久保史緒里、“乃木坂46を愛しすぎた”故に抱えた葛藤と9年間で越えた壁「アイドル久保史緒里をちゃんと愛せた」【「LOST LETTER」インタビュー】
11月28日の卒業コンサートをもって乃木坂46を卒業した久保史緒里(くぼ・しおり/24)が、初の書き下ろしエッセイ「LOST LETTER」(幻冬舎)を12月16日に出版。モデルプレスでは久保にインタビューを行い、エッセイに込めた思いを聞いた。【インタビュー前編】
久保史緒里、エッセイという形で残した理由
― まずは、アイドルとしての9年間を含めたこれまでの人生について、エッセイという形で残すことを決めた理由を教えてください。久保:私は普段から“書き留める”ということをよくしていて、どこかの節目で形に残したいという思いがありました。乃木坂46を卒業するとなった時、これは自分にとって大きな節目だと感じたので、「本にしたら1つの区切りになるのではないか」と思い出版を決めました。
― 本作では幼少期についても赤裸々につづられています。アイドル人生に区切りをつける作品で、アイドルになる前の人生についても振り返ったことについては、どんな思いがあったのでしょうか?
久保:私は幼い頃からの記憶が割と残っているタイプの人間で、今の自分と過去の自分を照らし合わせる機会がすごく多いんです。比較することで「あの頃より成長できたな」と感じられる良さはあるのですが、それは必ずしも良いことではなくて、「あの時持っていたものって、いつの間に失ったんだろう」と考えてしまうこともあります。けど、そこで考え尽くす時間もまた、私にとって大切なんです。卒業を前にして“アイドル久保史緒里”としての9年間を振り返った時にも、「9年間じゃ収まらないな。加入前の15年間の人生があったからこその、アイドル人生だったな」と改めて実感したので、アイドルになる前のことも書くことにしました。
卒業前だけではなく、アイドル活動をしながらも地元・宮城県にいた頃を振り返る時間はたくさんありました。私は小中学生時代に友人や家族からもらった手紙を大事に全部東京へ持ってきているのですが、乃木坂46に加入してからも、その手紙たちをよく読み返していたんです。連絡先は知らないし、今その子たちが何をしているかもわからない状態なのですが、手紙の中は当時の記憶で止まっていて。「あの時に自分を救ってくれた人たちからの手紙なんだ」と思いながら、定期的に宮城県にいた頃を振り返っていました。
― エッセイ内で「『母にとっての史緒里は、15歳の時のまま、止まっています』という母からの手紙の言葉が忘れられない」といった内容がありましたが、久保さんにとっても、地元の友人は15歳の時のまま止まっているんですね。
久保:そうです。だからこそ、母の気持ちがすごくわかったんだと思います。成人式の時、久しぶりに地元に帰ったのですが、同窓会で約5年ぶりに同級生と会った時に、衝撃を受けたんですよ。結婚している子もいて、「そっか、この5年って大きかったんだな」と感じたのですが、今思うと母もこの感覚に近いものを感じていたんだろうなと思います。
久保史緒里、20歳を過ぎて変化した考え方
― エッセイでは、「20歳を過ぎてから嫌われる覚悟を持つことをやめた」といった内容もありました。“嫌われること”に対する考え方が変化したことで、人生はどのように変わりましたか?久保:すごく生きやすくなった感覚があります。人生の各フェーズにおいて、“こんな風に生きたい”という考えは変化していくものですが、私がアイドルとして生きてきた期間は特に「嫌われることを良しとしよう」という考えを持っていたフェーズだった気がしているんです。「私は嫌われても大丈夫」というマインドでいることを意識していたし、そういった考えについて書かれた本もたくさん読んでいました。でも、本を読み終わった時にしっくりはきていなくて。
時間が経った今思うのは、人は劇的に変わることは難しいということ。私はどれだけ意識をしても、「嫌われるのは嫌だ」という昔からの考え方に戻ってしまったんです(笑)。変われない自分が苦しかった時期もありましたが、20歳を過ぎた頃に「そんな自分を認めてあげよう。私はそんな生き方をしてみよう」と思えるようになって。この考え方が、私にはすごく合っていました。
― アイドルとしても生きやすくなったんですね。
久保:“100人いたら100人に好かれるのは無理”だと頭の中ではわかっていても、どこかで“1人でも多くの人に好かれたい”と思ってしまう自分がいるんです。こんな考え方をしてしまう自分は、アイドルに向いていないなと思います。アイドルに対しては色々な意見があるし、見えない声もたくさんある。そんな全ての言葉と向き合っていたら潰れてしまう職業だと理解していたからこそ、「嫌われないように生きたいなら、そう生きれば良い」という考え方は、自分を楽にする方法でもありました。それは自分への諦めではなく、踏ん切りの1つだったのかもしれません。
久保史緒里、アイドルが好きだからこそぶつかった壁
― 本作には、9年間の活動を振り返る中で「“アイドル久保史緒里”を自分で演出・プロデュースしていたような気がする」とも書かれていました。加入前からグループのこと、アイドルのことが大好きだった久保さんだからこそ叶えられたことがあった一方で、ぶつかる壁もあったのでしょうか?久保:すごくありました。アイドルを長い間見続けていると、なくて良い嗅覚のようなものがついてしまうというか…。グループに加入してからも、同期や後輩を見て勝手に「この子はこっちのコースだな。この子はこっちかな」みたいな、今思うと誰目線?ということを思ってしまっていました。それがマネジメント側であったら素敵な嗅覚だと思うのですが、アイドル自身が持ってしまうと自分が苦しくなるだけですし、絶対にいらない嗅覚だった。アイドルファンで良かった面もあれば、故に苦しんだ面も多かったです。アイドルが好きだったからこそ、少し自分を俯瞰で見てセルフプロデュースをしていた部分もありました。
