宮司・倉田・森アナの取材ノート公開 スポーツ取材の舞台裏、選手の“心を伝える”大切さを語る【フジテレビアナウンサー×モデルプレス連載＜“素”っぴんトーク＞】

フジテレビアナの素顔に迫る「“素”っぴんトーク」

テレビには映らないフジテレビ女性アナの知られざる素顔に迫った連載第1弾「女子アナの“素”っぴん」に続く本連載では、男性アナも交えた鼎談形式にパワーアップ。共通点を持ったメンバー同士が集まり、仲間だからこそ知る“素”の一面を引き出していく。

第3回は、7月23日から開催される東京オリンピックで実況を担当する1995年入社の森アナ、2004年入社の倉田アナ、そしてフジテレビ系東京2020オリンピックメーンキャスターを務める2015年入社の宮司アナが集結。

――――――――後半戦（Vol.6）スタート！

個性が際立つ取材ノートを公開！

― 今日は皆さんが普段使っている取材ノートをお持ちいただきました。これまでお互いのノートを見たことはありますか？

倉田：ないです。

宮司：だからちょっと恥ずかしいですね。思ったことをそのまま書いているので。

― 森アナの歴代の取材ノートが金色なのは理由があるんですか？

森：最初は特にこだわりもなく赤を使っていたのですが、使い切ってからいろんな色が売っていることを知り、それなら金を買うしかないでしょう（笑）。リオでは内村航平選手が逆転の金メダル、バドミントン高松ペアが逆転の金メダルを獲得しました。それからずっと金のノートを使っています。

宮司：すごい。これは多分売れます。

森：そう。でも殴り書きなので、自分にしか読めないものだから。

倉田：これが森さんのすごいところだよね。

― このノートはどんなふうに使っているんですか？

森：選手のデータはもちろんですが、いろんな取材場所で聞いたことをメモしてそれをまとめ直します。時間が経つと忘れてしまうので、改めてレコーディングした音源を聞き返しながらもう一度全部書き出します。そして中継の前に改めて伝えたいことを書き出すので、最終的に3回書き直すことになりますね。

宮司：ただ書くだけではなく、もう一度書き直してさらに頭の中に叩き込むんですね。試験勉強じゃないですか。

― 森アナがそのスタイルに行き着いたのはいつ頃ですか？

森：2003年のワールドカップバレーボールで初めて日本戦を担当したのですが、1ヶ月にわたる長期戦なので大会が始まると何もできなくなってしまうんです。だから毎回きちんと書き留めておかないと、と思って今のようにやり出したのだと思います。

宮司：やり方も人によってそれぞれ違いますからね。

倉田：宮司はどうやっているの？

宮司：私はルーズリーフを使っているのですが、オリンピックに関してはその選手の年表を作るようにしています。この選手がいつターニングポイントを迎えて、この出来事があったから次に繋がったのだというストーリーを頭に入れておきたいので。パッと見てそれがわかるような年表と、インタビューの内容をまとめたものも別に準備しています。

ミックスゾーンの取材内容は、すぐに記事になるのでそれを参考にしてもいいのですが、それとは違うところで自分の心の琴線に触れる部分もありますよね。自分が何を感じて、どこを大事だと思ったのか。それは人の意見に頼るところではなくて、自分の意見を持っていないと情熱を持って伝えられない。なので、現場に行くことはすごく大事なことだと感じています。

あとは例えば体操は、数字が多くて本当に細かい！とにかく間違えないように、前回から比べてスコアがどう変わったかを逐一メモしておきます。考えを整理しやすいよう、私は付箋をよく使っています。

倉田：森さんも体操を担当されていますが、ノートにはやはり細かく書き込んでいますか？

森：うん。僕ら実況は、今、目の前で何が起こっているのかを伝えなければいけない。この選手が何を考えてやっているのかを伝えることももちろん大事なんだけど、今何が起こっているのかを読解できるようになるまですごく時間がかかったよ。最初に担当したのは2009年大会だったのだけど、それまで体操を実況する目線で見たことがなかったから、現場に行ってみても何が起きているのか全然わからなかった。

