押切もえ、結婚後の変化とは?小説家として新たな試みに挑んだ理由<モデルプレスインタビュー>
2017.07.21 19:00
モデルの押切もえがモデルプレスのインタビューに応じた。小説家としての顔をもつ彼女は、このほど初の児童書『わたしから わらうよ』(ロクリン社)を発表。短編集となる前作『永遠とは違う一日』(新潮社)は、第29回山本周五郎賞候補作にノミネートされ大きな話題を呼んだ。今回は新たな試みとなる“児童書”というジャンルに挑んだわけ、小説家としての今後の展望、さらに結婚後の変化についても聞いた。
小説家としても才能発揮中!押切もえの新作
押切の小説家デビューは、2013年8月に発表した長編小説『浅き夢見し』(小学館)。発売後まもなく重版が決定するなど、大きな話題となり、その後は文芸誌『小説新潮』で連載に挑戦。この連載をまとめたのが2016年2月発売の『永遠とは違う一日』で、同作で第29回山本周五郎賞候補作にノミネート、さらに僅差で大賞には及ばなかったものの審査員から高い評価を得た。次作は長編か、短編か。ファンの間で期待が高まっていたが、満を持しての新作は、新たな挑戦となる児童書。今回の作品は、少女のさわやかな成長物語となっており、小学3年生の主人公・桜が鳥取の豊かな自然と人々との交流のなかで、自分自身と向き合っていく。児童書といえど、大人の女性も楽しめ、読み終えた後はどこか懐かしく、心温まるはずだ。
執筆背景には障がい者支援活動
今作の執筆背景には、鳥取県で始まった障がい者支援活動「あいサポート」への参加がある。あいサポートは、鳥取県知事の平井伸治氏の発案により2009年11月より始まった運動で「障がいを知り、共に生きる」をテーマに、障がいのある方が暮らしやすい社会を一緒につくっていくことを目的としている。その活動は高く評価され、現在、島根県、広島県、長野県、奈良県など多くの地域に広がりを見せている。この活動を経て「1冊の本として、広い世代に伝えていきたい」という思いを胸に、再びペンをとった。児童書という初の試みに挑んだ押切は「子どもの頃から、障がい者支援について考える機会に触れてほしいという思いがあり、主人公を小学3年生の女の子にして児童向けの本にしました。小さい頃から、障がいを持った方への支援に意識を向けてほしいなと思います」と新たなジャンルに挑戦した理由を説明する。
障がいを持つ方とのふれあいの中で
これまで発表した小説は、働く大人の女性に向けた作品。最初は障がいを持つ人を主人公にした作品や絵本という案もあったという。初挑戦となった児童書は文体など異なる点も多いはずだ。苦労することはなかったようだが「子どもならではの視点だとか、子どもの時にすごく不思議だったことや嬉しかったこと、そういうものを素直に表現しました」と子どもの目線に寄り添いながらの作業となった。あとがきには、あいサポート大使としての活動や鳥取で見たこと、感じたこと、出会った人とのことが記されている。鳥取では、障がいがある方と絵を一緒に描いたり、障がいがある方が働くところを訪問したりと、ふれあってきた。
「障がいのあるなしにかかわらず、壁のない社会が広がっていけばいいなと強く思います。障がいのある方とふれあって、そう強く感じました。障がいのある方が『こっちからも壁を作らない』とおっしゃっていたのが印象的で、それを作品にも残しています」
物語の中には、押切が鳥取で出会った障がいを持つ方をモデルにした人物が登場する。主人公とその人物のやりとりは、まさに押切が感じた思いを表現している。
障がいを持った方から心を開き、歩み寄ってくれたこともあるそうで、そんなやりとりを思い返して「あいサポート運動は障がいがある方に対し、ちょっとした手助けや配慮を自分からしていこうというものです。それはちょっとしたことでもいいんです。少しでも、できることを見つけるきっかけになってくれたら嬉しいですね」と目を細めた。
挿絵も自ら担当
2015年には初出展した絵画が「第100回記念二科展」に初入選を果たすなど、絵画の分野でも才能を発揮している押切。そんな彼女は、今作の挿絵も自ら担当。編集者の意見で押切自ら手がけることとなった挿絵は、彼女の作風としては新鮮に思えるステッチテイスト。自身の目で見た鳥取の風景や、物語のワンシーンを描いた。彼女の挿絵も楽しめる1冊となっており、掲載点数も充実した内容だが、実際は掲載されたもの以外にも描いていたそうだ。今作のように挿絵も自身が担当したのは初めてとなるが、そんな中でこだわった点がある。
