新しく入った後輩は彼の元カノだった→挨拶の日、彼女は私の目を見て「あの人、元気ですか」
挨拶の途中で向けられた質問
課長が「あとはよろしく」と会議室へ向かうと、机の周りには私と後輩だけが残りました。共有フォルダの説明を始めようとしたとき、彼女は私の目を見たまま、小さな声で言いました。
「あの人、元気ですか」
キーボードに置きかけた指を膝に戻し、「あの人って?」と聞き返すと、彼女は少しだけ間を置いて続けました。
「今お付き合いされている方です。大学のとき、私が付き合っていた人なんです」
付き合って2年になる彼から、学生時代に長く付き合った人がいたとは聞いていました。けれど、その人の顔も名前も知らないまま。どうして私が彼の恋人だと分かったのか。それを聞く前に、彼女は深く頭を下げていました。
「急にすみません。よろしくお願いします」
「こちらこそ」とだけ返して、画面のフォルダを開きました。
短い返信と、丁寧すぎるメモ
帰宅してから、彼にメッセージを送りました。新しい後輩が大学のときの元恋人だったこと、向こうは私のことを知っていたこと。既読はすぐについたのに、返信が届いたのはしばらくしてからでした。
「そうなんだ。びっくりした」
続けて「嫌な思いさせてたらごめん」と届き、それきり画面は動きませんでした。何を謝られているのか分からないまま、スマホを伏せてテーブルに置きました。
翌日から、後輩は私の説明をすべてノートに書き取りました。質問は的確で、資料の締め切りも一度も遅れたことがありません。教える相手としては、これ以上ないほど助かる人でした。
それでも、彼女が「お疲れさまです」と頭を下げるたび、あの日の質問がよみがえりました。元気かどうかを聞いて、どうするつもりだったのか。私の知らない彼を、彼女はどこまで知っているのか。昼休みに1人でコンビニへ行く回数が増えていきました。
1週間が過ぎた日の退勤時。エレベーターを待つ私の隣に、後輩が並びました。
2人きりのエレベーターの前で
ほかに人はいませんでした。階数表示の数字は、まだ上の階で止まったままです。
この1週間、後輩に声をかける前には、いつも少しだけ間ができていました。仕事の説明なら迷わず話せるのに、名前を呼ぶ一瞬だけ、あの日の質問が先に浮かぶのです。
あの質問に、私はまだ答えていませんでした。かといって、こちらから何を聞けばいいのかも、決められずにいました。ノートに書き取られる手順は増えていくのに、2人のあいだで彼の話は一度も出ていません。
隣の彼女は鞄の持ち手を両手で握ったまま、私と同じように階数表示を見上げていました。
そして...
表示の数字が、1つずつこちらの階へ近づいてきます。到着音が鳴るまで、あと少し。今日も何も聞けないまま、また明日になるのだと思っていました。
そのとき、隣で小さく息を吸う音がしました。階数表示を見上げたまま、彼女が口を開きます。
別れた相手の近況を、どうして今の恋人である私に聞いたのか。あの日の彼女の目は、何を確かめようとしていたのか。その答えを、私はまだ知りませんでした。
(20代女性・営業事務)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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