モデルプレスのインタビューに応じた松坂桃李 (C)モデルプレス

“本編の半分以上がセックスシーン” 松坂桃李が「娼年」の現場で味わった極限状態を語る “劇場に行く勇気が出ない人”への提案も<インタビュー>

2018.03.27 18:00

石田衣良氏の恋愛小説を原作に、松坂桃李(29)が主人公の娼夫・リョウを体当たりで演じた映画『娼年』(三浦大輔監督)が4月6日に公開される。本編の半分以上を占めるセックスシーンによって、R18+のレイティングがついた話題作。松坂は約3週間の撮影を「本当にキツかった」と振り返ったが、現場では一体、どんなことが起きていたのか。モデルプレスのインタビューで、一般の視聴者としてはなかなか想像し難い体験を出来る限り具体的に語ってもらった。

  

『娼年』鮮烈な舞台化から映像へ


― 娼夫・リョウとして数々の女性と体を重ね、彼女たちの様々な欲望を正面から受け止めることで、森中領というひとりの男性の心情が確かに変化していく過程に自然と引き込まれました。

松坂:ありがとうございます。

― 特に女性の方はぜひとも抵抗なく、好奇心に従って劇場に足を運んでいただければと思います。

松坂:そこが難しいんですよね。この作品って宣伝が難しいなと思います。色々な難しい言葉を並べたとしても、やっぱり観てもらわないと伝わりきらない部分もあったりして。でも最初はその感じでもいいのかなと。観てもらう前から全部伝えるのではなく、最初はもう、やっぱり面食らいますよっていう…それくらいな感じで。開始15分くらいからこの作品がスタートすると思っていていただければなと。

― リョウは本当に優しい人ですね。女性として「ありがとう」という感謝さえ芽生えました。

松坂:なかなかいないですよね!あんな完璧男は。

― まず2016年の舞台化がセンセーショナルな話題となりましたが、今回「映像だからこそ描けること」をどのように捉えましたか?

松坂:舞台だと観客は引きの画で見るじゃないですか。だからどこに目が行くかっていうのは人それぞれ違うんですけど、映像になってくると、三浦さんや僕が伝えたい、より繊細な深い部分をカメラでピックアップすることで、こちら側から“誘導”できることが強みだと思います。舞台は臨場感や生感というものを味わっていただきましたが、映像だとやっぱりそうはいかないので、より『娼年』という作品の繊細で深いメッセージ性を、もしかしたら受け取ってもらえるんじゃないかなという思いはありました。

― 同じリョウという役を、より丁寧に捉え直した部分もあったのでしょうか。

松坂:1人1人の女性に出会っていく中での、リョウの微妙な変化や、娼夫として徐々に深みにはまっていく感じはやはり大事なところでした。映像だからこそ見せることのできる表情や、身体の微妙な動きにチャレンジすることができたので。

全ての動作が意味を持つセックスシーンの構築は「気の遠くなるような作業」

― 舞台あいさつでお話されていた「過酷さ」というのは、精神的なものか、肉体的なものなのか。

松坂:両方ですね。まず普通の濡れ場だと、長回しで3回戦くらいやって、別アングルのカメラで撮ったものを編集で繋げていくというパターンが多い気がするんですけど、今回は先程言ったように、ピックアップして撮って、こちらが誘導していくというやり方なので、例えば「手から胸に行く」「キスをする」といった部分部分を切り取って、それぞれのポイントに僕と相手の女優さんが気持ちをのせていかなければいけない。めっちゃ気が遠くなる作業なんですよね。

― 監督が性描写の部分も細かく絵コンテを描いていたとのことで。それを1つずつ再現していくということですよね。

松坂:そうなんですよ。ちょっとやって「はい、次のブロック行きます」っていう時に、気持ちが繋がらないから少し前のシーンに戻って再開しなければいけない。ちょっとやったら、またちょっと戻って進んで…この繰り返しです。

女性ひとりひとりに欲望の形がある(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
― 現場にいる全ての方々の集中力の賜物ですね。リョウとしては女性の悩みや欲望を「受け入れること」に徹するので、そういう意味でも、精神的に大変な部分はあったのかなと。

松坂:リョウのハートの高さを、僕がちゃんと表現出来るか否かというところでメンタルがやられていったりもしつつ…。リョウは確かに受け入れていくんですけど、それを自然とやるというか。彼自身も幼い頃にお母さんを亡くしたことがあったりして、種類は違うけれど、ある種のコンプレックスみたいなものを抱えている。だから出会う女性に対して、スッと同じ目線に下りていけるんですね。お互いが「あ、この人だったらいいかな。話してもいいかな」という空気感に自然となっていく。

― ビジュアル面については、裸で演技をすることが多いので、食生活が如実に現れてくると思うのですが、そのあたりも何か意識されましたか?

