不機嫌な顔で振り向いた女性が、抱っこ紐の息子を人混みの圧から守ってくれた
この電車に、息子を乗せるしかなかった
その日、俺は生後2か月の息子を連れて、妻の実家へ向かっていました。車を使えない事情があり、電車に乗るしかありませんでした。
乗った瞬間に、選択を間違えたと思いました。車内は人でいっぱいで、抱っこ紐の息子まで圧が届きそうでした。
俺は自分の体を少し丸め、息子の頭のまわりに腕を添えました。せめてこの子にだけは負担がかからないようにしたかったのです。
前の女性が、露骨に嫌な顔をした
揺れるたびに、抱っこ紐の留め具と俺の腕が、前に立つ女性の背中へ当たってしまいました。下がりたくても、後ろにも横にも動けません。
女性は何度か肩を引き、こちらを気にしていました。迷惑をかけていることは分かっていましたが、息子から手を離すことはできませんでした。
声をかけようとしても、周りの人の圧で体を支えるのが精一杯でした。俺は、次の駅まで何とか耐えるしかないと考えていました。
彼女の背中が、急に頼もしくなった
次の駅で、さらに人が乗ってきました。こちらへ流れ込む人の波を見て、息子を守る腕に力を入れました。
そのとき、前の女性が立ち位置を変えました。足を開いて踏ん張り、俺たちのほうへ来る圧を背中で受け止めてくれました。
さっきまで嫌そうにしていたはずの人が、赤ちゃんに気づいて、何も言わずに守ってくれている。そのことが分かった瞬間、俺は自分がどれだけ助けられているかを知りました。
そして...
女性が降りる駅に着きました。人をかき分けてドアへ向かう背中に、俺は頭を下げて声をかけました。「ありがとうございました。助かりました」
女性はうなずいて、ホームへ降りていきました。名前も知らない人です。もう会うこともないと思います。
それでも、あの数分間の背中は忘れられません。迷惑そうに見えた人が、事情に気づいたあと、誰よりも頼れる場所になってくれました。息子がもう少し大きくなったら、知らない人に守ってもらった日のことを話したいです。
(30代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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