息子が掘ってきた細いサツマイモ2本。夫がスーパーで買ってきた立派な芋を見て、息子は下を向いた
細く曲がった2本のサツマイモ
息子が掘ってきたのは、細く曲がったサツマイモが2本。1本には大きな傷があり、皮をむけば食べるところはわずかしか残りそうにありません。甘いかどうかも分かりませんでした。
それでも息子は、自分で掘った芋で作りたいと言い続けていました。何を作るかを何日も考え、決めたのがサツマイモご飯です。野菜室に入れた2本を、息子は幼稚園から帰るたびにのぞいていました。
スーパーの袋から出てきた3本
休日、息子と並んでお米をといでいると、夫がスーパーの袋を提げて帰ってきました。袋から出てきたのは、太くてまっすぐなサツマイモが3本。
「せっかく作るなら、スーパーで買ったやつのほうがうまいし、形もいいだろ」
息子はその言葉を聞いて下を向きました。冷蔵庫の絵のほうは、もう見ていませんでした。
戸を引いて
「ちょっと来て」
夫を廊下に呼び、戸を引きました。息子に聞かせたい話ではなかったからです。
「あの子は、美味しいサツマイモご飯より、自分が頑張って取ってきたサツマイモで作るご飯が食べたいの。私も今は、普通のスーパーのやつは食べたくない」
夫は台所のほうに目をやり、しばらく黙っていました。
「そうだよな。悪かった」
台所に戻ると、夫は息子の前にしゃがんで目線を合わせました。小さな声で何か言ったようでしたが、戸の前に残っていた私には聞き取れませんでした。息子は芋を抱えたまま、夫の顔を見ました。
「そのおいものごはん、パパにも少し分けてくれる?」
「パパのぶんも作る」
それから息子は踏み台をシンクの前に運び、ブラシで2本の土を落としていきました。傷のところを避けて切るのは私の役目で、塩を量ってお米の上に芋を並べるのは息子の役目。夫は買ってきた芋をアルミホイルで包んでオーブントースターに入れ、残りの1本で豚汁を作りはじめました。
そして...
炊き上がったご飯の芋は、ところどころ筋っぽく、甘さも控えめでした。それでも、夫の焼き芋と豚汁も並んだ食卓で、3人そろって口に運びました。
「このおいもが、一番おいしいね」
「うん。パパもそう思う」
息子は口の端にご飯粒をつけたまま、目を細めて笑いました。いつもは小食気味なのに、空になった茶碗を両手で差し出し、おかわりまでしたのです。
ただ、あのとき息子に何と声をかけたのか。廊下で黙り込んでいたあの間、何を思い浮かべていたのか。夫にはまだ聞けていません。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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