「昨日どこにいたの?」と問い詰めた朝、彼が玄関に置いていった紙袋の中身
靴ひもを結び直した彼
一緒に暮らして2年になる彼は、帰りが遅くなる日には必ず短いメッセージを送ってくる人でした。それが昨日は何もなく、電話にも出ませんでした。
起きてきた彼は、こちらを見ないまま洗面所へ向かいました。歯を磨く音がやむのを待って、玄関で靴を履く背中に声をかけました。
「昨日どこにいたの?」
彼は靴ひもをほどいて、結び直しました。
「電話、3回かけたんだけど」
「ごめん。充電が切れてて」
「それ、答えになってない」
「行ってくる」
ドアが閉まり、鍵の回る音だけが残りました。
靴箱の脇に残された紙袋
靴箱の脇に、見覚えのない紙袋が置かれていました。彼の会社とは反対方向にある駅ビルの、靴屋の名前が印刷されています。持ち上げると軽く、口は閉じられていませんでした。
中に入っていたのは、白い女性物のスニーカーです。私のではありません。箱の側面に貼られたシールの数字は23で、私の足には2センチ近く小さいサイズでした。
底に折り畳まれていたレシートを開くと、日付は昨日です。印字されているのはその靴1足だけで、ほかには何も買っていません。私の電話が鳴らなかったあいだに、彼はその店で、靴だけを選んでいたことになります。
靴を箱に戻し、袋を元の位置へ置きました。
想像は、いちばん悪いほうへ
帰りが遅かったのは、昨日が初めてではありません。先月も2度、最終の電車で帰ってきた日がありました。そのときは仕事だと聞き、それ以上は聞きませんでした。
スマホをもう一度開いて、発信の3件の下に、彼からの短いメッセージが1件もないことを確かめました。
23センチの足の誰かと、彼は昨日、あの駅ビルにいた。充電が切れていたのは本当かもしれません。でも、切れたまま何時間も放っておける相手と一緒だった、ということでもあります。
「切れてた」を信じられなくなると、先月の2度も同じ色に見えてきました。仕事用の鞄を肩にかけてから、もう一度玄関にしゃがみました。
そして...
紙袋を靴箱の脇から、玄関の真ん中へ動かしました。帰ってきた彼がまたいで入るか、持ち上げて何か言うか。どちらでも構いません。見なかったことにはしないと、自分に決めた印です。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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