店内で泣き続けた娘が、知らない女性のうさぎを「ぴょんちゃん」と呼んだ理由
ばあばの家のぴょんちゃん
夫の仕事が立て込む時期で、娘と2人で私の実家に帰っていました。母は数年前から、庭の小屋でうさぎを飼っています。娘は起きている間じゅう小屋の前にしゃがみ込み、母と一緒に餌をあげていました。
帰り道、列車の時間まで少しあったので、窓際の2人掛けのテーブルにつきました。片側の隣にはスーツ姿の男性、もう片側には若い女性が座っていました。
料理が運ばれてきてすぐ、娘が泣き出しました。
「おうちかえる」
娘の言う「おうち」は、ばあばの家のことでした。
頭を下げるばかりだった私
私が背中をさすっても、お子さまプレートの旗を見せても、娘は泣きやみません。周りに小声で謝りながら、娘を抱き上げて顔を肩に押し当てていました。
少し落ち着きかけたところで、男性の席から大きな舌打ちが聞こえました。
「うるせえな」
「すみません」
反射的に頭を下げると、娘はまた大声で泣き出しました。料理を包んでもらって店を出よう。そう決めかけたとき、反対隣の女性が男性を睨んでいるのが見えました。
女性はバッグから何かを外し、テーブルの間から身を乗り出しました。
「ほら、うさぎさんだよ」
窓の外に向けた顔
「ぴょんちゃん」
娘の声を聞いて、私は窓の外へ顔を向けました。玄関で手を振っていた母と、その足元のうさぎ。娘は寂しくて泣いていたのに、帰りを急がせたのは私でした。しばらく娘のほうを見られずにいました。
向かいの席の年配の女性が「かわいいうさぎさんね」と目を細めると、娘は得意げにうさぎを掲げました。近くの席から笑い声がこぼれ、店の中の空気が一気にやわらいでいきました。
気づくと、男性が伝票を持って立ち上がっていました。こちらを見ないまま会計を済ませ、足早に店を出ていきました。
ドアが閉まってから、ようやく女性のほうへ向き直りました。
「本当に、ありがとうございました」
名前のわけも話そうとしましたが、うまく言えそうになく、お礼だけで終わってしまいました。
そして...
先に席を立つ女性にうさぎを返そうとすると、「よかったら、その子もらってください」と言われました。何度も頭を下げる私の隣で、娘はうさぎの手を持って振っていました。
家に着いてから、母にビデオ通話でレストランでの話をしました。娘がマスコットを画面に近づけて「ぴょんちゃん、ふたりになった」と言うと、母は小屋のうさぎを抱き上げて映してくれました。「次は、ふたりそろって連れておいで」
あの店で、私は頭を下げるばかりでした。舌打ちに言い返してくれたのは、隣の席の女性と、小さなうさぎだったのだと思います。名前のわけを伝えられなかったことだけが、今も少し心残りです。
(30代女性・パート)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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