BTS・SUGA、寄り添い救う苦しみと孤独 壮絶過去、想像以上の飛躍とこれから
2020.03.09 16:29
3月9日、BTSのSUGAが満27歳の誕生日を迎えた。BTSの一員としてだけでなく1人のアーティスト、あるいは1人の人間として、多くのファンの苦しみに自然と寄り添う彼の不思議な魅力について掘り下げる。
名前の通り、砂糖を彷彿とさせる真っ白な肌、小動物のような可愛らしい顔立ちが印象的なSUGA。しかし、BTSの中では一番寡黙で思慮深い長老のようなポジションを保っている。本名はミン・ユンギ。韓国語で“ユンギ”の同音異義語が“艶”であるため、事務所に所属する前は地元・大邱で“Gloss”の名前で活動していたことがある。
愛されおじいちゃん的マイペースキャラも確立しつつある彼だが、一度ステージに上がれば、スタジオに入れば、その眼差しは鋭利で強烈だ。幼い頃から音楽の道を志した彼は、誰よりも熱い思いを内に秘めてきた。“K-POPの枠を飛び出すスターとなること”、“ビルボードチャートで名をはせること”、“グラミー賞に出ること”…BTSの大記録の道のりは、彼の野望を実現させてきた道だと言っても過言ではない。
ただその野心の一方で、彼の音楽と彼の人生は、想像を絶する苦しみとともにあったことをファンであるARMYなら知っているだろう。彼が作ってきた曲、残してきた言葉の多くは、自らの苦悩や社会への怒りがエネルギーとなっている。
ここで一度、彼がBTSのメンバーになるまでの道筋を振り返ってみたい。韓国南東部の大邱市に生まれたSUGA。幼い頃からピアノに触れていた彼がヒップホップユニットEPIK HIGHの「FLY」を聞いてラップに目覚め、音楽制作を始めたというのは有名な話のようだ。
EPIK HIGHにハマる以前にも、小学生の頃からSTONY SKUNKというレゲエヒップホップグループが好きでライブにも行っていたという。ヒップホップというジャンルに興味を持ち始めたきっかけはSTONY SKUNKの影響が大きいようだ。
中学生の頃からコンピューターとキーボードを用いて作曲、さらに自身で作詞もしていたSUGA。高校生になると大邱のスタジオでアルバイトをしながら音楽を制作し、自らもGlossとして公演するようになった。当時、自作のビートを売ることもしていたようで、パフォーマーというよりプロデューサーとしての意識の方が強かったのかもしれない。
地元と言えど、当時彼の家から繁華街のスタジオまではバスに乗らなければ通えない距離だった。食費と交通費に困った彼が、ジャージャー麺を食べるお金を捻出するためにバスに乗らず2時間の距離を歩いてスタジオに通ったという苦労話を知っている人も多いかもしれない。
そこまでして音楽がやりたかった彼に、高校2年生の頃大きな転機が訪れる。現在はBTSの所属事務所として名を馳せるBig Hitエンターテインメントが、ヒップホップグループ発掘のために行ったオーディション「HIT it AUDITION」に参加し、2位に輝いたのだ。
これを機に彼の運命が動き始める。大邱からソウルに移り、デビューを目指す“練習生”としての生活が始まったわけだ。当初彼はヒップホップユニット・1TYMのように、ダンスではなくラップパフォーマンスがメインのグループになれると思っていたという。
しかし、事務所の方針変更もあり、結果としてダンスが売りのアイドルグループとしてデビューすることになった。練習生としての約2年半、楽曲制作に加え、慣れないダンスの特訓、学生生活、アルバイト…仲間たちは次々に辞めていく中、死にものぐるいでデビューを目指すしかなかったはずだ。
下積み期間の紆余曲折の中で彼が抱えた壮絶な思いは、彼のミックステープ『Agust D』(2016年)の中に多く刻まれている。ちなみにこのミックステープで自らのソロ名義を“Agust D”としたSUGA。Agust Dは後ろから読むとDT(Deagu Town)SUGAつまり“大邱のSUGA”となる。そして「D Town」は彼が大邱時代に活動していたヒップホップクルーの名前でもある。
