【「9ボーダー」スタイリストインタビュー】川口春奈×松下洸平で見せる対比 小物・色使い…衣装に隠された3姉妹の"裏テーマ"とは
2024.05.31 18:00
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女優の川口春奈が主演を務めるTBS系金曜ドラマ「9ボーダー」(読み:ナインボーダー/毎週金曜よる10時~)。ストーリーはもちろん、SNS上ではファッションにも注目が集まっている。今回は川口、共演の木南晴夏、畑芽育のスタイリングを担当する金順華氏にインタビューを実施し、3人のファッションの違いや小物のこだわりを語ってもらった。
川口春奈主演「9ボーダー」
本作は、19歳、29歳、39歳と、いわゆる「大台」を迎える前の「ラストイヤー=“9ボーダー”」真っ只中の3姉妹が、「LOVE」「LIFE」「LIMIT」の「3L」をテーマに、モヤモヤや焦りを抱え幸せになりたいともがきながら人生を前向きに進んでいく姿を、完全オリジナルで描くヒューマンラブストーリー。29歳の大庭家の次女・七苗を川口、39歳の長女・六月を木南、19歳の三女・八海を畑が演じる。
視聴者の間では、「七苗ちゃんの服が毎回可愛い!」「三姉妹それぞれ個性的でオシャレ」「真似したい」など、三姉妹が着ている衣装も毎話話題に。今回はそんなスタイリングのコンセプトやこだわりを聞いた。
七苗(川口春奈)、ラインを意識
― まずは、七苗のファッションのテーマやコンセプトを教えてください。金順華:最初に本を読んで、“川口春奈がこの作品をやる”となった時点から絶対モノトーン一択だと決めていました。私の中で、TBSドラマの川口さんと言えば、同作と同じ新井順子Pとの「着飾る恋には理由があって」(2021年)のカラフルな服装がイメージにあったので、キャラクター設定も踏まえ、違った印象になるように大人っぽくしたかったんです。
特に今回は、それぞれのキャラクターがしっかり立っているので、破天荒な姉・六月と、脱力系の妹・八海に挟まれたしっかり者の次女・七苗は、ベーシックなスタイリングが視覚で分かりやすいですよね。七苗は六月と違って“雇われの立場”という意味でも、誰から見ても好印象なモノトーンやベーシックカラーをシンプルに着こなす人だと考えていて、そういうところも一目で分かるような感じにしています。三姉妹の中でキャラクターの色を変えることは大事な要素だと考えてこだわりました。
― 七苗のスタイリングで特にこだわった点やポイントはありますか?
金順華:川口さんの高身長を活かして、ワイドパンツやストレート型のストーンとした男性っぽいラインにしています。例えばぴったりしたシャツにスキニーパンツを合わせるとボディラインが見えて一気に女性っぽい作りになりますが、七苗は男性社会で戦っている女性にしたかったので、敢えてかっこよく見えるように作っています。ワイドパンツも、歩いているときの迫力が出るようにという意図のもと、コンパクトにまとめすぎず大きく見せるような形で、実際の彼女のボディラインよりだいぶ大きく作っています。あまりトレンドは意識しすぎず彼女なりの戦いスタイルになればいいなと思っています。
七苗(川口春奈)、コウタロウ(松下洸平)との対比
― 会社を辞めてから服装も柔らかくなっていった印象です。金順華:そうですね。会社を辞めてからの振り幅も意識しつつ、恋愛パートに移るので徐々に柔らかくなっていきます。ただ、急に色味を入れるのはわざとらしい気がして…。例えば、いきなりピンクの服を着たら「いやいや恋しすぎだろ!乙女か(笑)?」とツッコまれそうですし、そういう安直さは嫌だったので、七苗なりのスタイルであるモノトーンやベーシックカラーは崩さずも、確実に彼女から何か力が抜けた感じが伝わればいいなと思いました。
あとは休日との差も出すようにしています。第2話でコウタロウ(松下洸平)と一緒に過去を探しに行くシーンは、眼鏡スタイルに柔らかいグレーのニットカーディガンとプリーツスカートを合わせたコーディネートで彼女なりのオンオフをつけるようにしています。七苗はいつも戦いに出ている肩に力の入った人間で「私はこうでなきゃいけない」「私がしっかりしなきゃ」「私はみんなに頼られる存在じゃなきゃ」と29歳で持たなくてもいいような鎧を背負っている人にしたかったんです。そういう意味でも、外ではあえて近寄りがたい印象があるモード風のスタイリングを意識しています。また、フラットシューズだと女性っぽさが出るので、男性的なローファーを選ぶことが多いです。
― バッグは年齢に合わせてブランドも考えているのですか?
