花火を子どもっぽいと言った俺が、会場が開く前から土手の一番前に座り続けていた事情
去年の帰り道
付き合って2年、毎年この花火大会には2人で来ています。去年は着くのが遅れて、人混みの後ろから、ほとんど見えないまま終わりました。帰り道、彼女がぽつりと言ったのです。
「子どもの頃みたいに、一番前で見たかったな」
聞けば、彼女のお父さんが毎年朝早くから場所を取ってくれていたそうです。その話をしたときの彼女は、少し照れたように笑っていました。その役を、今年は俺がやろうと決めたのです。
言い間違えた一言
駅前でポスターを見つけたとき、彼女が何か言いかけたのが分かりました。誘われたら、うっかり計画を話してしまいそうです。とっさに目をそらして出たのが、あの言葉でした。
「花火なんて子どもっぽい」
彼女は黙ってポスターの前を離れていきました。ひどい言い方だったと分かっていても、当日まで知られたくなかったのです。
当日も「今日は予定がある」とだけ送りました。予定というのは、この場所取りのことでした。
階段の下で待つ
会場が開いてすぐ、川に一番近い場所にシートを広げました。日差しをよけるものもなく、飲み物ばかりが減っていきます。場所を離れるわけにもいかず、脱いだサンダルを揃え直しながら、打ち上げを待ち続けました。
打ち上げが近づいて、ようやく彼女にメッセージを送ります。
「今から土手に来れる?階段の下」
人の間から彼女の姿が見えたとき、手を振る代わりにシートの半分を空けました。
「座って」
そして...
最初の一発が上がったとき、俺は空ではなく彼女の顔を見ていました。子どもみたいな顔で見上げているところを、どうしても見ておきたかったのです。浴衣ではなく、部屋着のまま急いで来てくれたことも、なぜかうれしく思えたのです。
花火が終わってから、去年の言葉を覚えていたことと、あの一言は言い間違いだったことを話しました。彼女は「予定があるって、ちょっと怒ってたんだから」と言って、日焼けした首を指でつついてきました。その指先が、思ったよりも痛かったのを覚えています。
子どもっぽいと言った花火のために買った青いシートは、来年も使うつもりで、車のトランクに積んだままにしてあります。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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