彼が音楽のためにソウルに上ることを決めた時、周囲の声は温かなものばかりではなかったようだ。「HIT it AUDITION」時のSUGAの映像を見ると、大学進学を押し付けられる怒り、朝方まで曲を作る生活の中で何度も両親と対立したことなどをラップにしている事がわかる。
両親だけでなく周囲に揶揄されながら1人ソウルへ赴き、大都会カンナムで始まった練習生生活。SUGAはキツいトレーニングに加え、生活費・学費がなく朝方のバイトまで始める(朝方の配達のアルバイト中に交通事故に遭って大怪我をしたことでバイトをしていたことが事務所に発覚し、事務所が学費を払ってくれるようになったそうだ)。さらに同世代の知り合いは次々と大学生や社会人になっていく中、終わりの見えない練習生生活で募る焦燥感、孤独感、絶望感。ようやくデビューしてからも、彼らには“アイドルラッパー”という肩書への中傷が浴びせられた。グループとしても、いくら多忙の中で努力しても成績が振るわない日々が続く。
そんな中で湧き出た負の感情が、Agust Dの楽曲には赤裸々につづられた。中には「死ねなくて生きている」というショッキングな歌詞も登場する。
特に衝撃的なのはやはり「The Last」だろう。この曲では鬱や対人恐怖といった極限状態まで追い込まれた過去、1人の青年と、アイドルとしての姿との乖離で葛藤する心情が痛々しいとも言える描写で表され、涙したファンも多いはずだ。
昨年のヒット曲「Boy With Luv」にフィーチャーリング参加した米ポップスターのホールジーも、彼の「The Last」を聞いて彼とのコラボレーションを熱望したという。ホールジーは過去に性的暴行被害やホームレス生活を経験したこと、最近では3度の流産を経験してきたことなど壮絶な過去について告白している。精神病院に入院していたこともあるそうだ。そんな彼女が「The Last」を聞いて感銘を受けたことは深く理解できる。
それほどの壮絶な感情をむき出しにしてきた中でも、そこにはネガティブな要素だけでなく、現状を踏み台に上に登っていこうとあがく“野心”が表れていることも彼らしさの1つだ。「いつかは絶対にビッグになってやる」という強い意思が伝わる歌詞からは、だからこそ彼がこの事務所で能力を見出され、BTSのメンバーとして選ばれたのだと感じざるを得ない。
精神的にボロボロになった姿を歌う「The Last」でさえ、最終的には「俺はもう大丈夫だから心配するな」「ファンよ、堂々と顔を上げてくれ 俺ほどの奴なんて他にいないんだから」と豪語する。どんなに追い込まれ疲弊しようと、そこから立ち上がる闘志をにじませるのがファンを一層惹きつけるSUGAスタイルだ。
結果的に彼は、本当に成功を収めてしまった。BTSとして、前人未到の記録をいくつも打ち立てたのである。闘い続ければ夢は叶うと、自ら証明してしまったのだ。この道を志すきっかけとなったEPIK HIGHとはもうすっかり音楽仲間だ。
苦しみぬいた彼は自己実現の模範例でもあり、彼の人生そのものが、苦悩の中で道を見出だそうとするファンたちの道しるべにもなっている。
一方で彼は、今の若者にとって夢を叶えることがいかに難しいことかもよく分かっている。夢のためにあがき続けたSUGAは、夢を叶えられない人間や夢を持つことさえできない人間にも寄り添う。
彼は今の社会状況を「若者が夢を見ることさえ難しい環境だ」とはっきりと発言している。これはBTSと言うグループ自体に言えることだが、彼らはいくら成功を収めようと、いつだって弱い立場、苦しむ立場の代弁者だ。特にSUGAは、韓国で三放世代、五放世代(日本で言うゆとり、さとり世代)の若者が抱える問題、社会的マイノリティーや鬱や貧困についても度々発言してきた。
韓国GRAZIA誌のインタビューで、「メディアは『どれほど痩せた』かを美の基準にするが、地球の裏側には食べられず餓死する子もいる。そちらに関心を持たなければならない」と発言したこともある。
米TIME誌のインタビューでは、同性愛者の権利について聞かれた際「何も間違ってない。皆が平等だ」と明確に答え、同インタビューで2017年12月のSHINeeジョンヒョンさんの死に話題が及ぶと、SUGAは「この世界の誰もが孤独で、誰もが悲しみを背負っている。その苦しみや孤独を知ることができるなら、辛いときに辛いと言える、救いを求められる環境を作りたい」と苦しむ人々の救済に言及した。