金順華:これは「TOD'S」(トッズ)のバッグで正直お高めなのですが、彼女が成功しているというキャリアが見えるように選びました。上質なものを長年使う人に見せたく、ほとんど取っ替え引っ替えせず使っています。いろいろな資料やパソコンを持ち帰って仕事しているタイプなので、とにかくサイズは大きめにするよう意識していて、元々大きいものを用意していたところ、監督からも「それよりさらに大きいのがいい」とオーダーがありました。オンオフをつけられるよう、休日はものすごく小さいカバンを持っています。そして方や、手ぶらのコウタロウという絵面が私はすごく好きです(笑)。何も持たない男と、とんでもなく大きいカバンを持って毎日歩いている女という2人の対比が素敵だなと勝手に思っていました。
― 仕事ができるように見せるスタイリングのコツはありますか?
金順華:ぶっちゃけ、バリバリのキャリアウーマンに見せるならスーツを着るのが一番手っ取り早いと思います(笑)。七苗もシャツの上から変形型のニットを重ねたり、小物で遊んだりして少し形は崩していますが、モノトーンでちゃんと締めるところは締めれば枠に収まるかなと思います。
六月(木南晴夏)、小物へのこだわり
― 六月のファッションのテーマやコンセプトを教えてください。金順華:六月は猪突猛進な性格で思想が自由な人なので、監督やプロデューサーからオーダーがあったように、とにかくカラフルにすることを意識しました。「この場所でこんな派手な服は着ない」「なんだ、この奇抜な人は!?」と感じるかもしれませんが、「別にそんなことないよ」という方向性に振って作っています。クライアントがあんなド派手だったら「この人に任せて大丈夫かな?」と思わず心配になってしまうかもしれませんが(笑)、六月は仕事がちゃんとできて成功しているという根底があるからこそ成立していると思います。ただTPOはちゃんとあった方がいいなと思ったので締めるところは締めました。
― 六月はいつもスカーフを取り入れている印象です。
金順華:スカーフは万能アイテムで使いやすいですよね。テイストとして70~80年代のイメージで作ろうと考えていました。第1話冒頭のスタイルは、探偵風にしたかったという狙いがあって、監督からのオーダーで頭にサングラスを足しています。その場で芝居のニュアンスも見ながらみんなで足したり引いたりして作り上げました。
― 古着やアクセサリーも印象的ですよね。
金順華:古着はヨーロッパ系の古着屋さんで借りてきていることが多いです。ただ古着だけで固めず、どこかに取り入れるようなスタイルにしています。彼女が好きなものでまとめ上げると、意外にどれを合わせても奇抜だけどハマるんですよね。
アクセサリーは私のこだわりもあって、良いものを身につけるようにしています。もちろんアンティークっぽいアクセサリーもあるのですが、全部トータルでまとめてしまうと収まりすぎてしまう気がしたので、いろいろなものをミックスして出来上がるのが六月であってほしいなと。クラシックなスタイルが多いので、パール系やカラフルなビジューが付いているイヤリングで、六月っぽいものを選ぶようにしています。ただ「良いブランド品だから買う」のではなく、1点1点こだわって選んでいる中で、気に入ったものがたまたま高かっただけ、となるようにしています。
八海(畑芽育)、 “計算ずくめ”のコーディネートとは
― 八海はいかがですか?金順華:極端に変わることはありませんが、彼女の中で何かが芽生えた印象になるようにしたくて、働き出してからファッションを変えるようにしています。あと、姉2人からいろいろ学んできた賢い三女になるようにしています。例えば、アプリでマッチングした男性からプロポーズされるシーンは、リボンがついたピンクのカーディガンで可愛らしい印象ですが、実はこのスタイルも彼女の好きなスタイルではなく、「男の人に会うにはきっとこういうのがウケるに違いない」と男を落とすためのデート服なんです。結婚するつもりがないのに、陽太(木戸大聖)が立ち会ったプロポーズされた相手と挨拶するシーンも、ギンガムチェックのワンピースにピンクのカーディガンを着て「男性ってこういう服装好きでしょ?」と狙ったパターンにしています。ただ、自宅に招くのでミニスカートであざとくなりすぎないようにして「ロングのコットンワンピースにカーディガンをダボッと羽織っている私可愛くない?」と彼女の中で全て計算済みなんです。だけど自分の恋はうまくいかないという(笑)。
― なるほど…!ガーリー系の服装の印象が強かったので、好きなスタイルなのかなと思っていましたが、裏話をお聞きするとまた違った印象になりますよね。
金順華:そうですね。八海は本当の自分がまだ見えていないから、何がしたいか分からないし、自分がどうなりたいかも分からないんです。10代は、まだ自分に自信も持てなくて、いろいろなことに好奇心がある多感な時期じゃないですか?だから服装にも、10代の迷いみたいな、どこか決まりきらない感じを出せたらいいなと考えて系統を定めないようにしました。あとは、お姉ちゃんたちの良い要素を掻い摘んでいる妹にしたいという狙いもあります。
ただ、私の中で“ピンクが好きな女の子”という設定にしているので、ピンクはどこかしらに取り入れています。逆に1話のパーティー帰りの自宅シーンは、少し思っているところがある心情だったので、ブルーのトレーナーで冷たい印象になればいいなと思ってあえてブルーを選んでいます。
― アクセサリーなど小物のこだわりはありますか?
