「俺が夫です」と名乗った階段で、俺の両手は空いたままでした
上で待っていればいいと思っていました
出かけた帰り、妻は眠った子どもを乗せたベビーカーを押し、肩には手さげを掛けていました。俺は何も持っていません。
エレベーターの前に列ができていたので、俺は階段を使うことにしました。
「上で待ってる」
そう言って先に上がり、通路で改札の表示を見ていました。妻がベビーカーをどうやって運ぶのかまでは考えていませんでした。
戻った理由も、手伝うためではありませんでした
妻がなかなか上がってこないので、階段を降りました。心配して迎えに行ったというより、遅いと思ったからです。
途中まで降りると、知らない人がベビーカーの前側を持ち、妻が後ろを支えていました。俺はその横で足を止めました。
手を伸ばせば届く距離です。それでも、すでに2人で持っているから大丈夫だろうと考え、俺は何も持ちませんでした。
「ご家族じゃないのかと思いました」
ベビーカーを支えていた人が、妻に「お知り合いの方ですか」と聞きました。
俺は横から「俺が夫です」と答えました。そのときは、夫だと分かれば話は終わると思っていました。
返ってきたのは、「あまり手を貸す様子がなかったので、ご家族じゃないのかと思いました」という言葉でした。「周りの人にも、あなたが夫だとは思われていませんよ」という一言付きです。
知らない人がベビーカーを持ち、妻が手さげを掛けて後ろを支え、夫の俺だけが両手を空けて立っていました。名乗ったところで、その並び方は変わりませんでした。
そして...
電車に乗るために列に並んでいる時、俺は妻の手さげを受け取りました。何を言えばいいのか考えるより、ようやく自分の手が空いていることが気になりました。
次に出かけたときは、階段の前でベビーカーへ先に手を掛けました。
「ベビーカー、俺が持つ」
一度荷物を持っただけで、あの日のことがなくなるわけではありません。ただ、階段の前で妻が何を持っているかを見るようにはなりました。あのとき知らない人が持っていた場所へ、今度は自分の手を伸ばしています。
(30代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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