「silent」坂元裕二脚本との共通点を分析 3つのコンテンツから全世代を包囲する「共感を呼ぶドラマ」の作り方
2022.12.08 17:30
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女優の川口春奈とSnow Manの目黒蓮が共演するフジテレビ系木曜劇場『silent』(毎週木曜よる10時~)。初回で視聴者を一気に世界観に引き込むと、Twitterの世界トレンド1位を獲得、見逃し配信が歴代最高記録を更新、多数のファンが聖地巡礼を行うなど社会現象を巻き起こしている。ここでは、本作に登場する主なコンテンツ“3つ”をピックアップして紹介。そして、これらのコンテンツをもとに、視聴者の心に刺さる理由を考えてみる。
川口春奈&目黒蓮共演「silent」
オリジナル作品となる本作は、主人公の紬がかつて本気で愛した恋人である想と、音のない世界で“出会い直す”という、切なくも温かいラブストーリー。「花束みたいな恋をした」「silent」の共通点
同作の脚本を手掛ける生方美久氏は、尊敬する人として脚本家の坂元裕二氏の名前を挙げており、本作では坂本氏から影響を受けたのではないかと思われる点が随所に散りばめられている。中でも、特に注目したいのは実在するコンテンツの登場だ。坂本氏といえば、『東京ラブストーリー』(1991年)、『最高の離婚』(2013年)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)、『カルテット』(2017年)など、これまで数々の名作を生み出し、いつの時代にも視聴者の心を震わせてきた。そして『silent』もまた、ドラマ界に、そして多くの人々の記憶に切り刻まれる作品として私たちを惹きつけている。
そんな中『silent』には、坂元氏が脚本を担当したロングヒット映画『花束みたいな恋をした』(2021年)を彷彿させる声も上がっている。俳優の菅田将暉と女優の有村架純が初のW主演を務めた本作は、SNS世代を中心に口コミからバズりを生み、数々の映画賞を受賞した“今世紀最強のラブストーリー”。
終電を逃し、明大前駅の改札で偶然に出会った大学生の麦(菅田)と絹(有村)が、始発までの時間を過ごす内に恋に落ちていくという序章から始まる。特別な設定がないリアル感が視聴者に「こんなことあったな」「現実にありそう」と思わせ、共感を呼ぶ。麦と絹は、実際に話してみると、信じられないくらいに趣味が一致していることに気づき、意気投合。男女ツインボーカルの3人グループ・Awesome City Club、小説家の今村夏子氏、野田サトル氏の人気漫画『ゴールデンカムイ』、お笑いコンビの天竺鼠など2人の共通の趣味となる固有名詞が次々と登場する。
こうした固有名詞の登場は『silent』にも通じ、紬がアルバイトで働く渋谷の『タワーレコード』、紬と想が偶然の再会を果たした世田谷代田駅などリアルな場所が映し出されている。これは、リアリティを生み出すだけでなく、ドラマファンの間で聖地巡礼ブームを巻き起こし、私たちのオタク心に火を灯した。
また、登場人物がやりとりで使うツールが架空のものではなく『LINE』であることもSNS世代にとっては馴染みやすいポイントの1つとなっている。
“全世代から愛され続ける”スピッツ
ここからは、本作のキーとなるコンテンツを紹介する。まずは、本作の象徴ともいえる4人組バンド・スピッツ。紬は「好きな人(想)が聴いていた曲」として自然と耳にするようになっていった。そんな中、紬も好きで2人の趣味がぴったりと合ったのはスピッツの『魔法のコトバ』(2007年)。第1話の高校時代の告白シーンで、交際をすることになり照れる紬の耳に、想が自身のイヤホンを付け、同楽曲を流すという胸キュンシーンを生み出した。また第5話では、湊斗(鈴鹿央士)の名前とリンクした『みなと』(2016年)も話題に。湊斗から別れを告げられた紬は自宅で一人朝食を食べながら同楽曲を流す。しばらくして音楽を止めると、紬は湊斗に電話を掛け、関係に区切りをつけるべく湊斗の家にある荷物を受け取りに向かう…という展開が描かれていた。名前のリンクはもちろん、想から勧められたことをきっかけに好きになったスピッツの楽曲を、紬は湊斗との交際を始めたことで、いつのまにか恋人と曲名を重ねて聴いていたということがうかがえる情景にも視聴者からの反響が大きかったワンシーンだ。
スピッツが持つ想像力を掻き立てるような独特の詞の世界観と、どの世代にもノスタルジックを感じさせるような柔らかい雰囲気は全世代から親しまれ『silent』の共感性を高めていると考える。
青春漫画のバイブル「ハチミツとクローバー」
好きな人(=紬)が好きだという映画を観たという湊斗は高校時代、紬が体育館の壇上でスピーチをしている想を見つめている姿から「『人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった』って『なんだそれ』って思ってたけどそっか。これか。こういう感じか」と、紬が抱く想への恋心を理解する。この「人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった」というセリフは、“主人公全員が片想い”という切ない青春恋愛を描いた人気漫画『ハチミツとクローバー』(原作者:羽海野チカ氏/略して『ハチクロ』)に登場するキャラクター・真山巧の言葉。
同作は2003年に、第27回講談社漫画賞少女部門を受賞。2006年、2007年には、宝島社の『このマンガがすごい!』オンナ編において、2年連続1位を獲得。2008年3月時点で累計発行部数850万部を突破するなど長きにわたって支持を得てきた。美術大学生たちの人間模様を軸に、自身の才能に対する苦悩や登場人物の心理描写が丁寧に描かれており、ページを捲る度に思わず胸を締めつけられてしまう。
そんな青春漫画のバイブルは、2006年に実写化。映画の主題歌を飾ったのは、スピッツの『魔法のコトバ』で、上述した紬と想の告白シーンとのリンクの鍵に。人気漫画をモチーフとした甘酸っぱい名セリフとともに、第1話で張られていた伏線が回収された。
“恋愛ソングの名手”back number
ロックバンド・back numberといえば、フジテレビ系月9ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~』(2015年)やTBS系金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(2018年)、同局系火曜ドラマ『初めて恋をした日に読む話』(2019年)、映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)をはじめ、数々の人気恋愛コンテンツの主題歌を担当し、作品の世界観を繊細に表現してきた。そんな恋愛ソングの名手が手掛けた作品が本作で切ない仕掛けを施した。第1話終盤、想の母・律子(篠原涼子)が想の自室で、大量のCDがしまわれたダンボールから、back numberのアルバム『ラブストーリー』(2014年)を見つける。このアルバムのラストに収録されている曲は『世田谷ラブストーリー』で、紬と想が再会した世田谷代田駅とリンクするのだ。なお、同アルバムの発売日と想の耳が聴こえにくくなるタイミングが重なることを踏まえると、アルバムの表面に入っているヒビからは、想がやるせない思いを大好きな音楽アルバムにぶつけたと読み取ることができ、言葉がなくとも私たちに思いを訴えかけることに成功している。
スピッツをはじめ、生方氏の“好き”や“青春”が詰まっていると思われる数々のコンテンツは、同世代には特に「懐かしい」「エモい」と突き刺さる。また、知らない人にとっても実在するものであることから世界観に馴染みやすく、実際に聴くことや行くことができるという“体験”を楽しむことができる。そして、これらのコンテンツをただ使うのではなく、物語と繋げることで視聴者に驚きと感動を与え、コンテンツの魅力を最大化していると考えられる。(modelpress編集部)
情報:フジテレビ
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