金順華:八海はずっと家にいてオンオフがないのですが、お風呂に入るときもつけられるようなビーズのネックレスをポイントでつけています。八海の手作りのように見えていたらいいなと。彼女のお部屋を見ていても「暇だからいろいろなものをハンドメイドしているのかな?」と想像して楽しんでいます。
衣装が独り歩きしないキャラクター作り
― キャストのみなさんの意見が衣装に反映されている部分はありますか?金順華:ほとんどないです。ただ、最初に木南さんと衣装合わせしたときは驚かれました(笑)。でもあのスタイルは、木南さんだからこそ成立していると思います。存在がオシャレですし、自分の役を自然に取り込むお芝居の素晴らしさ…。六月の芝居がハマってなかったらこの服はとんでもない大失敗なのですが、木南さんが六月として存在してくれるからこそ、気にならず着られていると思います。
視覚を意識したファッション「目の保養になったら」
― 作品全体としてのファッションのこだわりは?金順華:この作品に登場する人たちはみんな悩んでいます。「やりたい仕事はもっとあるけど経済的に難しくて夢だけ追えない」「結婚したいけど彼氏ができない」…何でもいいのですが、年代ごとに大なり小なり悩みがあるじゃないですか?そういう迷っている人たちに寄り添えるようにリアルなキャラクターにしたいという思いがあります。その中で、暗くなりすぎないようにプラス要素として可愛い色で視覚的にポップになるようにしています。
それこそ、このドラマはジャージを着て普通のトーンで「何を迷ってるの?」と話していても成立する内容のドラマじゃないですか?日常に転がっていそうなものを女性たちにスポットを当てて「誰もがこうやって悩んで成長していくんだよ」と伝える心温まる悩めるストーリーだと思っているので、そこに1つの要素としてファッションも目の保養になったらいいなという思いがあります。
― 他にもありますか?
金順華:視覚的な効果として、色にはすごく重要なポイントだと思うので、毎回コーディネートを組むときに意識しています。もちろんシーンの邪魔にならないようにするのは前提ですが、そのシーンや俳優さんのお芝居の後押しにできるようなことは考えて組んでいます。まあ、視聴者の方はそんなことを考える必要もないですけどね(笑)。みなさんには、ただただぼーっとドラマを観てほしいです。考察系ドラマみたいに考えながら観るドラマは展開があって面白いのですが、そうではなくて「あー分かるわ」「コウタロウ(松下洸平)かっこいいね」くらいのテンションで観られるような、日常に溶け込めるドラマになっていたら、この作品は大成功だと思います。
― 貴重なお話をありがとうございました。
(modelpress編集部)
「9ボーダー」第7話あらすじ
誕生日会を終えて長野へ戻っていた九吾(齋藤潤)が、正式に大庭家に住むことに。父・五郎(高橋克実)からの突然のその知らせに、七苗(川口春奈)、六月(木南晴夏)、八海(畑芽育)は驚きながらも受け入れ、九吾の引っ越し準備と母親の墓参りを兼ねて、大庭家一同で長野へ行くことになった。久々の家族水いらずの旅に、何だかんだと小競り合いしつつも九吾が暮らしていた品川家にたどり着く。早速、荷物の片付けを進める一同。家の中に残る母親の面影を感じる物の数々に、3姉妹はそれぞれ想いを馳せる。一方で未だよそよそしい九吾との距離を埋められないでいた。
さまざまな思いを抱きながら家族との時間を過ごす中、七苗は急遽、1人で東京へ戻ることに。その頃、東京では雨風が強まり嵐の予感が…。
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