宮司：わからないし、6種目あるし…。勉強すること多すぎません（笑）？

森：「今、何回回ったの？3回転？2回ひねり…？」ってもう何がなんだか全然わからなくて、本当にどうしようかと思った。

そこでアテネオリンピックで体操の実況を担当していたNHKの刈屋富士雄さん（※）に相談したんだ。刈屋さんは僕が体操の実況について相談したいとわかった上で来てくださっていて、「これ、あげるから参考に」ってアテネで金メダルを獲得した時の体操男子団体の実況資料をくれたの。

※現在はNHKを定年退職。体操男子団体が28年ぶりの金メダルを獲得したアテネオリンピックでの「伸身の新月面が描く放物線は栄光への架け橋だ」の名実況は大きな話題となった。

宮司：すごい。鳥肌が立ちますね。

森：当時、刈屋さんはパソコンを使っていらっしゃらなかったから全て手書き。「僕はこういう感じでやっているよ」ってさらっと渡してくれてさ。

宮司：かっこいいです。

倉田：こういうノートって人に見られることが恥ずかしくもあるし、人のを見ると自分と比較してしまうので見ないようにしている部分もあるじゃないですか。

森：人に見せると思って書いてないからね。フジテレビ系列のアナウンサーは出来上がった資料は全員で共有するじゃない？カッコよく言うと、自分たちが準備したものを全て出しあって、これを超えてごらん？超えさせてもらいます、というやり取りなんだよね。それもまた面白いんだけど、全然関係ないNHKのアナウンサーが僕にそれをやってくれたということがカッコいいよね。

新競技・スケートボードに苦戦中の森アナ・倉田アナ

― 倉田アナはどんなふうにまとめているんですか？

倉田：僕は緻密なタイプではないので2人とは全然違います。今回スケートボードを担当するのですが、正直本当に難しい！板が何回転しているのか、縦に回っているのか、横に回っているのか…。まあとにかく動きが早くて、動きが小さかったりもするんです。

これをどうやって紐解こうかと考えた結果、絵を描いているのですが、森さんも絵を描くとわかりやすいとおっしゃっていたので「あ、間違ってなくてよかった！」と思いました（笑）。

森：本当難しいよね！「指スケ」という指を使って乗るミニチュアスケートボードのおもちゃを使って感覚を掴んでいるところです。でも知らない人が見たら“スケボーのおもちゃでずっと遊んでいるおじさん”にしか見えないだろうね（笑）。

宮司：でもかなり精巧に作られているんですね！ワクワクします！

森：スケートボードの試合動画を見ながら、指でこれを使って再現して気づいたら3時間経っていたかな（笑）。自分で乗れればいいんだけどそれはできないからさ。こう体重をかけるとこうスピンするのか、とかなんとなくね。

宮司：感覚は掴めましたか？

森：錯覚させるのよ。倉田くん、技教えてあげなよ。

倉田：いやー難しいですよ（笑）。手前に縦一回転が「フリップ」、お腹側に回転するのが「ヒールフリップ」、縦横で一回転させるのが「トレフリップ」…（指スケを使いながら実演中）。

宮司：これは選手の利き足によっても右左が違うんですよね？

倉田：そう。スノーボードと一緒。レギュラーとグーフィースタンスがあるよ。

森：これが我々のオリンピック準備です（笑）。

倉田：もう1ついいですか！？このレールのような障害物にトラックという金具の部分をかける技があるのですが、ノーズをかける技、下げる技の判別が本当に難しいんです。

森：倉田、説明が長くてみんな飽きてるよ（笑）。我々の仕事は結果的に良い実況ができればいいわけだから、そのためのアプローチは人それぞれ。これでずっと遊んでいるのも、ただ遊んでいるわけではなくてイメージトレーニングだから。どうやったらその競技を理解できるかということだよね。

倉田：これって本当に最低限なんでしょうね。野球でいったらファースト、セカンド、サードの位置を覚えるくらいの基礎の基礎というか。

スポーツインタビューの難しさ 宮司アナが心がけている“心を伝える”言葉選び

宮司：実況は本当に奥深いですね。スポーツの仕事をするようになりより感じます。

倉田：でも僕からすると、宮司がスポーツキャスターとしてやっている1回のチャンスで相手の心を引き出す方が難しい。僕は苦手。

森：アナウンサーの仕事は「読む、聞く、話す、仕切る」の大体4つじゃない？実況は主に“話す”仕事。宮司がやっている“聞く”ことが一番難しい。金メダルを獲った選手は話しやすい状況になるけど、目標の結果に届かなかった選手の話を聞くことになった時の難しさもあるよね。

