「定時で帰る新人は根性がないよね」に笑った私、取引先帰りのパン屋で目が合った相手
「お先に失礼します」の背中
私は、春から新人教育を担当していて、配属されたその新人は、毎日決まって「お先に失礼します」と頭を下げて帰っていきます。私の課は締めの時期になると残業する人が増え、その日も半分以上の席に人が残っていました。
ドアが閉まると、給湯室にいた同僚の1人が言いました。
「定時で帰る新人は根性がないよね」
私もその場で笑いました。仕事を覚えている途中なのだから、もう少し残ってもいいのではないか。そんな考えまで持っていました。
けれど、彼がその日の仕事を残して帰っているのか、私は確かめたことがありませんでした。
商店街のパン屋で
数日後、取引先からの帰りに手土産を探して、商店街のパン屋へ入りました。店内には列ができていて、トレーを持った店員が棚とレジの間を行き来しています。
その横顔に見覚えがありました。会社の新人です。
粉のついたエプロン姿でパンを補充し、常連らしいお客さんに声をかけながら会計を進めていました。
レジで目が合うと、彼は少し間を置いてから言いました。
「夕方だけ、店に入ってるんです。両親2人で回してるので」
それ以上、自分の事情を説明することはありませんでした。
私は棚をひと回りしてからレジへ戻り、「クリームパン、2つください」と注文して店を出ました。
見直したのは退勤時間ではなく仕事でした
翌日、私は彼の担当している仕事を改めて確認しました。
処理済みの書類は期限ごとに整理され、翌日に続く案件に関しては引き継ぎのメモがついていました。質問された内容も自分用のノートにまとめられ、同じことを何度も聞くことはありません。
定時に帰る姿ばかり見て、そこまで確認していなかったのです。
翌日、給湯室でまた退勤時間の話になったとき、私は言いました。
「定時で帰ることと、仕事をしてないことは別だったね」
同僚は少し驚きながらも、分かってくれました。
そして...
今も彼は定時になると「お先に失礼します」と帰っていきます。
変わったのは、私が退勤時間だけで人を見なくなったことでした。
指導記録には、残っている時間ではなく、期限を守れているか、引き継ぎができているか、仕事をどこまで自分で進められているかを書くようになりました。
パン屋で彼を見かけなければ、私は今も「長く残っている人ほど頑張っている」と思い込んでいたかもしれません。
(30代女性・営業事務)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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