松坂:最初は普通の大学生の設定ということで、何もせずたるんだ身体で現場に入ったんですけど、そこからですよね。自分の中である程度食事制限をかけて、バナナだけにして。そのうえ現場が過酷なので、自然と絞られていくという。

― やつれていく感じですね。

松坂:そうなんです。それがむしろ娼夫のリョウくんとしてはバランスがいいと思ったので。

リョウのめくるめく変化に目を奪われる(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

松坂桃李、思わず懇願「俺を寝かせてくれえ~」“風呂場で爆睡”目撃談も

その壮絶さは「ボクサーの減量期間みたいな感じ…」(C)モデルプレス
― そういった過酷な現場では、共演者の方々とのコミュニケーションも難しそうですね。

松阪:舞台だと1ヶ月の稽古期間でコミュニケーションを取って信頼関係を築けるんですけど、映像になってくると、絡む女優さんとはそれぞれ1日、2日とかなので。そこで信頼関係を築くというわけにもいかないので、本当にそれぞれの距離感を測りつつ、カメラの前で瞬発的な信頼感を生み出すことに徹するというか。

― 特に今回は何人もの女性との出会いを繰り返す娼夫という役どころですから、よそよそしさみたいなものも逆に利用しつつ。

松坂:はい。そういう感情も利用しつつ、三浦さんの力も借りながらやっていきましたね。

― 撮影の過酷さが私生活に影響することも?

松坂:そうですね…「俺を寝かせてくれえ~」って(笑)。

一同:(笑)

松坂:「俺を休ませろぉ~」みたいな…(笑)。

マネージャー:風呂場で寝てたよね。

松坂:寝てましたね。

― そんな場所で…!

松坂:何ていうんですかね、ボクサーの減量期間みたいな感じになってくるんですよね。「水が欲しい…水を飲ませろ~」って。

リョウを娼夫として雇った御堂静香(真飛聖)との関係も変化していき…(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
― 極限状態ですね。気合いで乗り切るしかない。

松坂:三浦さんも疲れた顔してるんですよ。「ああ、もうこの人マジで死ぬかも」って。でも死なないんですよね(笑)。無敵なんです。三浦さんの作品に対する思いは知っていたし、自分もこの作品が映像化することによって、ようやく『娼年』っていうものが完成するという思いがあったので、2人で共同戦線を張っているような、そういう繋がりがあったからこそ、なんとかやってこられたと思います。

― 色々とピークを超えるとハイになりませんでしたか?

松坂:あはは(笑)。現場自体はもう、みんなそれぞれ脳内が麻痺してる感じでしたね。卑猥なワードが飛び交っているので。「はい、ここから行きます!」みたいな呼びかけも、ものすごい卑猥な言葉だったりするので、それを言うことに対しての恥ずかしさみたいなものはなくなってくるんですよ。

― 映ってはいけない部分もあるわけなので、そういった難しさもありましたか?

松坂:そこは本当に三浦さんが気をつけてくださいました。リハの段階で絵コンテを作って、「こういう感情だからこそ、こういう動きにしよう」というディスカッションもやったりしつつ。カメラマンさんもCMをよく撮られている方で。撮り方的に、AVのようなカットにはしたくないっていうのもありました。AVだと結構、変化球なカットとかあったりするんですけど、それをやってしまうと絶対にダメということで。

― 描写は非常にリアルですが、下品にしてはならないという絶妙なラインが。

松坂:やっぱりあれだけの濡れ場が続くので、生々しさが続いていくとお腹いっぱいになってしまうと思うんですよね。それこそ伝わるものも伝わらないというか…。バランスですよね。(佐々木心音と西岡德馬が演じる)夫婦のシーンとかは、笑えてきたりするじゃないですか。そういうバランスの良さというのも、この作品の魅力の1つだと思います。

