彼女の貯金を「それ生きてて楽しいの?」と笑った俺→旅館の帰りの電車で、飲み込んだ一言
彼女の答えに笑ってしまった日
付き合って1年半の彼女の部屋で、テレビを見ていた日のことです。棚の缶に500円玉を落とす音がして、振り向きました。
「趣味とかないの?」
「趣味は貯金」
その答えに、声を出して笑ってしまいました。
「もっと良い趣味見つけなよ」
「それ生きてて楽しいの?」
稼いだ分は、そのとき使って楽しむもの。ずっとそう思ってきたのです。彼女もつられて笑ったので、気にせず自分の好きなゲームの話を始めました。
あの缶が何のためのものなのか、聞こうとも思いませんでした。
値段ばかり気にしていた旅館の玄関
しばらくして、彼女から「誕生日、空けておいてね」とだけ言われました。
当日、玄関に木の看板が下がった旅館の前で、まず浮かんだのは値段でした。
「ここ、高かったんじゃない?」
「気にしないで」
フロントで支払いをすることもなく、そのまま部屋へ。彼女がどこかで無理をしたのではないかと、食事の間も部屋の中を見回してしまいました。
湯のみを置いて浮かんだこと
食事が下げられ、座卓をはさんで向かい合ったときのことです。湯のみにお茶をつぎ足すと、彼女が背筋を伸ばしました。
「この旅行の代金、あの貯金から出してるんだよ」
湯のみを座卓に戻して、彼女の顔を見ました。
「俺のために貯金してくれてたんだ」
口から出たのは、それだけでした。彼女がうなずくのを見ながら浮かんでいたのは、あの缶の前で笑った日のことです。
もっと良い趣味を、生きてて楽しいのか、と笑ったその貯金で、俺はこの部屋に座っていました。
謝ろうとしましたが、祝ってもらっている場で自分の話を始めるのは違う気がして、窓の外の川に顔を向けました。帰りの電車でも何度か言いかけては、そのたびに飲み込んだのです。
そして...
帰ってから、雑貨屋で缶の貯金箱を買いました。マスキングテープに「彼女貯金」と書いて貼り、500円玉ができるたびに入れていきました。行き先は、まだ決めていません。
缶が少し重くなった頃、彼女の部屋で打ち明けました。
「貯金ってためてる間は使うときのことを考えるから、結構楽しいな」
彼女は「でしょ」とだけ言って、自分の缶に500円玉を落としました。
あの日笑ったことは、まだきちんと謝れていません。俺の部屋の棚の缶には、今も少しずつ500円玉が増えています。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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