― ご自身と対照的に「アイドルを通らずに乃木坂46に加入した」存在として、2021年にグループを卒業した同期・大園桃子さんについてもつづられていましたね。
久保:大園のことは羨ましくて仕方がなかったんです。いらない嗅覚を持っていた私にとって、アイドルを通らなかったメンバーはすごく生きやすそうに見えていました。でも、それは違うと今ではわかります。その子たちにはその子たちなりの葛藤や、多分こちら側への羨ましさもあったと思いますし、結局ないものねだりなんだろうなと思います。9年間の活動を通して、卒業された先輩方を含めて本当にたくさんのメンバーを見てきたことで、そう思えるようになりました。
― 久保さんの“アイドル観”のようなものは、加入前も後も一貫していますよね。
久保:自分でもそう思います(笑)。自分がファン目線として「こういうアイドルが好きだな」と思っていた像を生きられた気がしているんです。全くそんなつもりではなかったけれど、無意識に私が推していた、好きだったアイドルさんの生き方を生きられたきがします。
久保史緒里、卒業コンサートで叶えたこと
― 乃木坂46を卒業し、次のステップに進む上で、久保さんは「アイドルとして愛されていたことだけは否定しないでおこう」と忘れたくない思いをエッセイに残していました。先日の卒業コンサートでも、ファンの皆さんに向けて「乃木坂46の久保史緒里を愛してくださりありがとうございました」と感謝を伝えていましたが、卒業コンサートを終えた今、久保さんご自身は「乃木坂46としての久保史緒里」を愛することはできましたか?久保:「自分は乃木坂46を卒業する時に、自分自身を愛せるのか」というのは、活動中もずっと不安だったのですが、卒業した今「“アイドル久保史緒里”をちゃんと愛せた」と言えます!卒業してからグループ時代の自分の歌声を聞くと、不思議と別人に聞こえるようになって、その時「本当に自分は卒業したんだ」と実感したんです。私は、自分にとっても、ファンの皆さんにとっても、すごくハッキリと卒業したいという思いがあったので、皆さんからの愛をたくさん受け取って、ちゃんと区切りをつけて卒業できたことは、これ以上ない最後だったなと思います。
― 卒業コンサートの終わり方にも、そんな久保さんの思いが表れていましたよね。「Wアンコールを敢えて設けず、1度もこちらを振り返ることなく、ご自身でステージを後にする、区切りを打つ」という演出は、ファンの皆さんも感動されていました。
久保:卒業コンサートをやらせていただけたことだけでもありがたいことなのに、色々とやりたい放題させていただいて、本当に感謝しています。実は卒業コンサートを終えてから、その内容についてあまり話していないんです。“語らない美学”を大切にしているからなのですが、ファンの皆さんは色々と考察してくださっているようで、モヤモヤしているだろうな、申し訳ないな、という気持ちもあります。
でも、最後の演出についてはメンバーからも「1度も振り返らずに去っていったのが史緒里ちゃんらしかった」とすごく言われていて、もしかしたら気になっている方もいらっしゃるかと思うので、少しだけお話しようかな(笑)。最後の去り方については、前日に演出家さんが何パターンか案をくださって、最終的に決めたのは当日の朝でした。実は、ほかにも前日や当日に変わったことはたくさんあって、本編でMCを1回も挟まなかった理由も1つではないんです!最後に色々なことを叶えることができて、本当に嬉しいです。
★後編では、卒業後に実感したことや、これからも大切にしていきたいことなどについて語ってもらっている。(modelpress編集部)
PHOTO:矢沢隆則
久保史緒里(くぼ・しおり)プロフィール
2001年7月14日生まれ。宮城県出身。2016年、乃木坂46の3期生としてグループに加入。2022年「乃木坂46のオールナイトニッポン」2代目パーソナリティに就任し、2023年には写真集「交差点」を発売。2025年11月28日の卒業コンサートをもって、グループを卒業した。ドラマ「どうする家康」「落日」「あんぱん」や、映画「ネムルバカ」「ほどなく、お別れです」「恒星の向こう側」など、俳優としても活躍している。久保史緒里エッセイ「LOST LETTER」
「久保の部屋にあった、トップアイドルとして生きてきた9年間に綴った、けれども渡せなかった約150通の手紙。卒業発表直前の短い夏休みに彼女は、訪れた屋久島でその手紙たちを燃やすことにした」。本作は、その旅の道中や縄文杉への登山で去来した思いを綴ったエッセイと、「嫌われたくない人間」であると自覚する久保が読者に宛てて自身の人生経験を凝縮して書き下ろした17通の手紙からなる1冊。幼い頃から卒業を目前に控えた現在に至るまでを振り返るロングインタビューに加え、手紙を手放した屋久島の夜と手紙を綴ってきた自宅で撮影した貴重な写真も収録されている。
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