ
  3. ももいろクローバーZ×スイパラのコラボカフェ、東京・大阪など全国7店舗で開催
    ももいろクローバーZ×スイパラのコラボカフェ、東京・大阪など全国7店舗で開催
    女子旅プレス
  4. 【誕生月別】「実は根っからの超真面目」計画通りに物事を進められる女性ランキング<第1位~第3位>
    【誕生月別】「実は根っからの超真面目」計画通りに物事を進められる女性ランキング<第1位~第3位>
    ハウコレ
  5. 【星座別】恋が始まる。この冬、一目惚れの恋をする女性ランキング<第1位~第3位>
    【星座別】恋が始まる。この冬、一目惚れの恋をする女性ランキング<第1位~第3位>
    ハウコレ
  6. 女性には分かりにくい。目には見えないけど、男性が大好きな女性にだけする愛情表現
    女性には分かりにくい。目には見えないけど、男性が大好きな女性にだけする愛情表現
    ハウコレ

「音楽」カテゴリーの最新記事

  1. SUPER EIGHT「走り切った」デビュー21周年の挑戦 個々の進化経て武道館で再集結【メンバーコメント全文/超八 in 日本武道館】
    SUPER EIGHT「走り切った」デビュー21周年の挑戦 個々の進化経て武道館で再集結【メンバーコメント全文/超八 in 日本武道館】
    モデルプレス
  2. SUPER EIGHTの奇才・丸山隆平、“呪いの歌”「U字の水槽」で武道館を掌握 ファン大合唱にメンバーもツッコミ【MCレポート/超八 in 日本武道館】
    SUPER EIGHTの奇才・丸山隆平、“呪いの歌”「U字の水槽」で武道館を掌握 ファン大合唱にメンバーもツッコミ【MCレポート/超八 in 日本武道館】
    モデルプレス
  3. SUPER EIGHT、初の日本武道館公演「俺らの青春はここからやぞ!」バンド聖地に“超満員”、21周年で全21曲披露【ライブレポート/超八 in 日本武道館】
    SUPER EIGHT、初の日本武道館公演「俺らの青春はここからやぞ!」バンド聖地に“超満員”、21周年で全21曲披露【ライブレポート/超八 in 日本武道館】
    モデルプレス
  4. 「MステSUPER LIVE」12月26日放送決定 第1弾アーティスト48組一挙発表
    「MステSUPER LIVE」12月26日放送決定 第1弾アーティスト48組一挙発表
    モデルプレス
  5. 「ベストアーティスト2025」STARTOシャッフルメドレー歌唱曲発表 8組が参加
    「ベストアーティスト2025」STARTOシャッフルメドレー歌唱曲発表 8組が参加
    モデルプレス
  6. 激しいカラミも見せた松本若菜が『ザ・ロイヤルファミリー』で万能女優に進化するまで
    激しいカラミも見せた松本若菜が『ザ・ロイヤルファミリー』で万能女優に進化するまで
    ENTAME next
  7. 人気アイドル集結「IDOL RUNWAY」2026年3月開催決定 乃木坂46・FRUITS ZIPPERら第1弾出演者発表
    人気アイドル集結「IDOL RUNWAY」2026年3月開催決定 乃木坂46・FRUITS ZIPPERら第1弾出演者発表
    モデルプレス
  8. 「ベストアーティスト2025」全出演アーティストのタイムテーブル発表
    「ベストアーティスト2025」全出演アーティストのタイムテーブル発表
    モデルプレス
  9. 乃木坂46久保史緒里、山下美月との絆伝わる演出に反響「1曲目から涙」「くぼしたに感動」【久保史緒里卒業コンサート】
    乃木坂46久保史緒里、山下美月との絆伝わる演出に反響「1曲目から涙」「くぼしたに感動」【久保史緒里卒業コンサート】
    モデルプレス

あなたにおすすめの記事