結婚式の延期を切り出した俺が、彼女に言えないまま通い続けた場所
認めてもらえなかった挨拶の日
彼女との結婚を決めて、初めて実家へ挨拶に伺った日。お義父さんは俺の目を見ないまま「まだ君に娘を任せる気にはなれん」と言いました。隣で彼女は「気にしないで」と笑ってくれたけれど、俺は出されたお茶に口をつけられないまま、その家を後にしました。準備は進んでいるものの、招待客の名簿には、いちばん座ってほしい人の欄だけが空いたままでした。俺は彼女に言わないまま、休みのたびにお義父さんのもとへ通うと決めました。手土産は、実家の最寄りの商店街で見つけた和菓子屋のどら焼き。お義父さんの好物だと、お義母さんがこっそり教えてくれました。
式の7日前に選んだ言葉
通っても、お義父さんは首を縦に振ってはくれませんでした。式の7日前、俺は決めました。一番大事な席が決まらないまま式を挙げるのではなく、延期して、心から祝ってもらえる日を待つと。ただ、彼女に事情を話す勇気はありませんでした。話せば彼女は、自分が我慢すればいいと式をそのまま進めてしまう。それ以上に、何度通っても認めてもらえない自分を知られるのが怖かった。だから俺が口にできたのは「やっぱり延期したい」と「理由はまだ言えない。でも、信じてほしい」だけでした。仕上げたばかりの席次表を封筒に戻す彼女の手を、俺はまっすぐ見られませんでした。
帰宅した俺を待っていたもの
それからも、どら焼きの紙袋を提げて通いました。お義父さんは仏頂面のまま、それでも玄関先から居間へ通してくれるようになり、帰り際にお義母さんが「そろそろ本人に伝えたら」と笑った日がありました。その日、家に帰ると、彼女が1枚の写真を差し出しました。実家の玄関先で深く腰を折る、俺の後ろ姿でした。「お父さんのところに通ってたの?」。答えるまでに、少し間が空きました。うなずいてから、ようやく言えました。「お義父さんに心から笑って出席してほしいんだ」。挨拶の日からの全部を、俺はその場で初めて彼女に話しました。
そして...
式は3か月後になりました。当日、お義父さんは式場の入口で「娘を頼む」と俺に頭を下げました。今も月に1度、あの和菓子屋のどら焼きを提げて実家に顔を出しています。空いたままだったあの席が埋まった日のことを、忘れないためです。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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