席を譲って怒鳴られた私。降り際の一言が残った
空いた車内で
仕事帰りの電車は、乗り込んだときはまだ空いていて、私はドア横の席に座って本を読んでいました。駅に停まるたびに少しずつ人が増えていき、気づけば座席はすべて埋まっていました。そんなとき、年配の女性が乗ってきました。
大きな紙袋を両腕に抱えていて、片手で吊り革を握るのは難しそうでした。私は本をバッグにしまい、「よかったら、どうぞ」と声をかけて立ち上がりました。年配の女性はこちらを見て、少し間がありました。お礼を言ってもらえるだろう、くらいの気持ちでした。
返ってきた言葉
年配の女性は「老人扱いしないでちょうだい」と声を上げました。車内にその声が響いて、近くに座っていた男性がイヤホンを外してこちらを見ました。斜め前の女性も顔を上げています。
何が起きたのか理解するまで数秒かかりました。私はそのまま吊り革を掴んで立っているほかなく、席に座り直す気にもなれません。年配の女性はドア横の手すりを握り、紙袋を足元に置いて窓の外に顔を向けたままでした。私のほうを見ようとしません。
何か失礼なことを言っただろうかと繰り返し考えましたが、答えは出ませんでした。吊り広告の文字をぼんやり目で追いながら、たった数分間がこんなに長いと感じたのは初めてでした。
降り際
その後、年配の女性がドアのほうに歩き出しました。降りるのだとわかって、吊り革を握る手の力がゆるみました。ドアが開いた直後、その人が足を止めて振り返りました。目が合ったのは1秒くらいだったと思います。さっきまでとは違う表情でした。
「あなたが悪いんじゃないの」
そう言い残して、年配の女性はホームに降りていきました。紙袋を持ち替えて改札のほうへ向かう背中を、私は閉まるドア越しに見ていました。
そして...
帰り道、あの一言がずっと頭の中にありました。怒っていたはずの人が、最後に残した声は少し掠れていて、責めるような調子ではありませんでした。あの人にとって席を譲られることが、私の知らない何かとつながっていたのかもしれません。理由はわかりません。
けれど家の最寄り駅の改札を通るとき、次に同じ場面があったら、立ち上がる前にまず相手の目を見てみようと思いました。声のかけ方1つで届くものが変わるのなら、それを知れたことは、あの電車での数分間のおかげです。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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