毎日定時で帰る僕が、職場に言えないまま通っていたもう1つの場所
エレベーターの前で聞いた声
春に配属されてから、僕はほとんど毎日定時に会社を出ています。
実家は商店街のパン屋です。夕方は学校帰りや仕事帰りのお客さんが重なり、両親2人だけでは手が足りなくなるため、会社を出たあと店を手伝っていました。
その日も「お先に失礼します」と頭を下げ、廊下へ出ました。
エレベーターを待っていると、給湯室から声が聞こえてきました。
「定時で帰る新人は根性がないよね」
続いて笑い声も聞こえました。
家の事情を話せばいいだけなのかもしれません。それでも、配属されたばかりの自分から「定時で帰らなければならない理由」を説明すると、仕事より家を優先していると思われそうで言えませんでした。
だから、時間内にできる仕事を終わらせ、翌日まで続く案件には、分かるようメモを残して帰るようにしていました。
レジ越しに立っていた先輩
数日後、店でパンを補充していると、レジの前に会社の先輩が立っていました。
職場の人に店を見られたのは初めてでした。
目が合い、僕は言いました。
「夕方だけ、店に入ってるんです。両親2人で回してるので」
何か説明を足したほうがいいのか迷いましたが、次のお客さんも待っていました。そのまま会計を続けました。
しばらくして先輩が戻ってきて、「クリームパン、2つください」と注文しました。
それ以上、店のことを聞かれることはありませんでした。
翌日、変わった言葉
会社では、それまで通り仕事をしました。
処理が終わった書類をまとめ、翌日に確認するものにはメモを残しました。
少しして先輩から、「昨日、店にいたんだね」と声をかけられました。
僕は「夕方はだいたい手伝ってます」と答えました。
そのあと給湯室の近くを通ったとき、先輩の声が聞こえました。
「定時で帰ることと、仕事をしてないことは別だったね」
以前聞いた言葉とは、内容が変わっていました。
そして...
その後、僕は課長にも家の店を手伝っていることを伝えました。
黙っていても仕事を見てもらえればいいと思っていましたが、必要な事情まで隠すことはないと考えるようになったからです。
今も退勤時間は変わりません。
時間までに終わらない仕事があれば相談し、翌日に回すものは分かるように残してから会社を出ています。
ロッカーに入れていたエプロンも、今では特に隠していません。
定時で帰る理由を知ってもらえたことより、定時で帰ることだけで仕事への姿勢を決めつけられなくなったことのほうが、僕には大きな変化でした。
(20代男性・営業事務)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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