最近彼はファンに対し「たとえ夢が無くても少しの幸せがあれば大丈夫だ」とも諭すようになった。BTSが自分を愛することをテーマとした“LOVE YOURSELF”シリーズが始まった2017年頃からだ。シビアな環境下での自己実現だけを美徳とするのではなく、シビアな環境下にいる人々の心にやすらぎを与えること。それが彼のめざす音楽ビジョンだ。
彼の内面も、BTSの成熟と安定とともに徐々に変化が見られるようにも感じる。常に何かを憂い、どこか生きることに痛みを感じているようだったSUGAが、最近では“ツンデレ”“猫ちゃん”“おじいちゃん”といじらるキャラをのびのびと楽しんでいるようにも見えるほどだからだ。
そんな中でも、やはり今でも彼が人生の苦痛と深く向き合わなければならない時間は多いようだ。BTSの成功後、彼らは新たな痛み、苦しみと直面することになった。墜落の恐怖だ。「自分の目標以上のことを成し遂げると怖くなる。15階まで行ければと思っていたら60階まで来てしまった」とSUGA 自身が話したことがある。想像を絶する高さに到達した時、そこからまた上がり続けるのか、下がっていくのか、一気に落ちてしまうのか、それは登り詰めた者にしかわからない、理解することができない恐怖のはずだ。
最新アルバム『MAP OF THE SOUL:7』内のSUGAのソロ曲「Interlude:Shadow」で彼は「高く飛ぶことが怖い」「飛躍は墜落にもなり得る」など、栄光と共に大きくなった“影”や孤独への不安や恐怖をストレートにつづった。
これにより再びファンは彼の思いに涙することになったわけだが、アルバム全体の意味を考えれば、今作で彼らはBTSという運命を“自分たちにはこれしかない”と受け止め、ファンとともに再び前へ、上へ進んで行かんとする意思を示している。
思い出してみよう。「HIT it AUDITION」で彼は「I believe I can fly(僕は飛べるって信じてる)」「金もなく音楽をやって、飛ぶ時を信じて我慢する」と詞に乗せた。その彼が10年の時を経てこんなに高い空を飛べるようになった今、絶対にARMYは彼を墜落などさせないだろう。
苦しみと孤独の共感力でファンを救い出すSUGAは、一方でファンによって救い出されてきたようにも感じる。強固な支え合いの相互関係を築いてきたBTSとARMYはこれまでも幾度と乱気流を乗り越えてきた。近く兵役も噂されているが、簡単にその関係は揺るがないとその団結力を見ていて思わされている。彼のうちに秘めた熱い思いはいつまでも6人のメンバーとARMYとともにあるだろう。(modelpress編集部)
愛されおじいちゃん的マイペースキャラも確立しつつある彼だが、一度ステージに上がれば、スタジオに入れば、その眼差しは鋭利で強烈だ。幼い頃から音楽の道を志した彼は、誰よりも熱い思いを内に秘めてきた。“K-POPの枠を飛び出すスターとなること”、“ビルボードチャートで名をはせること”、“グラミー賞に出ること”…BTSの大記録の道のりは、彼の野望を実現させてきた道だと言っても過言ではない。
ただその野心の一方で、彼の音楽と彼の人生は、想像を絶する苦しみとともにあったことをファンであるARMYなら知っているだろう。彼が作ってきた曲、残してきた言葉の多くは、自らの苦悩や社会への怒りがエネルギーとなっている。
大邱の音楽少年がBTS・SUGAになるまで
EPIK HIGHにハマる以前にも、小学生の頃からSTONY SKUNKというレゲエヒップホップグループが好きでライブにも行っていたという。ヒップホップというジャンルに興味を持ち始めたきっかけはSTONY SKUNKの影響が大きいようだ。
中学生の頃からコンピューターとキーボードを用いて作曲、さらに自身で作詞もしていたSUGA。高校生になると大邱のスタジオでアルバイトをしながら音楽を制作し、自らもGlossとして公演するようになった。当時、自作のビートを売ることもしていたようで、パフォーマーというよりプロデューサーとしての意識の方が強かったのかもしれない。
地元と言えど、当時彼の家から繁華街のスタジオまではバスに乗らなければ通えない距離だった。食費と交通費に困った彼が、ジャージャー麺を食べるお金を捻出するためにバスに乗らず2時間の距離を歩いてスタジオに通ったという苦労話を知っている人も多いかもしれない。
