練習のことを書いた行を消してから送っていた私と、面談でうかがった1つの話
あの家へ出す知らせだけ、用件で終わらせてきました
ピアノを教えて数年になります。生徒は子どもがほとんどで、家の方とのやりとりは個別のチャットで1人ずつ行っています。面談の日、あのお母さまはご自身も同じ楽器を長く続けてこられたと話されました。それから、あの家へ出す知らせは「持ち物は教本だけでお願いします。」のような用件だけにしてきました。ほかの家へは「音の粒がそろってきました。しばらくは右手だけ、ゆっくり弾く練習をしています。」のように、その日の様子を数行足しています。
聞くこと自体が、こわかったのです
長くやってきた方が読めば、私の書くことは浅く映るはずだと考えていました。今のやり方でよろしいですかと聞けばよいのに、聞くこと自体が、自分の頼りなさを差し出すように思えたのです。あのお子さんの左手の運びが変わってきたことは、目に入っていました。文にしかけて、送る前に消しました。消した行はどこにも残りませんから、書かなかったことは私しか知りません。日程だけで出せば、間違えようがありません。守っていたのではなく、恥をかかずに済むほうを選んでいました。あのお母さまへ出す文を最後に回すのも、いつのまにか決まりごとになっていました。
整った文を送るのを、やめました
「うちの子は、続けさせて大丈夫でしょうか。」と届いたとき、私は画面を閉じて、しばらく開けませんでした。文面は続けさせてよいかを聞くものでしたが、確かめたいのは、私があのお子さんをどう見ているかのほうだと思いました。それでも書き出しが決まらず、返事は次のレッスンのあとになりました。整った文を出すのをやめ、まず「やめさせないでください。左手の運びが、この半年で変わりました。」と書き、そのあとに、これまで練習のことを書けなかった理由を続けました。「お母さまのほうが長く弾いてこられたので、練習のことを書くのが、ずっと書きにくいままでした。」返ってきたのは、「これからは、書きにくいほうも読ませてください。」の返事でした。
そして...
それからは、日程や持ち物の連絡だけで終わらせず、その日の練習でできるようになったことも書いて送っています。書き方に迷うことはありますが、以前のように消して用件だけに戻すことはやめました。発表会が近づいたころの連絡にも、曲の中で変わってきたところを添えました。その文章をお母さまがどう読んだのかまでは分かりません。ただ、今は伝えたいことがあれば、用件のあとに残して送るようにしています。
(20代女性・ピアノ教室の講師)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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