宮司：そうですね。それが選手に“心を寄せる”という一番大事な部分に繋がるのかなと思います。実況の方々が起きていることを整理して言葉にして伝える仕事だとしたら、私の仕事は選手の心を伝える仕事。心を捉えるために必要な情報を集める、というのが私の役割なのかなと。

倉田：こうやって長い時間聞けたらいいけど、時間が限られているじゃない？僕はもう緊張しちゃって。

森：今回はコロナ禍だからこれまでとレギュレーションが違うかもしれないけれど、本当にオリンピックの現場は時間管理に厳しい。選手も各国の取材ブースを順番に回っていて、時間が細かく決まっているから質問が途中だろうとなんだろうとスタッフに打ち切られるから気をつけないといけない。

宮司：緻密な作戦を立てて、何が肝なのかわかった上で臨まないといけないですね。

倉田：1問目が大事だよね。僕はミックスゾーンでのインタビューがメインになるので、本当に時間管理には気をつけたいと思います。

宮司：私はインタビューをする時、以前ディレクターから「定形の表現にすがるな」と言われたことを大事にしているのですが、皆さんはどうですか？

森：わかるなぁ。難しいけどね。

宮司：よく聞く「いかがですか」「どう感じましたか」という表現を何も考えずに使わないように、というのは肝に銘じています。

どうしても便利な表現を使い続けるとそれに染まってしまって、ひとつひとつの事象に対して細かい表現ができなくなる。それはプロの仕事ではないと思っているので。

森：すごい。今の話を聞いて倉田さん、いかがですか（笑）？

倉田：全然響いてないじゃないですか（笑）。

宮司：すごくえらそうなことを言いましたが、出来ているかどうかは別として、そういう気持ちでいる、ということです。

森：「S-PARK」を見ていると、宮司がそれを気にして話していることはすごくわかるよ。

宮司：嬉しいです。「思いました」「感じました」とか自分が感じたことにどれくらいの価値があるのかはわからないところでもあるし、とはいえ情報だけではなく自分の感情も入っていないと血の通った言葉にはならない。どうやってそのバランスを取っていくのかをこの3年間考えてやってきましたが、いまだに答えが出ていません。

森：そうやって言葉を交わしていって、選手が宮司を認知してくれると、段々その作業が必要なくなっていって「宮司だから話すよ」という信頼感が生まれてくるわけじゃない？それは宮司がこの3年間頑張ってきた証だよ。

でも今の宮司の話は刺さるね。ついやっちゃうんだよね。「今日の試合、いかがでしたか？」「どんな気持ちで入られましたか？」「抱負をお願いします！」ってね。

宮司：「意気込みを！」とか言いたくなるじゃないですか。一言添えて、その選手の心に触れることができたら、この人の言葉には真摯に答えようと思ってもらえると思うんです。

倉田：そうだよね。それを生のキャッチボールでやる難しさ。

森：インタビューの失敗談は僕もあるよ･･･（苦笑）。

倉田＆宮司：あー例のですか！（※）森さんの目から何か光るものがね（笑）。

※2003年の女子ワールドカップバレー日本対ポーランド戦のインタビューを担当していた森アナ。日本はフルセットの末、強豪ポーランドに勝利したが、森アナは感極まってしまいインタビューできず。代わって高橋みゆき選手がインタビューを行った。

倉田：僕はリアルタイムであの試合を見ていましたが感動しましたよ。

森：後輩たちよ。18年経ってやっとかさぶたができて傷が癒えてきたところなので、剥がしにかかるのはやめてもらっていいですか？

倉田＆宮司：キレイに剥がします（笑）！

倉田：ポーランドという強いチームにずっと勝てなかった日本が、あの試合でやっと勝てた。入社後、自分もバレー班についてみてそのすごさがわかりました。

森：むずがゆい（笑）。反省しかないのに。

東京オリンピック 注目競技と意気込みを語る

― たくさんのお話をありがとうございました。では最後に、…この言葉は言いづらいのですが（笑）、注目の競技と、改めて意気込みをいただいて終わりにしたいと思います。

森：皆さん、いかがですか（笑）？

倉田：では僕から。今回初めてJCとして参加します。そのメンバーに選ばれたことそのものがプレッシャーでもあり、一生に一度あるかないかという大きな機会なのでぜひ頑張りたいと思っています。