そこまでして音楽がやりたかった彼に、高校2年生の頃大きな転機が訪れる。現在はBTSの所属事務所として名を馳せるBig Hitエンターテインメントが、ヒップホップグループ発掘のために行ったオーディション「HIT it AUDITION」に参加し、2位に輝いたのだ。
これを機に彼の運命が動き始める。大邱からソウルに移り、デビューを目指す“練習生”としての生活が始まったわけだ。当初彼はヒップホップユニット・1TYMのように、ダンスではなくラップパフォーマンスがメインのグループになれると思っていたという。
しかし、事務所の方針変更もあり、結果としてダンスが売りのアイドルグループとしてデビューすることになった。練習生としての約2年半、楽曲制作に加え、慣れないダンスの特訓、学生生活、アルバイト…仲間たちは次々に辞めていく中、死にものぐるいでデビューを目指すしかなかったはずだ。
ミックステープ『Agust D』で語られる壮絶な苦悩
彼が音楽のためにソウルに上ることを決めた時、周囲の声は温かなものばかりではなかったようだ。「HIT it AUDITION」時のSUGAの映像を見ると、大学進学を押し付けられる怒り、朝方まで曲を作る生活の中で何度も両親と対立したことなどをラップにしている事がわかる。
両親だけでなく周囲に揶揄されながら1人ソウルへ赴き、大都会カンナムで始まった練習生生活。SUGAはキツいトレーニングに加え、生活費・学費がなく朝方のバイトまで始める(朝方の配達のアルバイト中に交通事故に遭って大怪我をしたことでバイトをしていたことが事務所に発覚し、事務所が学費を払ってくれるようになったそうだ)。さらに同世代の知り合いは次々と大学生や社会人になっていく中、終わりの見えない練習生生活で募る焦燥感、孤独感、絶望感。ようやくデビューしてからも、彼らには“アイドルラッパー”という肩書への中傷が浴びせられた。グループとしても、いくら多忙の中で努力しても成績が振るわない日々が続く。
そんな中で湧き出た負の感情が、Agust Dの楽曲には赤裸々につづられた。中には「死ねなくて生きている」というショッキングな歌詞も登場する。
特に衝撃的なのはやはり「The Last」だろう。この曲では鬱や対人恐怖といった極限状態まで追い込まれた過去、1人の青年と、アイドルとしての姿との乖離で葛藤する心情が痛々しいとも言える描写で表され、涙したファンも多いはずだ。
昨年のヒット曲「Boy With Luv」にフィーチャーリング参加した米ポップスターのホールジーも、彼の「The Last」を聞いて彼とのコラボレーションを熱望したという。ホールジーは過去に性的暴行被害やホームレス生活を経験したこと、最近では3度の流産を経験してきたことなど壮絶な過去について告白している。精神病院に入院していたこともあるそうだ。そんな彼女が「The Last」を聞いて感銘を受けたことは深く理解できる。
SUGAが2016年頃までに発表した曲は、そんなダークで強烈なエネルギーで作られたものが多い。苦しみ、負の感情さえ嘘なくさらけ出されているからこそ、生きることに絶望するような局面でさえ、彼の曲が心に寄り添ってくれる。彼の告白は若者たちの苦しみと孤独と共に歩むのだ。
いくら疲弊しても成し遂げた自己実現の道 若者の道標に
それほどの壮絶な感情をむき出しにしてきた中でも、そこにはネガティブな要素だけでなく、現状を踏み台に上に登っていこうとあがく“野心”が表れていることも彼らしさの1つだ。「いつかは絶対にビッグになってやる」という強い意思が伝わる歌詞からは、だからこそ彼がこの事務所で能力を見出され、BTSのメンバーとして選ばれたのだと感じざるを得ない。
精神的にボロボロになった姿を歌う「The Last」でさえ、最終的には「俺はもう大丈夫だから心配するな」「ファンよ、堂々と顔を上げてくれ 俺ほどの奴なんて他にいないんだから」と豪語する。どんなに追い込まれ疲弊しようと、そこから立ち上がる闘志をにじませるのがファンを一層惹きつけるSUGAスタイルだ。
