希望写真どおりに切ったつもりだった僕、店長に「普段の手入れは聞いた?」と言われて気づいたこと
あの写真の毛先は、切っただけではそろわないと判断しました
その日、うちの店に来られたのは初めてのお客さまでした。長く伸ばした髪を、あごの下まで切りたいとのことです。
画面には、毛先が内側にきれいに入ったボブが写っていました。写真のように毛先をきれいに内側へそろえるには、アイロンで仕上げる必要があると判断しました。そのうえでなら近づけられると考えたのです。
確かめたのは長さです。「このくらいの長さですね」と伝え、「前はこの辺で大丈夫ですか」と指で示すと、お客さまは「大丈夫です」と答えられました。何度確かめても、返事は変わりません。長さを確認できていたので、希望は十分聞けていると思い込んでいました。
一度だけ、普段アイロンを使われるかを聞こうとしました。聞けば、持ってきていただいた写真とは違う形をすすめることになります。せっかく選ばれたものを僕の口で崩すのが嫌で、仕上げにセットの方法をお伝えすれば足りると考え、そのまま手を動かしました。
仕上げのアイロンを置いたあとに来た質問
カットを終えて、アイロンで毛先を順に通しました。鏡に出た輪郭は、写真とほとんど変わりません。僕は自分の仕事が終わったと思っていました。
お客さまが鏡を見たまま言われました。「明日からも、乾かしたらこんな感じになりますか」
僕は「アイロンしないと、この髪型にはなりません」と答えました。
それきり返事がありません。うつむいた画面の光が消えるまで、僕は手にしたアイロンを持ち替えることもできずにいました。
「それ、切る前に言ってほしかったです」
その言葉に、僕は「この写真も、アイロンで作っている髪型なので」と続けました。後から考えると、お客さまへの説明というより、自分の施術に問題はなかったと言いたくて出た言葉だったのだと思います。
奥へ呼ばれて、はじめて飲み込めたこと
「できるかどうかじゃなくて、家で私にもできる髪型なのかを知りたかったんです」
そう返されて、僕は店長を呼びに行きました。事情を聞いた店長は、お客さまに「切る前に、普段どのくらい手をかけられるか伺うべきでした」と伝え、2つの案を出しました。
奥へ呼ばれたのはそのあとです。店長は開口一番、「普段の手入れは聞いた?」と言いました。そのあと「その人が明日も自分で作れるかどうかまで話して、はじめてカウンセリングじゃない?」とも言われています。
間違ったカットをしたわけではありません。写真にも近い形は出せています。それでも「あの人は、毎日アイロンを持つ人じゃなかったんだよ」と言われて、ようやく飲み込めました。
鏡の前へ戻り、直す前に先へお伝えしました。「写真とは少し違います。でも、明日ご自身で乾かしたときは、こちらのほうが近い形になります」
「それなら、そちらでお願いします」とお返事をいただきました。
そして...
それ以来、自分のカウンセリングでは最初に「朝、髪にどのくらい時間をかけられますか」と聞くようにしています。写真を出していただいたら、その髪型がどうやって作られているかも、切る前に口に出してお伝えします。
あのお客さまがもう一度僕を選ばれるかどうかは、僕が決めることではありません。それでも今日も、その質問から座っていただいています。
(20代男性・美容師)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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