― テーマがテーマだけに、ある程度身構えて観始めたので、まさか笑えてくるとは思いませんでした。

松坂:きっとどう観ていいかわからないんですよね。最初はいきなり面食らうし、でも段々観ていくうちに…「笑っていいんですか!?ここ」みたいな。「面白いけど…」って。

― まさにそうでした(笑)。 体液が飛ぶシーンなんかは、ギミックも非常に気になりましたが。

松坂:ある程度、色々な仕掛けとかもあったりしましたね。もう1つ映画『娼年』の表現の重要なポイントとして、「逃げない」ということがあって。だからこそお互いの身体の絡みというものが、より如実に会話として成立したと思います。

― 松坂さんが特に気に入っているシーンは?

松坂:どのシーンも好きなんですけど…最後、誰もいないラブホテルとか景色をボンボンボンボンと撮っているところ。あれ結構好きなんですよね。リョウの軌跡みたいなものを含め、それぞれの女性にしっかりと物語があったことをもう一度想起させてくれるシーンだと思います。

― 今回の作品を経て、ご自身の中で新たに芽生えた意識などはありましたか?

松坂:一度舞台をやっているので、新たな気づきというよりは再認識みたいなものが多いですね。人それぞれに欲望の種類があって、この作品でもなかなかインパクトのあるものが描かれていたりしますが、その全てが特別なことではないということが一番大きかったです。そしてお芝居をする中で、身体と身体のコミュニケーションみたいなものは確かにあるということを感じました。それはやってみないと実感できないことだったと思います。

― ネット上では「すごく観たいけど、映画館に行く勇気が出ない」という声も多いです。

松坂:そうですね…誰かと観に行くのが恥ずかしいというのがあるとすれば、まずは1人で観に行って、「『娼年』はこういう作品か」というのを知る必要があるかもしれないですね。それで2回目は終わった後の余韻で話せる、というところでお友達を誘っていただければと。

今年30歳 役者・松坂桃李の展望は

― 劇中でもリョウが女性の年齢について話す場面がありますが、松坂さんはご自身の年齢をどのように捉えていますか?

松坂:僕自身は今年で30歳になるので、そこに行くまでにこういう作品と出会えたことは本当に良かったなと思います。今までに経験のない作品に取り組むことは、自分がこの仕事を続けていく上で必要なことだったし、だからこそ20代のうちにやる意味があったと思う。本当にこのタイミングでやれたことに感謝していますし、運が良いとしか言いようがないですね。

― 今作含め、本当に幅広い作品や役柄に挑まれることで、パブリックイメージをいい意味で裏切っているという印象です。

松坂:イメージに関して、僕自身が気にしたことはないです。この作品も、あくまでバランスよくやっていくための1つだと思うので。

― 最後に30代に向けての展望をお聞かせください。

松坂:30代の10年は、20代で出会った色をより深くしていきたいという思いが強いです。例えば『娼年』だったら、『娼年』で開けた扉の色を濃くするという風に、それぞれの作品で挑戦してきたことへの深みみたいなものを、自分の中で掘り下げていければなと。そうやって10年を過ごして、40代に向かっていければ、良い再会が待っているだろうなという予感がしています。

― ありがとうございました。(modelpress編集部)

松坂桃李(まつざか・とおり)

モデルプレスのインタビューに応じた松坂桃李(C)モデルプレス
1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。09年に「侍戦隊シンケンジャー」にてデビュー。11年『僕たちは世界を変えることができない。』、『アントキノイノチ』の2作で第85回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第33回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。その後は映画、テレビドラマ、CMなど多方面で活躍。主な映画出演作は『ツナグ』(12)、『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』(14)、『マエストロ!』(15)、『エイプリルフールズ』(15)、『日本のいちばん長い日』(15)、『ピース オブ ケイク』(15)、『図書館戦争 THE LAST MISSION』(15)、『劇場版 MOZU』(15)、『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『真田十勇士』(16)、『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)、『キセキ -あの日のソビト-』(17)、『ユリゴコロ』(17)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)、『不能犯』(18)。今後の公開待機作に『孤狼の血』(2018年5月12日公開)、6月29日からは主演舞台「マクガワン・トリロジー」がある。
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