「片づけたら?」俺の一言で本を手放した妻へ、古書店で買い戻した本と一緒に用意していたもの
理由を言えないまま指さした本棚
下のほうの本を読みたくなるたび、妻は山を崩さないよう、上から順に下ろしていました。
妻の誕生日に向けて、俺は家具店で天井近くまである本棚を注文しました。届く日には、今の本棚を引き取ってもらう約束でした。
届く日までに、今の棚の本をいったん箱に移してもらう必要がありました。理由を話せば、贈り物のことまで話すことになります。迷った末、ある休日にソファから本棚を指さして、短く言いました。
「片づけたら?」
「うん、やってみる」
返事を聞いて、新聞に目を戻しました。本を箱にでも詰めてくれるのだろうと、思いこんでいたのです。
空いた棚を見て、言いそびれたこと
数日後、仕事から帰ると、床の山が消え、棚のあちこちに隙間ができていました。
「棚、だいぶ空いたね」
「お店に持っていったから」
少しのあいだ棚を見てから、着替えに自分の部屋へ入りました。ドアを閉めてから、自分の一言が妻にどう届いていたのかに気づいたのです。売ってほしいとは言っていない、と今さら伝えれば、自分で本を選んで売りに行った妻の決心を軽く扱うことになる気がして、その話には触れないまま食卓につきました。
翌日の仕事帰りに向かったのは、駅前の古書店でした。妻が本を持ちこむなら、そこだろうと思ったからです。
古書店の新入荷の棚で
新入荷の棚の一角に、見覚えのある背表紙がまとまって並んでいたのです。ソファで妻が何度も開いていた日に焼けた文庫にも、表紙を眺めては棚に戻していた画集にも、もう店の値札が貼られていました。
覚えのある本を抜き取っていくと、両腕で抱えるほどになりました。数えると18冊。これで全部なのかは、自分では分かりませんでした。段ボールに詰め、自分の部屋のクローゼットの上の段の奥に押しこみました。本棚が届いたら、一緒に並べるつもりでした。その間も、妻は本棚の前を通るたびに、空いた段に目をやっていました。
3週間ほどたったころ、玄関を開けると、文庫を1冊持った妻が廊下に出てきました。
「この本、どうしたの?」
妻の手元を見てから、開いたままの自分の部屋をのぞくと、床に本が並べてありました。本棚が届くまで、あと1週間ほど。今話せば、贈り物もあの日の言葉足らずも、中途半端に伝わってしまうと思いました。
「それは、もうちょっと待って」
床の本を箱に戻し、最後に妻の手から文庫を受け取って、クローゼットの上の段へ箱を押し上げました。
そして...
本棚が届いたのは、それから1週間ほどたった、妻の誕生日の前の休日でした。古い棚が運び出され、新しい棚が組み上がると、妻はしばらくその前に立っていました。
クローゼットから段ボールを下ろして、ようやく話しました。片づけたらというのは、本を減らしてほしいという意味ではなかったこと。理由を言わずに、短い言葉で済ませてしまったこと。
妻は箱から1冊ずつ取り出して、目の高さの段に並べていきました。18冊を並べ終えても、下の段は半分ほど空いたままでした。そこに何を並べるかは、妻に任せることにしました。
(30代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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