「キャラクターの印象が強くなってしまうので、想像してもらえるように、人物は雰囲気だけ、シルエットだけ描きました」
表情がしっかりと描かれていない人物のイラストには、読者の想像を膨らませる工夫が施されていた。
小説家としての成長と結婚して変わったこと
挿絵まで手がけた意欲作となった今回。前作『永遠とは違う一日』では、山本周五郎賞の候補作にノミネートされ、審査員より高く評価を受けた。そんな評価に「ありがたいですね。すごくびっくりしましたけど嬉しかったです」と顔をほころばせる。審査員から「長編を読みたい」という声もあり「体力を使いますが、いずれ書けたらいいなと思います」と前向きだ。今回は小説としては3作目。連載ではなかったこともあり、気持ちを楽にリラックスして臨めたようで「気負うことはなかったですね。ただ、最初は10ページくらいの絵本という提案もあったので、それに比べてしまうと大変だったかもしれません(笑)どういうふうにしようかと書き始めるまでに苦労しましたが、自分に寄せながら楽しく書くことができました」といきいきと語る。
そんな成長は、環境における変化がもたらしたのかもしれない。プライベートでは2016年11月にプロ野球選手・千葉ロッテマリーンズの涌井秀章投手と結婚。「家庭のことが優先になるので変化はあった」といい「そのバランスを上手く取っている途中です」と照れたように笑う。夫からの応援も力となり「1人で悩むとかは、なくなったかもしれません」と、この先の作品にも期待がかかる。また、結婚前の作品を「すごく疲れている女性が多いように思う(笑)」と振り返り「結婚してからは、家庭を支えなければいけないので、自分が疲れ切っちゃいけないなという意識が強くなりました。登場人物も変わってくるんじゃないかなと思います」と予感した。
また、当初は絵本という案もあったことから絵本への興味や意欲について聞いてみると「興味はありますね。ただ、絵本って簡単なようで、すごく難しいように感じます。短いお話の中で起承転結がしっかりしていて、発想力が求められるので」と回答。ヒットしている絵本に触れてそのように感じたそうだが「自分がお母さんになった時でもいいのかなと思います」と小さく笑う。
作品に込められた温かいメッセージ
作品に込めたメッセージについては、こう語る。「帯にあるように『みんなと違うなんて思わなくていいんだ』と感じてもらいたい気持ちが強いですね。誰かと比べたりするのではなくて、自分らしさを大事に。あと、主人公は好きなことを好きだと素直に認めることで人の役に立てる喜びを知っていくんですけど、自分の好きなこと、好きなものを大事にしてほしいなと思います」
主人公には、人見知りで怖がりだった過去、弟への複雑な思いなど、小さい頃の押切と重なる部分があるという。そんな彼女は今、モデルの仕事はもちろんのこと、好きだという文章を書くことや絵を描くことが仕事に繋がっている。
今回は小学3年生の女の子を主人公に、押切があいサポート運動で感じたことを伝えていったが「また、働く女性を書きたいですね。もがきながらも夢を追う人ってすごく美しいなと思うので。そういう人を書きたいですね」と意欲的だ。そして、そんな彼女が思う夢を叶える秘訣は「好きなことを一生懸命、楽しんでやること」。それは、押切が今作を通して伝えたいことだ。
「たまにファンの方とお会いすることもあるのですが『自分ももっとがんばります』とか『がんばりが足りない』とおっしゃる方がいます。目標やゴールじゃなくて、まずは楽しむことが一番いいんじゃないかなと思います」
今作の執筆にあたって、苦労はなかったようだが、それは彼女が楽しみながら取り組んだことが大きいのかもしれない。そして、いつか子どもにも読ませたいという思いもあるようで「良いお仕事に携わらせてもらえた」と貴重な経験を噛み締め、また次の挑戦に向かう。(modelpress編集部)
押切もえ(おしきり・もえ)プロフィール
1979年12月29日、千葉県生まれ。10代の頃より読者モデルとして活動をはじめ、日本を代表するトップモデルとなる。現在、モデル業をはじめテレビ、ラジオで活動をしながら、絵画、執筆活動など多方面で活躍している。主な著書に『モデル失格―幸せになるためのアティチュード』、『浅き夢見し』(ともに小学館)がある。また小説『永遠とは違う一日』(新潮社)では、山本周五郎賞にノミネートされ、高い評価を受けた。
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