結果的に彼は、本当に成功を収めてしまった。BTSとして、前人未到の記録をいくつも打ち立てたのである。闘い続ければ夢は叶うと、自ら証明してしまったのだ。この道を志すきっかけとなったEPIK HIGHとはもうすっかり音楽仲間だ。
苦しみぬいた彼は自己実現の模範例でもあり、彼の人生そのものが、苦悩の中で道を見出だそうとするファンたちの道しるべにもなっている。
成功者になろうと失わない弱者に寄り添う姿勢
一方で彼は、今の若者にとって夢を叶えることがいかに難しいことかもよく分かっている。夢のためにあがき続けたSUGAは、夢を叶えられない人間や夢を持つことさえできない人間にも寄り添う。
彼は今の社会状況を「若者が夢を見ることさえ難しい環境だ」とはっきりと発言している。これはBTSと言うグループ自体に言えることだが、彼らはいくら成功を収めようと、いつだって弱い立場、苦しむ立場の代弁者だ。特にSUGAは、韓国で三放世代、五放世代(日本で言うゆとり、さとり世代)の若者が抱える問題、社会的マイノリティーや鬱や貧困についても度々発言してきた。
韓国GRAZIA誌のインタビューで、「メディアは『どれほど痩せた』かを美の基準にするが、地球の裏側には食べられず餓死する子もいる。そちらに関心を持たなければならない」と発言したこともある。
米TIME誌のインタビューでは、同性愛者の権利について聞かれた際「何も間違ってない。皆が平等だ」と明確に答え、同インタビューで2017年12月のSHINeeジョンヒョンさんの死に話題が及ぶと、SUGAは「この世界の誰もが孤独で、誰もが悲しみを背負っている。その苦しみや孤独を知ることができるなら、辛いときに辛いと言える、救いを求められる環境を作りたい」と苦しむ人々の救済に言及した。
最近彼はファンに対し「たとえ夢が無くても少しの幸せがあれば大丈夫だ」とも諭すようになった。BTSが自分を愛することをテーマとした“LOVE YOURSELF”シリーズが始まった2017年頃からだ。シビアな環境下での自己実現だけを美徳とするのではなく、シビアな環境下にいる人々の心にやすらぎを与えること。それが彼のめざす音楽ビジョンだ。
彼の内面も、BTSの成熟と安定とともに徐々に変化が見られるようにも感じる。常に何かを憂い、どこか生きることに痛みを感じているようだったSUGAが、最近では“ツンデレ”“猫ちゃん”“おじいちゃん”といじらるキャラをのびのびと楽しんでいるようにも見えるほどだからだ。
成功者が直面した新たな苦悩 墜落はありえるのか
そんな中でも、やはり今でも彼が人生の苦痛と深く向き合わなければならない時間は多いようだ。BTSの成功後、彼らは新たな痛み、苦しみと直面することになった。墜落の恐怖だ。「自分の目標以上のことを成し遂げると怖くなる。15階まで行ければと思っていたら60階まで来てしまった」とSUGA 自身が話したことがある。想像を絶する高さに到達した時、そこからまた上がり続けるのか、下がっていくのか、一気に落ちてしまうのか、それは登り詰めた者にしかわからない、理解することができない恐怖のはずだ。
これにより再びファンは彼の思いに涙することになったわけだが、アルバム全体の意味を考えれば、今作で彼らはBTSという運命を“自分たちにはこれしかない”と受け止め、ファンとともに再び前へ、上へ進んで行かんとする意思を示している。
思い出してみよう。「HIT it AUDITION」で彼は「I believe I can fly(僕は飛べるって信じてる)」「金もなく音楽をやって、飛ぶ時を信じて我慢する」と詞に乗せた。その彼が10年の時を経てこんなに高い空を飛べるようになった今、絶対にARMYは彼を墜落などさせないだろう。
苦しみと孤独の共感力でファンを救い出すSUGAは、一方でファンによって救い出されてきたようにも感じる。強固な支え合いの相互関係を築いてきたBTSとARMYはこれまでも幾度と乱気流を乗り越えてきた。近く兵役も噂されているが、簡単にその関係は揺るがないとその団結力を見ていて思わされている。彼のうちに秘めた熱い思いはいつまでも6人のメンバーとARMYとともにあるだろう。(modelpress編集部)
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