妻の陶芸を理解できないと笑った俺が、2週間後に布の包みに入れて工房へ持っていったもの
深く考えずに返した言葉
「ご主人も一度、土に触ってみませんか」
妻の先生にそう言われ、俺は頭をかきながら笑いました。
「妻の趣味は理解できないんで」
本音でした。休みのたびに工房へ出かけ、爪を灰色にして帰ってくる妻を、不思議な気持ちで見ていたのです。
先生は「あら、残念」と笑ってくれました。
展示を見て回る間も、俺は仕事の連絡が気になってスマホを手放せずにいたのです。
給湯室で割れたカップ
作品展の数日後、会社の給湯室でカップを落としました。結婚5年目に妻が作ってくれた、深い青のカップです。
取っ手の付け根から、3つに割れていました。接着剤でつなぐだけでは、元の形に戻せる気がしませんでした。
破片を拾い集めたとき、底に彫られた小さな日付が目に入りました。これを作るのに妻が何回工房へ通ったのか、俺は一度も聞いたことがなかったのです。
同じようなカップを買って、黙って置き換えることも考えました。けれど、工房の入り口に金継ぎの案内が貼ってあったのを思い出し、電話をかけたのです。
先生は、破片を持って来られる日を教えてくれました。
布の包みを抱えて向かった工房
破片はハンカチでくるみ、さらに風呂敷で包んだものを抱えて家を出ました。妻にかけた言葉は「ちょっと出かける」だけでした。
作業台の前で先生と向き合うと、俺は包みを抱えたまま頭を下げました。
「理解できないなんて言って、すみませんでした。直し方を教えてください」
先生は包みを受け取り、俺の肩に軽く手を添えてくれました。並んで座って包みを開くと、先生は割れたカップを手に取ります。
「これ、奥さんが何度もやり直していたカップですね」
漆を扱うのは初めてで、指先はすぐに黒く汚れてしまいました。
そして...
家でテレビを見ていると、帰ってきた妻に「どこ行ってたの?」と聞かれました。俺は「ちょっと用事」と返すのがやっとでした。
金色の線が入ったカップを渡せるのは、まだ何週間も先のことです。それまでは、妻に話さないと決めていました。
理解できないと言った趣味に頭を下げたつもりでしたが、俺が頭を下げていた相手は、妻が何度も工房に通ったその時間だったのです。
(30代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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