娘の初めてのメッセージを直そうとした俺に、妻が返した「直さないで」の意味
「大好き」だねと打ちかけた指
家族のグループチャットに、娘の名前から初めてのメッセージが届いていました。小学1年生の娘には、妻の実家で預かってもらう日だけ、そこに置いてある娘用のキッズスマホを使わせています。
「おかあさん台好きき」
読んだ瞬間、俺が見ていたのは「台」の字と余分な「き」でした。かわいいと思うより先に、間違ったまま覚えさせたくないという気持ちが動きました。少し前、娘が自分の名前を書いた紙を見せてきたときも、俺は最初に「ここ、逆だよ」と言いました。娘はうなずいて、その紙をすぐにしまいました。そのときは、教えられてよかったと思っていました。グループチャットに「『大好き』だね」と打ちかけて、いったん消し、先に妻へ送りました。
「変換おかしいね。『大好き』だよって送り返そうか」
理由の書かれていない返事
返事はすぐでした。
「直さないで」
理由は書かれていません。俺は理由を聞かず、自分の考えを重ねました。
「間違ったまま覚えちゃうよ」
「いいの。今はそのままにして」
それ以上は返しませんでした。返す言葉を選んでいるうちに、次の会議が始まったというのが正直なところです。妻は今頃、休憩室で娘に返事を打っているのだろうかと考えながら、会議室の扉を閉めました。会議のあとに画面を開くと、グループチャットには妻の返事が並んでいました。
「おかあさんも、だいすき」
全部ひらがなでした。その下に、娘からのうさぎのスタンプ。妻が漢字を使わなかった理由に、そのときの俺はまだ気づいていませんでした。
渡された1枚の紙
帰宅すると娘は眠っていて、妻は台所の机の前に座っていました。渡されたのは、鉛筆の跡が何重にもなった1枚の紙です。「おかあさんだいすき」。書いては消し、消しては書いた下書きでした。妻は、出かける前に娘が口にしていた言葉も教えてくれました。間違えたら怒られるのかと、娘は妻に聞いていたそうです。
「初めての手紙の返事が赤ペンだったら、嫌でしょう」
消しゴムの跡を指でなぞりながら、名前の紙をしまった娘の背中を思い出しました。あのときも俺は、書けたことより先に、間違いを見ていたのです。娘が最初に受け取るはずだった返事は、今度もそういうものになるところでした。「そうだな」とだけ返しました。
そして...
次の日、仕事の合間にグループチャットを開き、娘に向けて打ちました。
「おとうさんも、だいすき」
変換候補に「大」が出ましたが、その日は選びませんでした。
(30代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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