「震えるほど感動」是枝裕和監督が唸る名曲が誕生―ハナレグミ「海よりもまだ深く」主題歌に込めた想い<モデルプレスインタビュー>
2016.05.31 12:00
俳優の阿部寛が主演し、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でも上映された、是枝裕和監督の最新作『海よりもまだ深く』が21日より公開された。『海街 diary』『そして父になる』で知られる是枝監督による“なりたかった大人”になれなかった大人たちの物語。ユーモラスで時にほろりとさせる今作を温かな音楽で彩るのは、永積 崇(ながづみたかし)によるソロユニット・ハナレグミ。今回モデルプレスは、永積へのインタビューを実施。主題歌『深呼吸』(5月25日発売)に込めた思いとは―?永積が“なりたかった大人”とは―?
是枝監督「夢が叶った」ハナレグミの音楽が心震わす
かねてより自身の監督作で音楽を担当して欲しかったという是枝監督からのオファーによって今回のタッグが実現。監督は、「夢が叶いました」と喜び、「メロディーラインを一度聴いただけで、身体が震えるほど感動しました。出来上がった曲は、もう、映画の描いていない主人公の過去や未来をも感じさせてくれる名曲で、この歌で映画が締めくくれることを本当に嬉しく思っています」とコメントしている。永積にとっても、嬉しいオファーだった。「是枝監督の映画に携われるなんてこの先絶対にないと思ったので、『是非やらせていただきたい!』とお答えしました。どうやって監督の映画が作られていくのかも近くで見てみたかったし、新しい気づきがあるだろうなと思っていたのでとても嬉しかったです」。
「誰しもが持っているダメさ」こんなはずじゃなかった現実と理想
『海よりもまだ深く』は、叶わぬ夢ばかり追いかける情けない中年男・良多(阿部)を中心に繰り広げられる“元家族”のストーリー。15年前に文学賞を1度だけとった自称作家で、現在は探偵事務所に勤めているが、元妻(真木よう子)には愛想をつかされ、息子の養育費も満足に払えない。ある台風の夜、団地に一人で暮らす母(樹木希林)の家に、良多、元嫁、息子が偶然集まる。一夜限りの家族の時間でそれぞれの思いが交錯する―。
ハナレグミとしては7年ぶりのシングルとなる「深呼吸」は、永積が良多の気持ちに自分を重ね合わせながら書きあげた。「良多のダメさって、誰しもが持っているダメさだと思うんです。映画を観ていて、いつの間にかそれを自分と当てはめていく瞬間があった。なので、映画のためにでもあるけれど、自分に向けて書いた曲でもあるんです」。
映画を観れば、多くの人が永積のように、主人公を通して自分の中の“こんなはずじゃなかった”現実と理想に向き合うことになるだろう。だからこそ、そこに寄り添える楽曲にしたかったという。「日常のような何気ないやり取りが映画の至る所に転がっているので、その細微な気配を消してはいけないと思いました。音楽で歌いすぎてしまうと、辻褄の合わない映画になってしまうなって思ったんですよね。“何気なく響く音”というのは意識しました」。
そしてもう一つ、制作過程でこだわったというのが「余白」。しっかりと言葉で表現するのではなく、聴き手に委ねること。それは永積の音楽全般に共通することで、「聴き手のものになりたいんです。聴き手がいろんな場所で聴いてくれることによって、その曲が成立するように。曲を主人公にしたくないというのは、自分の音楽の中で確かなものに感じます」と教えてくれた。
池松壮亮が描くもう一つの切ない物語
今作のミュージックビデオは、映画の中で良多の探偵業の相棒・町田健斗役を演じた池松壮亮を主演に、是枝監督が映画のサイドストーリーとして新たに撮り下ろし。映画の空気感そのままに、町田を主軸にしたもうひとつの切ない家族の物語が描かれている。
エンドロールで流れる『深呼吸』を聴いた時に「鳥肌がたちました」という池松。「是枝監督の作品世界を代弁するような、とてもさりげなくて、作品と共にある感じがすごくいいなぁと感じました」と大好きな1曲になったと語る。
胸がキュッと苦しくなるような言葉と、温かなメロディに乗せて響く彼のやさしい歌声がMVのもう一つの物語にもそっと寄り添っている。
“なりたかった大人”になれている?
夢みた未来ってどんなだっけな―。映画、楽曲で描かれるこのテーマにちなみ、永積自身が抱いていた“なりたかった大人”について聞くと「ないんです。憧れもなかったんですよね」と笑う。「目の前のことをやることに全力だったのかな。むしろ今の方がちょっとずつ芽生えてきた感じ。意外と40歳くらいになってから大人って目指すものなのかもしれないですね。もはや憧れるとか、夢の様なことではなくて、身近なものになる」と、まさに今、なりたい大人の形が見え始めた。「今まであまり『たくさんの人に音楽を聴いてもらいたい』って思ってなかったんですよ(笑)。全然そんな気なかったんですけど、最近はちょっと思っています。今の時間を使って、やれることは全部やりたい、来るものは全部打ち返していきたいって思っています」と思いを語った。
夢を叶える秘訣
いま、ミュージシャンであることの喜びを最高潮に感じているという永積。最後に、夢を叶える秘訣を聞いた。「自分自身といっぱい喋ること。夢ってどんどん色味が変わっていくものだし、ある瞬間見たくないものになるかもしれない。そういう瞬間にも、『今自分はこう思っているんだ』とか『こう感じているんだな』と、自分をよく見ておくこと。そういう時間がいっぱいあると夢に近づけそうな気がします。それに、夢だと思ってなかったものが夢に変わるかもしれないですからね。僕もミュージシャンになるとは思っていなかったけど、自分なりにトライしてきたらいつの間にか歌っていた(笑)。とにかく、いつも自分が自分を1番そばで見れていればいいんじゃないかなと思います」。『深呼吸』はもちろん、ハナレグミが手掛けた劇中音楽から発展した新曲『あるてぃすと』、映画挿入曲として使用されているテレサ・テン『別れの予感』のバンドアレンジカバーなど、映画から生まれた5曲を収録した珠玉の1作に仕上がった。誰でも“なりたかった大人”になれるわけではないけれど、夢みた未来と違う人生の楽しみ方もある。映画同様、ハナレグミの音楽からもその思いがひしひしと伝わってくる。(modelpres編集部)[PR]提供元:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
ハナレグミ「深呼吸」
2016年5月25日発売収録曲
1.深呼吸
2.あるてぃすと
3.深呼吸(遠慮すんなよミズノ買ってやるよ ! ver.)
4.別れの予感
5.別れの予感(カラオケ)
初回限定盤のみ『Tour What are you looking for』からのライブ音源3曲を収録
6.大安 (『Tour What are you looking for』より)
7.光と影 (『Tour What are you looking for』より)
8.おあいこ (『Tour What are you looking for』より)