注目の競技はスケートボード・ストリートです。開幕から比較的早い段階での競技になり、日本の金メダル第一号もあるのではないかという期待の競技なので、良いスタートダッシュを届けられるような実況を目指したいです。

宮司：では先輩は大トリで。2018年に「S-PARK」がスタートし、スポーツ担当になって3年が経ちます。この3年間はやはりオリンピックを目指してやってきた部分も大いにあったので、これまで培ってきたものを出し切りたいという思いと、選手の皆さんの思い、心を伝える担当として、競技の面白さはもちろん、選手がどんな気持ちでやってきたのか、心を動かす、想像力を掻き立てるような伝え方をしたいなと思っております。

注目の競技は本当に難しいですが、ずっと取材させていただいてきた体操の内村航平選手でしょうか。今大会は団体メンバーではなく個人として種目別での出場になりますが、やはりオリンピックに鉄棒に絞ってでも出たいという思いに触れて、アスリートにとってオリンピックを目指すということが一体どういうことなのか、どれだけの意味があることなのかを感じることができました。ぜひ内村選手の鉄棒の演技に皆さんにも注目していただきたいと思います。

そしてバドミントンの桃田賢斗選手。メダル獲得の有力候補でもありますので、期待がかかるところです。全選手が後悔なく見ている人の心に働きかけるような演技やプレーができたらいいなと心から思っています。

森：皆さん複雑な思いがある中での開催だと思います。この開催に尽力された方、と言葉にすると簡単ですけれども、本当に想像を絶するような支えが裏にあったと思います。当然ありとあらゆるリスクを取って会場に集まっているわけですから、そういう人たちが作っている試合を中継するのだという覚悟を持っていますか、と毎日自分自身に自問自答しながら準備をしています。

試合になれば当然我々は日本選手を応援するのは自然な感情ですが、あの場に立つとどこの国の選手だろうが、世界一を懸けて争っているプラスのエネルギーって本当にすごい。その選手が自分にあまり馴染みのない国の選手だったとしてもです。そして終わった後の“ノーサイド感”というか、プラスのイオンもまたすごい。それを共有させてもらうことがオリンピックの醍醐味だと思っていますし、その雰囲気を画面の向こう側にも伝えられるか、ということが表現者としての僕の仕事だと思っています。

個人的に注目するのはスケートボードのパーク。冬のスノーボードで銀メダルを獲得している平野歩夢選手、女子は3人の代表全員が10代で、夏のオリンピック史上日本最年少の選手もいる。全員がメダルに絡む戦いが期待されています。

実況は担当しませんが、長年携わっているバレーボール。ぜひとも表彰台にたどり着いてほしいと思っております。

― 試合はもちろん、皆さんの言葉にも注目しながらオリンピックを見届けたいと思います。ありがとうございました！


（modelpress編集部）

森昭一郎（もり・しょういちろう）プロフィール

生年月日：1971年9月29日／出身地：兵庫県／出身大学：早稲田大学／血液型：A型／入社年：1995年

＜担当番組＞
スポーツ中継を幅広く担当

倉田大誠（くらた・たいせい）プロフィール

生年月日：1982年3月4日／出身地：長野県／出身大学：日本大学／血液型：A型／入社年：2004年

＜担当番組＞
めざまし8
各種スポーツ中継（バレーボール・競馬・スケート）

宮司愛海（みやじ・まなみ）プロフィール

生年月日：1991年7月29日／出身地：福岡県／出身大学：早稲田大学／血液型：O型／入社年：2015年

＜担当番組＞
S-PARK
潜在能力テスト
村上信五∞の情熱の鼓動
スポーツ中継（柔道・バレーボール・フィギュアスケート）